軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第93話 春の豊作を祈念する祭り 7歳 春

7歳になったので、僕は子供ではなく小さな大人なのである。

父ちゃんの後を継ぐべく、仕事について回ることにした。

春は漁業から農業へと仕事がシフトする時期である。

まずは農業チャレンジだ。

「トール、無理はするなよ?」

「大丈夫!できるから!」

農業で最初にやること。

それは冬の間、雪をかぶっていた農地の土を起こして種まきの準備をすること。

雪解けでぬかるんだ土に鍬は容易に入るのだけれど、水を含んで重くなった土を天地返しするのは大変だ。

「む、むむっ…ぐっ…」

「いやほんと、トール無理するなよ?な?あとで牛に鋤を引かせるんだから」

「…はーい…」

鍬が畑に刺さったまま抜けなくなったのを見かねて、父ちゃんが声をかけてきた。なーんだ、家畜を使うなら最初から言ってよ。

「よーしよし、動くなよ―」

「ブモー!」

父ちゃんは2頭の牛を連れてくると、木製の 頸木(くびき) を渡して革紐と縄で装着した。

このあたりで使われている鋤はアルドといって、木製のごくシンプルな形をしている。

基本的にはT字型の頸木から伸びて畑に突き立てる斜めの棒であって、先端には銀族の刃が装着されている。

この棒の先についた刃をを牛に曳かせて土を切るように掘っていくための農具だ。

土を返すような機能はなく、単にまっすぐ曳かせていく。

それだけでは土が耕せないので、縦横斜めと何回も泥の畑を往復する。

畑の土をみじん切りにしていくようなイメージだね。

牛は自力で方向を決められないから、もーもーと歩く牛を人間が後ろで鋤をコントロールしながら泥だらけの畑を一緒にずうっとついて歩くわけで。

足が短くて体力のない僕にはつらい。

「…父ちゃん、畑って大変だね。次は何をするの?」

「そうだなあ。麦の種まきの時期まではしばらくあるし、最初はラディッシュやカブを撒いて様子を見るかな」

「知ってる!ラディッシュとカブは早く採れるんだよね!」

「ははは。トールは賢いなあ」

村でとれるラディッシュは、皮が紫で中身が白くて、ちょっと辛い。

形が丸いのもあるけど、やや細長いものが多い。

薄くスライスして生で食べたりする。

30日ぐらいで収穫できるので、母ちゃんはよく塩ニシンに乗せて食卓に出す。

カブは、ラディッシュより少し大きくて丸くて外見も白い。

鍋で茹でて食べることが多くて、イラクサのスープに入れることもある。

かじると少し甘みがある。

収穫には40日ぐらいかかるかな。エリン姉は好きらしい。

どちらも大事な春野菜だ。

去年植えたシロツメクサが窒素固定して地力を豊かにしてくれていたらいいんだけど。そろそろ干からびた玉葱と塩漬けキャベツとイラクサ以外の野菜を食べたい。

「大麦を植えるのは、その後だな。今年の作付けは広くしたほうがいいだろう」

「ふうん。お酒を作るの?」

「…トール。酒はいいぞ」

「僕、お酒の味はよくわかんない」

「大きくなったらわかるさ」

お酒の味はわからないけど、銀貨になりそうなのはわかる。

甘いお茶のほうが体に良いし美味しいと思うんだけどなあ。

商売と違って農業はよくわからない。

お酒の味の良さもよくわからない。

フィヨルドの山の向こうに何があるのか。

海の水平線を超えた先に何があるのか。

世界は、わからないことばかりだ。

◯ ◯ ◯ ◯ ◯

家に帰ったら、母ちゃんとエリン姉が少しめかしこんでた。

青銅の腕輪をして髪にビーズを編み込んだりしてる。

「…なにかあるの?」

「夕方から、豊作を祈る祭りをやるんだって」

「急に決まったみたい」

「へえ」

そういえば去年はやらなかったような記憶が。

それどころか収穫祭もやらなかったな。

鯨とか鰊とかクナトルレイク大会とか、去年の秋はイベント目白押しで収穫祭を祝うどころじゃなかったものなあ

いや、海の 髪(ニョルド) に感謝の祭りはやったから、あれが収穫祭だったのかな

村長から大麦酒も振る舞われたし

「ちょうど良かったわ。保存食も悪くなる前に皆で食べたかったし」

母ちゃんが、鍋に野菜や魚をたくさん載せて父ちゃんに持つように言う。

なるほど。我が家は祭りでは食材を提供する振る舞い側になるんだね。

冬も無事に超えられたし、各家で溜め込んだ余分を共有しようという狙いもあるのかもしれない。

昼過ぎから、家の仕事を終えた家族がぽつりぽつりと村長の長船の前庭に集まり始めた。

料理で焚き火をするから外に集まるのか。こういうときは宿泊所は不便だね。

幸い今日は風が弱いから焚き火にあたれば寒くない。

「料理、始めちゃいましょうか」

母ちゃんが三脚釣トライポッドで鍋を焚き火の上から吊り下げ、イラクサのホワイトスープに鰊を加えたものを作り始めた。またなんか料理が進化してる。

周囲には美味そうな匂いが漂い始める。

「なんだ、この匂いは」

「あの鍋からだ」

「グリームルのところの奥方か。かなりの料理上手だと聞くぞ」

集まってきた人達が、母ちゃんの鍋に引き寄せられていく。

母ちゃん、すごいな。

「フレイよ、栄えと平和の神よ

輝くフレイよ、光と成長の主よ

大地を祝福せよ、雨を恵め

大麦と根菜よ、高く育て

豊作を与え、平和を与えよ」

歌が得意な人がフレイへ豊作を願い歌い始めた。

母ちゃんや僕達も二巡目からは合わせて謳う。

何回か歌っているうちに、だんだんと日が暮れて集まる人も増えてきた。

中には手に大麦酒の酒杯を持って、大声で歌う人までいる。

「あーあー、すっかりいい気分になっちゃって

建前的には、村長以外は大麦酒を作っていないことになってるんだけど…。

冬越しで酒樽も大麦も何もかも不足しているというのに、酒飲みの執念すごい。

呆れるより笑ってしまう。

大麦は最後の保存食という位置付けなので、いつどれだけの分量を大麦酒に回してよいのか管理が難しい。

「村営で大きな酒造をやればいいのになあ」

樽は規格化できたし、各家の大麦酒を飲み比べて上手な人を担当におけばいい。

酒蔵だってフィヨルドの影になる場所に横穴を掘って木の柱で補強すれば夏でも低温を保てそう。雪を詰めたっていいしね。

「全くそのとおりですね。やりますか?」

「げえっ!」

少し焚き火から離れて酒飲みを見ていたら、村長婦人が現れた。

「蛙が潰れたような声を出さないでください。失礼な」

「すみません…ビックリしたので」

心の準備がないところに声をかけられたらそうなる。

僕は悪くないそ。