軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第76話 たくさん管理するお金がある…?できらぁ! 6歳 冬

郎党の人に渋々と付き従いながら、小声で謳う。

「きょうは やすみと きいたのに

おふとん さよなら またこんど〜」

僕のブラック労働哀歌のセンスも、だんだんと尖ってきてる。

冬だし、お布団作りたいねえ。鳥の羽毛も冬毛で肥えてそうだし。

ダウンジャケットとかもありだよね。

「少しは口を慎め」

「はーい」

さすがに注意された。

だけどさあ、少しぐらい現実逃避しててもいいじゃない。

「よく来ましたね、トール」

少し。いやだいぶ疲れた表情の村長婦人に迎えられた。

僕もね、呼ばれた理由はわかってるんだ。

だからこそ嫌だったわけで。

村長婦人の住居区画と来たら、少し見ない間にすっかり荒んでいた。

いつも綺麗に片付いて銀の杯が載っていた卓上には羊皮紙と羽ペンとインクが乱雑にとっ散らかり、壁の大きな黒板には何度も何度も几帳面な小さな文字が書かれては擦って消された跡がある。

ついでに村長婦人の目の下には化粧で消せない濃さの隈も見えていたりしたけど、僕は見えないふりをした。

「トール。お金は好きですか?」

「…まあ、それなりに」

「それは良かった。お金の計算は得意ですか?」

「…それなりに」

「それは、とても良いことですね」

ニッコリと笑う村長婦人の笑顔が怖い。

村長婦人はいつもの、薬草茶を勧めてから優雅に雑談をして、というスタイルはかなぐり捨てていた。

◯ ◯ ◯ ◯ ◯

「お金の計算に、とても苦労しているのです」

「まあ、そうなりますよね…でも、儲かったんですよね?」

「率直に言って、儲かりすぎたのですよ」

この秋は突発的にいろんなことがあって、村はとっても儲かった。

だけど正確にいくら儲かったのか、よく分からずに困っている、らしい。

手元に銀貨が残っているから現金の計算はできるけれども、かかった人件費の計算もしないといけないし。

「儲かった分は、働きに応じて還元しないといけません。でなければ村長としての地位の 鼎(かなえ) の 軽重(けいちょう) が問われます」

「 仰言(おっしゃ) るとおりかと思います」

村長の手元にいっぱい銀が残りました。

村人はただ働きで疲弊しました。

では、困るわけで。

少なくとも、僕の目指す世界じゃない

その点は村長婦人も一致している。

「ですが、いったい誰にいくら払えばいいのか。対外の事業に疎い私では正確なところがよくわからないのです。夫もよくわからないようですし…」

まあ、村内で蜜酒飲んでただけの村長ではわからんよね。

その点は同情する。

例えば派遣される人の費用をいくらに設定するか?

村にいてお金になる仕事と比較して儲かるように設定しないといけないよね。

つまり労働原価をいくらに設定するかの問題発生したり。

こうした問題が無数にある…らしい。

「…誰のせいでしょう?」

「誰でしょうね?」

不思議なことに、村長婦人が強い視線で僕の方を睨むんだ。

僕の背後に悪いやつがいるのかもしれない。

「はあ…わかりました。考えてみますよ」」

ため息と共に、ブラック労働を受け入れる。

僕が仕掛けたことなんで責任取れ、と言われるとちょっと断れないのがつらい。

村長はもともより、村長婦人も文字を書くのは得意だけれど、計算は不得意っぽいからね。

自慢じゃないけれど、たぶん僕が村で一番計算が得意だ。

もっと言えば計算できるのが僕だけかも知れない。

そこは仕方ない、と諦めよう。

僕は立ち上がり、椅子を借りて背伸びしながら大きな黒板に、村内事業会計一覧、とルーン文字で書く。

「まずは、村の秋の収益を一覧化することから始めましょうか」

昔の村の収益は構造も計算も簡単だったんだよね。

去年までの村の事業一覧を書いてみると、三行で終わった。

・漁業 : 鰊(にしん) 、 鱈(たら)

・水産加工業: 風乾鱈(ふうかんたら)

・卸売交易業:風乾鱈や毛皮

これらの事業収益を全部村長のところに集約して目の届く範囲の働きを評価して分配すれば良かったから、資金管理も簡単。

あとは手元に銀貨が何枚残るかで計算すればよかったわけで。

「では、今年の事業を書いてみましょうか」

こちらは三行では終わらない。

今の村の事業はもうちょっと複雑になってるんだ

◯は新規の事業ね。

・漁業 :+鯨の臨時収益

・水産加工業:塩鰊、燻製鰊、冷燻鱈、風乾鯨、燻製鯨、鯨油

◯製薬業:鱈肝油蜂蜜飴・薬草蜂蜜薬

◯木製品製造業:クナトルレイク盾、規格化樽、エル巻尺・エル定規

◯塩製造業:+製塩所

・卸売交易業

◯建設派遣業:暖房床技術者派遣

◯娯楽業:クナトルレイク大会主催

◯教育・学習支援業:クナトルレイク研修生の 招聘(しょうへい)

「うわぁ…」

自分で書いていて引いた。

すっっごく増えたなあ…。

ちょっと一年で増やし過ぎてしまったかもしれない。

その結果…。

「トールステイン!ちょっとやり過ぎたのではないですか?」

「…はぁい…」

村長婦人にお小言をいただく羽目になるわけだ。

こうなるから長屋敷には近づきたくなかったんだ…。

でも言い訳させて欲しい。

ほとんどは僕が企んだことじゃなくて、無茶振りされたのを打ち返しているうちに、気がついたらこうなっていただけで。

「まあ、とにかく今の村の事業は複雑になりましたから、計算することも増えましたよね」

村長婦人の机上には頑張って計算しようとしたけれど挫折した後、という感じの小さな黒板と貝殻棒が転がってた。

素朴に単品商売していた商店が、いきなり総合商社になったようなものだから管理が追いつくわけ無いよね。

「それと、出ていくお金のことも計算しないといけません」

お金が入ってくるだけなら「儲かりましたね!貯めておきましょう!」で済むんだけど、村ではこの秋と冬に大きく投資もしている。

今季の事業投資(予定含む)

・宿泊所建設

・大型製塩所建設

・大型冷燻所建設

・暖房床家畜小屋建設

・2隻の 長船(ロングシップ) 整備

・規格化樽製造

・クナトルレイク盾製造

これらの事業に投資するお金を、儲かったお金の中から適性に配分していかないといけないんだ。

こうなるともう「税を取ったから、あとは慣習で働いてね。報酬は気分で」という村長マネジメントでは埒が明かないことは理解してもらえると思う。

そもそも、村長に新規事業において働く人の評価とかできないからね。

「普通は事業部ごとに責任者を立てて収益と評価を管理させるのが一番なんだけど…」

「ダメです。任せられません」

「ですよね…」

僕は村人の有力者の顔を幾人か思い浮かべ、取り消した。

あかん。どいつもこいつも丼勘定と中抜きで蜂蜜酒に浪費しそうな奴らしかおらん。

人に任せる方式は、この村では無理だ。

となれば、《《会計の仕組み》》自体を構築しないといけない。

いったい誰がそんな村の《《経営管理手法を構築》》するようなことを?

僕しかいないよね。

「できらぁ!」

と、言えたらいいんだけど。

…ほんとにできる?

まずは、簡単に考えよう。

あるいは簡単にできることを考えよう。

とにかく単純化するんだ。

村の内部管理の理屈はともかく、現金の受け渡し発生箇所は分かっている。

交易商人と対外窓口だ。

村内でどれだけものを作っても交易を通さないと現金化できないし、

村と村の間で人の派遣と受入で発生する現金は対外窓口を通す必要がある。

だから、商人と村長が金勘定の足し算引き算ができれば、とりあえず手持ち現金(銀)が枯渇することはない。

卸売交易業は、商人に計算を任せよう。終わり。

次は対外窓口、つまり村長側で管理する収益だね。

床暖房技術者の派遣と、クナトルレイク研修生の受入が該当する。

これも村長のところで現預金(銀)を勘定すればいい。

値付けは工夫しないといけないけれど、原価計算よりも市場価格で決まる気がする。

赤字にだけならないように気をつけて、できるだけ高く吹っかけて欲しい。

村長か村長婦人に値段交渉を任せよう。終わり。

残るのは、村内への事業貢献に応じた人件費の配分になるね。

幸いなことに村の経済は基本的に自給自足だから、製造業も原料を輸入ではなく調達しているから、村内の人件費に換算できる。

もっと村が大きくなって、例えば建設用の木材や石材を輸入するようになると全然違ってくるんだけど、今は考えない。

だから漁業と水産加工業は、村を上げての事業だから配分は簡単なんだよね

儲かった分を参加者の皆で分けましょう、で済む。終わり。

◯製薬業。村長婦人が薬草を取りまとめたので彼女に権利が帰属するとも言えるけれど、家の秘伝を出した人にも分配したい。母ちゃんのように加工方法で貢献した人もいる。村長婦人は事業全体が見えているし、任せちゃってもいいかな。終わり。

…という感じで、残り全部の事業について管理方法を考えるんだ。

僕が。6歳の平民の僕が。

今更だけど、僕がやってしまっても良い仕事なんだろうか?

まあ、やるんだけど。