作品タイトル不明
第55話 落ちていたので拾って使いました 6歳 晩秋
僕は眼の前に積まれた、真っ直ぐな板と綺麗に巻かれた縄を手に取り、一つ一つを検品する。
エル定規とエル巻尺。なかなか良い出来なんじゃなかろうか。
1エルが約50cmだから2エルで1メートル、ぐらいか。
「木工の実用には、もうちょっと、大小の縮尺も欲しいよね」
精密加工なら100分の1、通常の精度なら10分の1、大雑把に10倍、ぐらいの大小サイズは欲しいところ。ついでに呼び名や想定の用途も考えてみた。
呼び名、目盛りサイズ、(想定の用途)
麦エル 100分の1エル=0.5cm (精密作業)
指エル 10分の1エル=5cm (木工)
1エル 1エル=50cm (布の標準)
櫂エル 10エル=500cm (船や測量)
このくらいの単位系と呼び名があれば、建築にも使えるだろうし、日常使いもしやすいはずだ。
「この柱を、指1つ分短く切って!」とかね。
とりあえずは、村の宿舎建設と交易用樽の規格サイズに使われることを期待して、建築現場に毎朝、置き忘れてくることにしよう。
しまったなー最近、忘れっぽいからな―。ひょっとすると、建築に従事した人も便利だから家に持ち帰っちゃうかもなー。困ったな―。どうしよーう。
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僕は検品だけすることにして、量産は奴隷の人達に任せている。
彼女たちのほうが仕事は丁寧なんだ。
一家に一セット普及させる計算でも、村内の需要はたかだか数十セットに過ぎない。
でもね、将来的な使い道は多いはずなんだ。交易品にだってなるかもしれない。
予算がついて労働力が豊富な今のうちに、出来るだけたくさん量産して溜め込んでおくつもりだ。
村中の主だった男達と男の子が伐採に出かけてしまったけれど、僕は村長の長屋敷で 机労働(デスクワーク) 。
クナトルレイクへ出場する村へ送付する、出場要項と 掟(ルール) の文案を練ったりしている。
参加人数、同行者の身分の指定、宿泊所の寝具や食料は持たせてくれとか、薪や競技の道具はこちらで用意するが代価は用意してね、等々…。
通知すること、調整することは多い。
「あとは…エル定規とエル巻尺を、見本につけるかな」
おそらくだけど、クナトルレイクへ出場する村は、競技場や道具のサイズも知りたがるだろう。事前に送付する出場要項と掟、つまり競技規則にはエル単位系で記すから、ついでに定規と巻尺も見本としてつけてあげようかね。
僕は親切なので知識は広く共有しちゃうぞ。
実のところ、水時計で測っている試合時間をどうやって共有するかも悩んでいたのだけれど、水桶、水位、穴のサイズをエル単位系で記述してしまえば、試合時間も同じにできる。秒単位の細かい時間計測については、いつの日か機械時計が発明されることを期待しよう。
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「材木、なかなか来ないですね」
「それはそうよ。1日かそこらで伐採できるものじゃないから」
「わかってはいるんですけど…」
村長たちが張り切って出かけた伐採と運搬作業は、宿泊施設建設計画に必要とされる労力と時間の半分以上を占めている。
大型建築物に使えるような大木は、建て替えなどのために日頃から目をつけられいて印もされているようなのだけれど、当然ながら人里からは近くにはないわけで。
現場の大木へ辿り着くまでだけで半日がかり。1日では作業が終わらないので伐採キャンプを設営する。大木を切り倒し、枝を払い、樹皮を剥がし、それから牛や馬に曳かせたり川に流したりして運搬するわけだ。
聞くだけで筋肉と腰が痛くなりそうな重労働を、全て人力で、柱の数の分だけ行うのだから、期間がかかるのも仕方ない。
複数の班に別れたりとか、運搬が楽な川沿いの現場を優先して、など効率的な伐採計画をしているとは思うけれど、雨が降ったりすれば斜面は滑り、川は増水し、伐採も困難になることは想像に難くない。
「天気、崩れないといいな…」
幸い、晩秋の空は雲こそ出ているけれど晴れている。
作業が遅れて欲しくない気持ちもあるけれど、それ以上に怪我人は出て欲しくない。
村長達が政治とか何とか難しいことを考えているかは知らないけれど、本質的にはたかがお祭りだからね。
面子はちょっと潰れるかもだけど、中止したり延期したって良いんだから。
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さて。山から材木が到着する前に、村側でもやっておく事がある。
建設する敷地の決定と基礎の整備だ。
敷地は村長の希望で長屋敷の傍と事前の話し合いで決定している。
来賓を泊めるための施設を、まさか村外れに建設するわけにもいかないから妥当なところだろう。
そして建設地の基礎の整備を任されたのが、僕の推薦と村長婦人の認可により決定した、我らが父ちゃんなのである。
「できれば父ちゃんも伐採の方に行きたかったのだが…」
「なに言ってるの!この役目は父ちゃんしかできないよ!」
実際、その通りなのである。
僕は長屋敷サイズの床暖房なんて建てたこともないし、そもそも長屋式の柱の基礎がどんな風になっているかも知らない。
歴史の教科書で見た昔の家のように「大きくて平らな石が柱受けに置いてあるんだろうなあ」と想像しているぐらいだ。
その基礎の下に煙道トンネルなんて通した日には倒壊待ったなしだから、上手いこと迂回して崩れないよう煙道トンネルの経路設計もする必要がある。
煙がうまく流れなかったら、煙道トンネルを掘り直したりするかもしれない。
要するに、よくわからんから現場で試行錯誤するしかないのだ。
そして、僕のようによくわからんことを言う子供の技術的な試行錯誤を、理解して、一緒に考えて、実際に作業してくれるのは父ちゃんしかいない。
「父ちゃん、頼りにしてるよ!」
「お、おう」
とりあえず、父ちゃんと僕で村長の長屋敷の柱配置の正確な測量から始めることにする。
伐採で人が少なくなった長屋敷の広間に屹立する太い柱と柱の間の距離を測り、ルーン文字で手持ちの黒板に 貝殻棒(チョーク) で数字を書いていく。
「主柱と主柱の距離は…11エルと3指エル(約5メートル65cm)っと。意外に狭いんだね」
「トール、この棒と縄はどうしたんだ?。もの凄く便利だな…」
「でしょう?エル定規とエル巻尺っていうんだ。たくさん作ってあるから使ってね!」
「作ったって、トール、お前…」
「あ、違った違った!落ちてるのを拾ったんだ!作ってないからね!だけど、持って帰って使っても作った人は気にしないと思うよ」
「お、おう…」
父ちゃんは怪訝そうな顔をしていたけれど、納得してもらうしか無い。
エル定規とエル巻尺は、現場に落ちていたから使っている。
そういう 設定(ストーリー) だから!
そこは念押ししておかないといけない。
父ちゃんの様子を見る限り、定規と巻尺の便利さは使ってみれば一発でわかるみたいだ。
あとは普及する方法だけど、ここはフリードリヒ大王のじゃがいも普及法に倣って、置き忘れたエル定規とエル巻尺を回収するフリとか、探すフリをして見せた方が、却って皆が家に持ち帰って使ってくれるかもしれないね。
「さあ父ちゃん、続きをやろうか!」
「お、おう」
僕は、周囲の人にエル定規とエル巻尺を見せつけるようにして、父ちゃんと一緒に敷地の計測を続けるのだった。