軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35. 休日にはピクニックを

ヴァレーはいよいよ夏らしく暑くなってきて、日も長くなってきた。

僕たち子どもが就寝する時間でもまだうっすら明るいので、なんだか変な気分だった。

この時期は、葡萄の実が成長し始め、小作人たちが忙しくなる時期だ。

小作人たちの中には、忙しく働いて疲れているのに、日が長くなったことで感覚が狂って寝付けなくなる者や、強い日差しで気分が悪くなって倒れる者、腰を痛めてしまう者などが結構いるそうだ。

だから、クレメントさんのような旅の治療師をヴァレーに招くのだ。

町にも常駐の治療師はいるが、この時期はとても手が回らなくなる。

そこで、ヴァレーでは夏から年内にかけて、治療院での従事を条件に、長期滞在できる家具付き住居と昼食を無料で治療師たちに提供している。

そうして、小作人たちを無料で診てもらっているのだ。

治療師たちにはヴァレー家から給金を出しているし、新酒の頃にはワインが振る舞われる。

それもあって、この仕組みは小作人たちにも治療師たちにも好評だった。

これらは全てヴァレー家が出資しているからこそ可能なのだ。

この世界で『福利厚生』を取り入れているのは珍しいはずなので、小作人を大切にしているんだなと僕は感心したのだが、レミーによれば費用対効果を考えた結果なのだそうだ。

「ヴァレーの葡萄栽培に精通した小作人一人を育てる年月と費用を考えれば、年の半分だけ治療師を誘致して待遇を手厚くする方がはるかに効率が良いのですよ。結果、小作人たちは長く健康に働けますし、ヴァレー家の評判も良くなります」

(……これがヴァレー家、ひいてはおじいちゃんの考えなのか、それともレミーの解釈なのか。まだ判断できないな)

レミーは必要なことはしっかり指導してくれるし、変な私情を挟まない分、世話係としては十分なのだが、いかんせんドライだ。

うっすらとした前世でも、裏方仕事一筋で現場とあまり交流を持たない人や、経営者層などにたまにいた記憶がある。

考え方や経営方針の違いと言ってしまえばそれまでだけど。

(そもそもの意思決定がドライだから、具体的な数字を出したり、協力的な仲間やさらに上役を巻き込んだり、あの手この手で説得したなあ。今世でも、もし僕が経営を引き継ぐことになったら注意するポイントってことか)

前世からの積み重ねもあって、経営の勘所のようなものが徐々にわかってきたが、今日の仕事は終わり。

明日は休みだ。

僕はまだ成人前の子どもなので、4〜5日ごとに1日は休みがあった。

小作人たちが休む暇なく働いているのを思うと少し気が引けるが、子どもらしく休む時は休むと開き直っている。

とは言え、部屋に閉じこもっているのももったいない。

近場にのんびりピクニックでもできるところはないかと、おじいちゃんとおばあちゃんに聞くと、素敵な場所を教えてくれた。

朝食をゆっくり食べてから出発しても、馬車でお昼前には着くくらいの場所に、小さな湖があるそうだ。

町の人たちも、この時期はたまの休みに出かけるスポットで、浅瀬で水遊びができるらしい。

夏にぴったりだ!

急な話だったけれど、おじいちゃんとおばあちゃんも予定がないとのことなので、明日はリュカとメロディアを連れてピクニックに行くことが決まった。

次の日。体感2時間くらいだろうか。馬車に揺られて、目的の湖についた。

良く晴れた空は深く濃い青さで、日差しが強く、畔の芝生に反射して目が眩むほどまぶしかった。

それに、湖は話に聞く通り本当に小さかったけれど、水面にまだ 冠雪(かんせつ) をまとっている白の山脈が映り込むほど、透き通っていた。

おじいちゃんは足の悪いおばあちゃんの手をとって、ゆっくり歩いている。

僕も、きゃーとはしゃいでいるリュカが一人で駆け出さないように、しっかり手を繋いだ。

僕たちの後ろには、ランチボックスを持ったおばあちゃんの侍女もついて来ている。

さすが人気スポットなだけあって、畔の一角には簡素な木製の東屋が建っていた。

地面は芝生になっているので、その上に布を敷いて腰を下ろす。

ちなみに、おばあちゃんは心得ている侍女が椅子を持参していた。

日差しが遮られると、吹き抜ける風が涼しくて心地良かった。

思わず、ぐーっと伸びをすると、リュカも僕の真似をして伸びをするが、どうみても万歳なのはかわいかった。

「ん〜。すっごく気持ちの良いところだね」

「んんん〜、きもちいー」

「クク〜」

「っふふふ」

ちょうどお腹も空いた頃なので、侍女が手早く準備をしてくれて、先にランチを食べることにした。

僕とリュカは果実水、おじいちゃんとおばあちゃんは赤ワインで乾杯をする。

チーズ・ソーセージ・サンドイッチ・フルーツ・ナッツとシンプルなものだが、自然の中で食べるランチはなんでこんなに格別なのだろう。

特に、サンドイッチが本当に絶品だった。塩味のBLT…ベーコン、葉物野菜、チーズ、それに旬を迎えた濃く甘いトマトがたっぷり挟んであって、いくらでも食べられそうだった。

メロディアも、ゆでた鶏肉やトマト、フルーツを食べている。

…が、せっかくの綺麗な毛並みが果汁で真っ赤になったのが面白くて、つい吹き出してしまった。

お腹もいっぱいになったので、メロディアを洗濯がてら、リュカと湖に入ってみることにした。

まずは僕がズボンの裾をまくって、足を浸す。

透明だからなんとなく冷たいのかなと思っていたが、日に温められてちょうど良い水温だった。

(このくらいの冷たさなら、リュカでも水遊びできそうだな)

水遊びが好きなメロディアは、もうすでに悠々と泳いでいる。

リュカも上着と下着を脱がせて、ズボンだけの格好にすると、恐る恐る湖に入っていった。

メロディアが泳いでいる辺りでリュカが座り込んだが、本当に浅いので肩までしか浸かっていない。

水の冷たさにも慣れたのか、楽しそうにメロディアにぱしゃぱしゃと水をかけていた。

「めろちゃん、おみじゅ、たのちいね〜」

「ククク〜」

「きょうは、ひろ〜いおみじゅね〜」

「クク〜」

(確かに、いつもメロディアが水遊びをするのは大鍋だから、それに比べれば広いな。ふふっ)

長く水に浸かっているのも身体が冷えてしまうので、適度なところで切り上げて東屋で休憩する。

すると、リュカがおじいちゃんとおばあちゃんにメロディアの芸を見てもらいたいと言うので、初めて披露することになった。

賢いメロディアはタッチやお座りだけでなく、おまわり・ハイタッチ・足くぐりもできるようになっていた。

1人と1匹が次々と披露する芸に、おばあちゃんも侍女も喜んで手を叩いてくれる。

おじいちゃんも、ミンクリスが芸をするとは思っていなかったのか、目を丸くしていた。

「まあ、まあ!リュカもメロディアも、すごいわ!」

「えへへ〜、めろちゃん、しゅごいのっ!」

「……リュカは、テイムの才能があるのだったな。こんなことまでできるのか」

「メロディアも賢いようで、教えたらできるようになりました」

「そうか……」

おじいちゃんは何か考え込んでいるようだったが、その時の僕は眠気もあってあまり気にとめていなかった。

そうして、僕たちはぼーっとしたり、ちょっとお昼寝をして、また湖で遊んだり。

のんびりと、とても贅沢な時間を過ごした。