軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11. 石橋を叩いて

「この国を出る」と腹を決めてから、ぼくは準備に取り掛かった。といっても、秘密裏にだ。

もし母さんに不審に思われたり、バレてしまっては妨害が入るかもしれない。

そうでなくても、子どものぼくが大量の買い物をしていれば不審に思う人が出てくるだろう。

そう考え、ダミアン商会で取り扱っていない品は、商会経由で商人ギルドにお遣いの依頼を出すことにした。

ドニ氏が到着するまでは具体的な話は進まないが、決まってから準備をしたのでは遅くなってしまう。

もうすでに季節は冬なのだ。この国はあまり雪が降ることはないが、物流はどうしてもゆるやかになってしまう。

多少の損や無駄は承知のうえで、買えるうちに準備を進めておく。

それに、この旅にはまだ3歳のリュカを連れて行くのだ。

リュカが安全に、健康を損ねることなく、快適に旅ができるようにできる限りの準備をしたかった。

ちなみに、この国からアグリ国までは大きな街道が整備されていて、急げば馬車で3週間程の距離らしい。

けれど、冬の移動であることや小さな幼子を伴うことを考えると、雨雪の日は進めないし、丸一日ずっと馬車に乗っていることはできない。小まめな休養や休憩を挟む必要がある。

ダミアンさんとも相談したが、リュカに合わせた旅程にすると、少なくても一月半くらい。雪で足止めされることがあれば、もっとかかるかもしれないとのことだった。

そうして、人海戦術であまり日を掛けずに必要な品物を揃えることができた。

かなり費用がかかってしまったが、必要経費だ。暮らしが落ち着いたら、また稼げば良い。

品物は商会の一室に集められたので、ストレージにしまっていく。

ストレージには時間の概念がないので、食料品も気にすることなく収納できる。

それに、ぼくは魔力が多いので容量が大きい。そうでなければ、この量の品物を収納することはできなかったので、本当にありがたかった。

収納するついでに、後々ドニ氏とも擦り合わせができるように、木板に購入品や相談事項をリスト化していく。メモ書き程度だが、それでも情報共有が早くなるはずだ。

———

▼ストレージに保管

・医療品

・下級ヒールポーション×10本

・傷軟膏×5つ

・虫よけ薬×5本

・虫刺され薬×5本

・酔い止め薬×10本

・ヒール草×10束

・保湿剤×5つ

・包帯×2巻

・食料品

・塩×2袋

・大豆×1袋

・パン×10食分

・チーズ(ハーフカット)

・木の実×1袋

・野菜×3食分

・ハム・ベーコン・ソーセージ×各3食分

・トマトソース×2瓶

・ピクルス×2瓶

・ドライフルーツ×1袋

・水

・小樽×2つ

・水筒×3本

・調理道具

・ナイフ×2本

・鍋×2つ

・フライパン×1つ

・シルバーセット 2人分

・リュカ専用

・おむつ×30枚

・おまる

・おもちゃ

・幼児用ハーネス

・布類

・古布×1箱分

・クッション×5つ

・マットレス×1つ

・毛布×4枚

・毛皮×2枚

・衣服×上下10セット×2人分

・雨具

・長靴×2つ×2人分

・かっぱ×2つ

・傘×2本

・綿入りの温かい防寒具×2つ

▼要相談

・旅装。特にリュカ

・移動手段。馬車や護衛の手配の必要

・移動中の暖房・防寒手段。加湿もできれば

・野営道具。種類や購入の必要

・母さんの説得方法。修道院にどのようにして入ってもらうか

———

もしかしたら、品物は抜け漏れがあるかもしれないが、旅の合間に立ち寄る町や村でも補給ができるはずなので、気にしないことにしておく。

また、食料については、リュカがおやつなどですぐ食べられるような料理を、後で一気に作ってストックするつもりだ。

まだまだ、準備することはたくさんある。

次に、家の管理契約についてだ。

こちらはダミアン商会が契約書を用意してくれたので、内容を精査するくらいで問題はない。実際の締結は、ドニ氏の到着を待って行うことになっている。

そして、リュカが産まれる少し前から、ずっとシッターとして住み込みで働いてくれたエミリーさん。

ベルナールのことは伏せ、父方の祖父母がぼくたちを引き取りたいという申し出があったためという体ではあるが、エミリーさんには国を出ることを内密で話すことにした。

ぼくたちが国を出ることになれば、必然的にエミリーさんの雇用は終了することになる。

エミリーさんがいたから、これまで安心してリュカを育てることができた。

一切事情を話さず、さよならも言わず、この国を去るような不義理はやっぱりできないと思ったのだ。

「──ということで、ぼくとリュカはアグリ国の祖父母の元にいくことに決めました」

「事情はわかりました。…わたくしもこの家に住み込んでおりますから、サラさんのご様子には思うところがございました。まだお小さいリュカちゃんのためにも、肉親の方に頼れるのであればそれに越したことはありません。リュカちゃんはまだまだ手がかかりますし、これから物入りなこともあるでしょう。何もすべての責任を、ルイさんが負う必要はないと思うのです」

「エミリーさん…。これまで本当にありがとうございました。リュカもエミリーさんに懐いているので、しばらく泣き続けそうで今から頭が痛いですよ」

「わたくしも、本当にさみしく思います…。出国日は、そのドニ氏がいらっしゃるまではわからないのですよね?」

「そうですね」

そういうと、エミリーさんはうなづいてこう申し出てくれた。

「では、それまでは私もしっかりとシッターとして務めさせていただきます」

「エミリーさん、ありがとうございます…。よろしくお願いします。こちらからの急な違約ですし、次の仕事や住まいを探すにも時間がかかるかと思います。その分、給金とは別にお支払いしますので。そのくらいでしかお返しできなくて申し訳ないですが…」

「まあ!むしろそこまで考えていただける方がめずらしいことです。ありがとうございます」

「それと、申し訳ないのですが、ぼくたちが国を出ることは母さんにはまだ内密でお願いします。ドニ氏がきてから、説得をする手筈なので」

「わかりました」

これでなんとか粗方の目処は立ったが…。

(これが最後にして最大の問題かもしれない…。……リュカにどう話そう)

3歳のリュカに、二人で国を出て祖父母の元に行くことや、母さんとお別れなことを話すべきか、話すとしてもどう話したものか、ぼくはいまだに決めかねていた。