軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

はずれくじの使い方

目的の物を手に入れたグレイは、その辺りに散らばっている骨のうちいくつかを拾って、適当に束ねてから、意気揚々と山を下り始めた。

「先生、屍纏いというのは、強い魔物なのですか?」

「うむ。通常山の洞窟に住んでいることが多いんじゃがな。基本的には巨大になればなる程危険度が上がるとされておるが、あれほどの大きさになることは珍しい。例えばフレイムタンに燃やされたり、大きな魔物に踏まれたりしてすぐに命を落とすものなんじゃ。これだけ大きくなった糞スライムの核は珍しいのう」

途中から手に入った戦利品の自慢になってしまったが、一応は質問に答えている。

何とも機嫌が良さそうだ。

「この竜食山でいえば、どのくらいの強さの魔物でしょう?」

「ふぅむ。あれくらいのサイズになると、中腹より少し上くらいか。魔法使いがいればそれほど難しくない相手じゃが、近接の武器しかない場合は苦労する。そんな敵じゃな」

「あれで中腹より少し上、ですか」

「うむ。核を残して殺すのに炎が使えず、爆散させるしかないのに、体液が生き物を溶かすというのが本当に面倒でなぁ」

「炎に弱いのですか?」

「うむ、すぐ燃えて死ぬ。その代わり核も燃え尽きてしまうがな。一般的にはそのように倒す魔物であるため、この核の加工は奴もしたことがないじゃろうなぁ。さぁて、どんな顔をするやら」

結局のところ、目的は嫌がらせである。

ああして背を向けて逃走したのも、燃やし尽くして殺すのではなく、核を取り出すために必要だったのだと聞かされると、クルムは改めて気が抜けてしまった。

「つまり、燃やす魔法を使えばもっと簡単に倒せたと」

「そりゃそうじゃろ。普通に殺すだけなら大した手間にはならんわ」

「……しかし、逆に言えば戦い方を知らねば厄介な相手ですね」

グレイは戦う能力が非常に高いのだが、更にそれを補強するための魔物に関する知識が豊富だ。ついでに対人戦経験も豊富であるため、ありとあらゆる戦闘の達人と言っても過言ではない。

そんなグレイだから、簡単に倒せる相手だった。

その認識はしっかり持っておくべきだと、クルムは一人で反省をする。

グレイの常識に付き合っていると、いつの間にか自分までわけのわからない価値観に侵食されていきそうで心配であった。

「そうじゃな。初めて倒したときは手の皮膚をドロドロにされたからのう」

「皮膚を!?」

「そうじゃ。治癒魔法使いに治してもらわなんだら、なかなか厄介なことになっておったな。昔は生傷が絶えんでなぁ……」

さらりと語られた話は随分と過酷な過去だった。

「それは冒険者時代の話ですか……?」

「いや、王都へ行く前のことじゃから、今のお主より少し年下くらいじゃったか?」

「私より年下というと……、十二とか、十一とかですよ……?」

信じられない返事に、クルムは思わず確認をとる。

「だから、その辺じゃ。詳しい年齢など覚えておらん。それこそアンの家に世話になっていた頃じゃな」

「その年齢であれと戦っていたんですか?」

屍纏いを目の前で見たクルムだからこそわかる。

あれは、大人が裸足で逃げ出すような化け物である。

それを十の子供が手の皮膚をドロドロにして殺したなんて異常な話だ。

「あれよりは小さかったがのう。拳を突っ込んで爆破させてやろうってのが失敗じゃった。目論見は成功したんじゃが、顔にも火傷を負って本当にさんざんじゃった。糞スライムめ、思い出しただけで腹が立つわ。それから狩人たちと弱点を調べてのう……。フレイムタンにあっさりとやられたのを見て、なぜだかますます腹が立ったのをよく覚えておるわ」

「……アルムガルド家ではそれが当たり前だったのですか?」

「そんなわけなかろう。ま、人に歴史ありというやつじゃ」

グレイがこうして適当にはぐらかす時は、これ以上語るつもりのない時だ。

いくら尋ねたってそれ以上の詳細は聞かされない。

だからクルムは少しだけ角度を変えた質問をしてみる。

「先生は、先生のお父様を恨んでいましたか?」

「…………つまらん質問をするのう」

グレイは長く沈黙してからぽつりと答えて、そのまま坂道を下っていく。

機嫌を損ねたかとクルムが黙っていると、随分と時間を空けてから、グレイが再び口を開いた。

「まぁ、決して好きではなかった。じゃが、恨んでいるとすれば、儂が父を、ではなく、父が儂を、であろうな。儂みたいなのを息子に授かってしまったあの人は、普段から余程悪行を重ねていたに違いない。アルムガルド家が無くなっているのじゃから、それくらい分かるじゃろう? 儂はアルムガルド家にとっても、ハルシ王国にとっても、ま、もしかするとあ奴にとっても、とんだ外れくじだったというわけじゃ」

先を歩くグレイの表情は、クルムからはうかがえない。

ただ、グレイが生涯の中で、本当に自己肯定だけして生きてきたわけではないことだけは、はっきりと理解できた。

「……そしてそんな外れくじを握りしめて、王になろうとしておる者がおる。いやぁ、実に面白く馬鹿な話じゃのう」

「…………笑い事じゃありません、私は本気なのですから」

おそらく重たい雰囲気になっていることを理解したグレイは、冗談を言ってけたけたと笑う。それに対してクルムは、何とか普通に返事をすることができた。

「だからどうなるかわからず面白い。精々頑張るんじゃな」

「言われずとも。王になった後も先生のことはこき使うつもりですから、覚悟しておいてください」

「おお、調子が出てきたのう。本当に生意気な小娘じゃ」

大小二つの影は、時折小さな魔物につつかれている魔物の死体の横を通り過ぎながら、竜食山のなだらかな坂をゆっくりと下っていくのであった。