軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

手を取り合えた?

「わかりました、協力させてあげますから、いくつか約束事だけ守ってください」

ついに諦めたクルムは、偏屈な老人の性格を的確にくみ取って、気を引くような言い回しをした。散々言い争いをしている間にも、頭の中にあるどこか冷静な部分で、グレイの性格を探っていたのだろう。

一を聞いて十を知るような才女である。

グレイは素直に感心しながら、次の言葉を待った。

当然素直に約束を守るなんてことは口にしない。

クルムもそれをわかっていながら、話を勝手に続けた。

いちいちムキになっていると、いつの間にか明日の朝になっていそうだ。

「仮に勝てたとしても、ハップス兄上の顔をつぶさないようにしてください」

「どういうことじゃ」

「まずあなたが死ぬのは最悪諦めます」

「諦めるでない」

「では明日は一緒に謝りましょう」

「いやじゃ」

「話を続けます」

クルムから放たれたあまりに情のない言葉に、グレイは普通に言い返す。

もし弱いのであれば早々に死んでくれる方が助かるクルムである。

一緒に謝ろうと散々提案したのに断られたのだ。そんな自殺志願者には負けたら素直に死んでいただいたほうが、これからの計画に支障が出ないというものである。

ここでもう一度謝ることを提案しただけでも、情に厚い少女であると言えるのではないだろうか。

「先ほどお話しした通りです。ハップス兄上は勢力こそ小さいものの、武力を持っていると他の後継者候補から認知されています。ハップス兄上が突然私の勢力によって命を落としたとなれば、他からの監視が厳しくなり。いくらあなたが強かろうと、私の勢力は弱小も弱小。適当な罪をかぶせられて処刑されるのが関の山でしょう」

「それを機会に、お主が恨んでいるものを全員殺せばよいのでは?」

過程とかそれによっておこる事態とかを一切考慮しない、寄り道一切なしの最短の提案だった。もちろんグレイもほぼ本気で言っているわけではなく、会話の流れで提案してみただけである。

「あなた、本当に元貴族ですか? 魔物にでも育てられたのでは?」

「よく知っておるのう。アルムガルド家は王国の辺境、 竜食山(りゅうばみやま) と、 呪(まじな) い谷に挟まれた場所に領地を持っておった。魔物の唸り声が子守唄のような場所じゃったよ」

「……旧アルムガルド領。今となっては王国で多大な予算をかけて魔物を対策している地域ですね」

冒険者時代に何度か里帰りをしているから、今の故郷の状況はグレイもよく知っている。世話になったものたちの生活を奪ってしまった後悔がある反面、それによって魔物から手に入る恩恵の多くを失った王国に対しては、ざまぁみさらせと思っていた。

本気で魔物に育てられたような野蛮な年寄りの話は置いておいて、クルムはさらに話を続ける。

「……仮にそれが可能として、私が恨んでいるものをすぐにすべて殺した場合、国政が崩壊します。その影響は王国中に波及し、混乱を招くことでしょう。私は、王国に暮らしている民が傷つき死んでいくことを望んでいるわけではありません。あなただって知っているでしょう。王国がどれだけ広く、どれだけの人が住んでいるのか。飽くまで仕組みの中で何とかしたいのです」

「では、もし上手くいかず皆殺しの手段しか取れなくなればどうする」

「市井に逃れて財を築き、暗殺者でも何でも雇い、できるだけ民に影響が出ぬよう順番に殺します」

「それもできず、儂が暴れ散らかすことしか手段が残されていなければ?」

「そんなことにはならぬようにします」

「なったらどうすると聞いておるのだ。政治が乱れ、他国に侵略され、多くの民が死ぬかもしれんが、目的は果たせるかもしれぬ」

クルムは奥歯をぎりっと噛みしめ、震えるほどに拳を握ってグレイを睨みつけた。

そして歯から絞り出すように震えた声で答える。

「たとえそうなったとしても、あなたには頼みません」

「なぜ」

「理不尽に命を奪われることが許せぬからです。私がそれをすることが絶対に許せぬからです」

「ふむ」

グレイは鼻から大きく息を吐いて、何度か細かく頷き、椅子の背もたれに体を預けた。

「……よろしい。顔は潰さぬよう、見事勝利して見せよう」

「本当ですか?」

素直に従うと言ったのに、ついに疑われて確認されるようになってしまった。

しかしここまでのやり取りには、そうされるような関係になっただけの価値はあった。

クルムの本質的な部分は十分に見ることができたのだから。

「本当じゃ。さて、そうなると観客はいない方が良いな」

「……本当のようですね。心配せずとも見学者はお兄様の勢力の者だけになるでしょう。明日あなたが相手をする騎士は何をしでかすか分かりません。お兄様とて、醜聞にならないよう気を付けるはずです。気を付けるべくは、勝負が決まった後に袋叩きに合うことです。お兄様の顔を潰してしまっては、それを外に漏らすわけにはいかないと一斉に襲い掛かってくる可能性もあります。それも含めて何とかせねばならないのですが、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃろ」

「返事が軽いのですね」

こともなげに言ってのけるグレイに、クルムは当然疑いの言葉を投げかける。

「私は本当にあなたに命を預けて良いのでしょうか? 辛勝が一番困ります」

「辛勝となるくらいならば死んでやっても良い。ちょっとでも危ういと思ったならば降参すれば良かろう」

「いいのですね」

「良い。もし儂が気にくわぬと言ってそのまま戦い続けようが、お主の責にはならぬ。すべては儂の暴走で済ませればよいだけじゃ」

クルムは渋い顔をしてグレイのことを睨みつける。

グレイはその若い感情の変化を見て笑って尋ねた。

「なんじゃ、責任を転嫁するようで気が咎めるか? お主の覚悟はそんなものか? それとも、爺のことが思いのほか気に入ったのかのう」

「そんなわけないでしょう!」

「ならば決まりじゃ」

うまく乗せられたことに気づいたらしいクルムは、悔しそうに顔をゆがめる。

クルムからしてみればグレイは巻き込んだ相手。

どんなに無礼で身勝手な老人だとしても、自分が勝利するという大前提があるからこそ教育係として巻き込んだのだ。犠牲にするために連れてきたわけではない。

グレイから言わせれば青すぎてお話にもならないけれど、そこがまた、グレイがクルムを気に入ったポイントでもあった。

グレイは気分が良くて「ほっほっ」と高笑いをした。

面白い少女に出会えたことも気分が良かったが、ポンポンと言い返してくるさかしい少女をやり込めたことも気分が良かった。内心の割合は大体半々くらいだ。

やっぱり糞爺である。

やがて笑いすぎてむせこみはじめたグレイ。

『やはりこいつは死んだ方が世のため人のためになるんじゃないか』と、クルムはそんなグレイに冷たい視線を向けるのであった。