作品タイトル不明
誰が為に鐘は鳴る
「にゅぉおおお!」
「ふぉおおおお!」
洞窟から飛び出した氷の板は、幼女を乗せてレールの上を滑り続ける。
レールは最後の下り坂に差し掛かった。高角度からのキリモミで一回転する氷の板、上下の感覚がなくなり、視界がコマ切りのように景色が飛んでいく。
「あひゃひゃひゃひゃ!」
「ぬひひひひひひひひ!」
あまりの恐怖に笑うしかない。
そして、ようやくレールが水平になり氷の速度が低下してくる。
「うっしゃ! 幼女ちゃん! 後一息、気張るッスよ」
「ぬぅん!」
――――――――――――――――――――――
ハリウッドメガネこと、クリフォード セイレーンは焦っていた。
「目的地は城だ! 子供の足で速く進めるはずがない! 捕まえるんだ!」
鉱山から降りて来たハリウッドメガネは、護衛に指示する。
浮かれたように音楽を鳴らすアトラクションが思考を妨げ、彼の精神を乱す。
「落ち着け……城に向かうには橋を渡るしかないんだ……」
まだ遠くには行っていないはずだ。
「その辺りに隠れている可能性もある! 半分は捜索に当たれ!」
そう叫んだハリウッドメガネの真後ろで、お店の窓ガラスが内側から割れる……。
飛び出して来たのは、買い物に使うはずのカートだ。
そのカートを後ろから押すのは、ジェットブーツを履いた少女。
「い、いた……」
そしてカートの上には白髪の幼女が乗っており、視線は真っ直ぐに城へと向けられていた。
「あ……」
ハリウッドメガネは呆然として、すぐに護衛への指示が出せなかった。なぜなら彼は気づいてしまったから……。
城へ向けられる白髪幼女の目には、もう彼の姿など映ってはいないのだと……。
拳を握る。爪が手のひらに食い込む。
それでも彼は……
「捕まえろ……捕まえろ!」
――――――――――――――――――――――
「おお、買い物カート使えるわ!」
「……快適!」
カートを後ろから押しながら、使い勝手の良さに少女は笑う。もちろんカートの推進力はジェットブーツだ。
「おおっとぉ!! そうは行かないッスよ!」
横から飛び出してきた、追っ手の護衛をドリフトで躱わす。そして飛びかかって来た護衛を加速で躱わす。
そして目の前に現れた護衛を、やはりドリフトで躱わす。躱したせいで壁に突っ込もうとするカートを少女は壁を走って直角に曲がった。
お店でやったら間違いなく出禁になる行為だが、ここに店員はいない。やりたい放題だ。
「オバケ姉ちゃん! あそこ!」
「みぃえぇたぁー!」
湖の城に繋がるただ一つの橋。
湖に掛かる橋に到着した。
「うぉおおおお!」
一直線に伸びる橋をカートに乗った白髪幼女と、それを押す少女は疾走する。
橋には誰もいない。一番乗りだ。
しかし……
「跳ね橋をあげろ!」
ギリギリという音と共に、橋の先に見える跳ね橋が上がり始める。
幼女達の行手を遮る壁が迫り上がってくる。
「……」
「……」
二人の幼女は前方に現れた障害を、静かに睨みつける。
「……幼女ちゃん……覚悟はできてるッスね?」
「……もとより」
少女は空気を大きく吸い込み……白髪幼女はカートを強く握りしめる。
そして目をカッと見開いて――
「「うぉおおおおおおおお!!!」」
加速した……。
「跳べ! 跳べ! 跳べぇええええ!!」
徐々に迫り上がってくる跳ね橋に突っ込む。
「邪魔をするなぁあ!!」
斜めになった跳ね橋を発射台に、
空に舞い上がった。
全身を覆う浮遊感。
はるか下に見える橋、カートから自然と体が投げ出される。
それでも白髪幼女は、テレサは手を伸ばす。
その手を――
「ふんぬぉおおお!! 最 大 出 力!!」
少女が掴み取り、ジェットブーツからジェットが噴き出した。
本来ならエネルギーを大量消費して、一定時間浮く能力だが、二人分の体重で徐々に高度が下がり始める。
いくら子供の体重とはいえ二人分の重量は想定しておらず、落下のスピードを遅くすることしかできない。
「ぶべっ!!」
「ぬぎゅ!!」
なんとか橋に落下できたが、勢いは殺しきれずゴロゴロと二人の幼女は橋を転がる。
そしてベタンとうつ伏せに倒れた。
「……ぐぎぎ」
「……ぬぬん」
しかし、全身が激痛に苛まれようと、体が埃まみれになろうと二人は立ちあがろうとする。
その目は死んではいない……。
『舐めるなよ』と言わんばかりに好戦的だ。
そして――
「にゅおおおおおおおおおおおおお!!」
「ふぉおおおおおおおおおおおおお!!」
ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ!!
自分の足で走り始める。
誰もいない橋の上を、ただひたすらに走り続ける。
長かった夜が終わりを告げる。
ゆっくりと登り始めた朝日が湖に反射して、橋を明るく輝かせた。
「にゅおおおおおおおおおおおおお!!」
「ふぉおおおおおおおおおおおおお!!」
朝日の反射する湖を幼女達はガムシャラに走る。
そして白髪幼女の手が、城の扉に触れた時。
ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……
城の鐘がうるさいほどの祝福の音を奏で、遊園地に響かせた。