軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

微妙な距離感

「……」

「……ええっと……」

目を伏せながら立ちすくむ白髪ママと、スカートにしがみつきながらコチラを窺う、白髪幼女……。

いや、この状況……どうしろってんだよ……。

「と、とりあえず座ったらどっスか?」

白髪ママは私に軽く黙礼してソファーに座り込む。

白髪幼女も座ったので、私はソファーの一つをゴリゴリと移動させて対面に座った……。

「……この度は――」

「ちょっ、ちょっと待った!」

母親が口を開こうとしたので、先んじて口を開く。

状況は分からないが、先にコッチの立ち位置を示したほうが良い気がする。

「予め言っておくッスけど……私は何も分かってないッス。分かってないけど、ソッチの事情は聞くつもりはないです」

聞くつもりがない、と言うより。聞いたら本格的に逃げられない所まで巻き込まれそうで聞きたくない。

意気地がないと笑うなら笑えばいいよ。そんなもんより命の方が大事だ。……死なんらしいけど。

「……ありがとうございます」

白髪ママは、軽く安堵したようにお礼を言ってきた。

お礼を言うのかぁ……つまり事情は聞いて欲しくはないって事ね。いかん、この白髪ママ……ナチュラルに私に事情を伝えて来やがる。

これは……なんとも厄介そうな話だ。

頭痛のしそうな頭を振ると、白髪幼女と目が合った。白髪幼女は瞳に涙を溜めて、私を警戒している。

どうしたもんかね……。

正直、知ったこっちゃないと無視するのが一番簡単なんだけどね。豚貴族からの仕事つったって、私は了承した覚えもないし、一方的な契約だ。

でも、だからと言って、この白髪親子を放っておくのも寝覚めが悪すぎる。

仕方がない。ここはお金の為と割り切って、豚貴族の思惑に乗るしかないか……。

「一つだけソッチの意思確認をするッス。……ここから抜け出したいッスか? それともココで誰にも見つからないように隠れていたいッスか?」

コレだけは聞いておいてもいいだろう。いったい豚貴族が、私を何に巻き込もうとしているか知らないが、無理に閉じ込めていると思われて、寝首でも掻かれたらたまらないからね。三十万ネルスがどの位の価値かはしらないが、割に合わない仕事をする気はない。

「私達を……ココに置いて貰えると助かります……」

「おけ……」

う〜ん……つまり豚貴族に誘拐されて来たという、一番ありそうな線は無くなったね。

かと言って善意で行動してるなんて事は、絶対にない! 断言してもいいよ……豚貴族はそんなタマじゃない。

きっと後ろめたい事があるか、自分の利益の為に行動しているかの、どちらかだね。

「そうと決まれば、差し当たって必要なのは食料ッスね」

食べ物さえあれば生きていくのには困らない。人間的な生活が出来るかと言われるとノーだが、食料さえマトモなら生命の維持には問題ない。

一応、スキマの中に食料のストックはあるけど、三人を賄うには足りないよねぇ……。

きっと豚貴族が私に求めている働きは食料の調達だ。

この親子の為に厨房から盗んでくるのを、黙認しようと言うのだ。確かに私ならなバレずに調達は可能だろう。

豚貴族がソレを望んでいるのなら仕方がない。

しかしねぇ……メシの配給すら出来ないとか、どんな事情だよ……。いやいや知りたくはねぇんだけどね!

「食料は私が何とかするッス。アソコのキッチンにある物は適当に食べちゃって下さいな」

こうなる事を見越してか、豚貴族は鉄格子の扉は開けっ放しで出て行ったのだ。

つまり尋問室側、鉄格子の中と外はつながったままだ。あっち側は豚貴族と軍人執事がくつろぐ為のキッチンが備え付けられているからね。

私は盗んできた食料を冷蔵庫に補充すればいいだろう。

「あーベッドは二人で使うといいッスよ」

「そんな……私達は」

「こっちの事情なんで、遠慮なく使って下さい」

一応ね。寝てる所をガツンなんて、たまったもんじゃないから。悪いけど、そんなに信用は出来ないよ。

寝る時はスキマの空間に引っ込むことにするつもりだ。

「んじゃまぁ……そう言うことで……」

私はゴロンとソファーに寝転ぶ。

「適当に過ごすといいッスよ。私も適当に過ごしますわ」

夜になったら、食料の調達と……情報の収集かな……。

深く関わるのは嫌だけど……最低限の安全を図るための情報収集は必要だ。

白髪親子の事情は知ったことではないけど、下手に巻き込まれないようにだけはしなくちゃね。

それに、この白髪親子の面倒を見ると決めたのは、何も金だけが目的でもない。もちろん私の善意……とかではなく、軽い一般常識が欲しいからだ。

差し当たって、三十万ネルスがどれほどの価値か知るのがいいかな。

白髪ママは再度私にお礼を言うと、部屋の中を軽く調べた後、考え事をする為にソファーに座っていた。

白髪幼女のほうは、母親の後を付いて回っていたが、母親が考え事をする為に静かになったことで、不安そうな顔を見せた。

「……」

私はその光景をボーっと見ていたが、ふと白髪幼女の瞳に涙が溜まるのを見てしまった。

……げっ。まさか泣き出したりしないよね……。

う〜ん、困ったぞ。私は子供が嫌いじゃないけど……好きでもないんだ。

泣き出した子供とかどうすればいいのか分からん。

私に子供をあやす技術が有ると思う?

かと言って泣く子を放っておいて、気持ち良く過ごせるかと言ったらそんな事はない。

ソレが出来るのは余程の大物だよ。

「……はぁ」

私はため息を吐いて、クローゼットまで行くとスキマを起動して、中からお菓子を引っ張り出す。

子供にはお菓子を与えときゃええねん。

「食べるといいッスよ……」

お菓子を渡された白髪幼女は目をパチクリさせながら、お菓子と私を交互に見つめた。

ソレあげるから泣かないで下さいよぉ……。面倒臭ぇから。

コレからしばらくは同じ部屋で過ごすルームメイトになるんだ。

精々、いい距離感を保とうや。