作品タイトル不明
白髪親子の同居人
「……人間どもめ。根絶やしにしてくれるわ……」
喉の奥から搾り出すような声が出てくる。
「今宵の獲物は……キサマだ!」
ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべた私は、哀れなる生贄を選択する。
――今晩の犠牲者は出ませんでした――
「ぎゃああ! 護られた!」
はい、ひとり人狼ゲーム『トレイター』をプレイしております。どーも私です。
「ヤメロ! 私を占うんじゃない! あ、あぁ……待って投票しないで! 一旦その霊力閉まって!」
占いによりトレイターと判断された主人公に、全員の敵意が向けられる。盤面は私に不利のようだ。
「おい! バーコード神父! お前もトレイターだろうが。私を庇う発言しなさいよ! ぎゃああ! コイツ私を切り捨てやがった!」
哀れ、私はトレイターとして釣られた。
くぅ〜……途中までは、上手く人間に擬態できて調子良かったのにな〜。
そろそろ現実に戻ろ。
牢屋に戻ってきた私は、ゲーム疲れを癒すようにソファーにダイブする。
ボヨ〜ン、ボヨ〜ンと跳ねたあと、いつものスポットに収まる。
ここ、ここ。このソファーの微妙な盛りが上がりを、避けながら背もたれに背中を預ける姿勢が一番シックリ来るんだよね。
腕を枕にまったり過ごしていると、バンッと音を立てながら豚貴族が乗り込んできた。
「おや、そんなに慌ててどうしたんスか?」
どしたの豚貴族。なんか余裕がねぇじゃん。
あれ? 豚貴族の巨体に隠れて誰かいるな?
「……」
ん〜? 美人な白髪の姉ちゃんだ。なんとなく居心地が悪そうな顔をしている。悪く言えば幸薄そうな姉ちゃんだな。
「……ひぅ」
目が合ったのは白髪姉ちゃんの腰の辺り。白髪の幼女が姉ちゃんの服を掴みながら、怯えたようにコチラを伺っていた。今の私より少し小さいか?
似てるな。姉妹かな。いや、もしかして親子かもしれん。
なんだ? こんな牢屋にその二人を連れてきてどうしようってのよ。
「……いたか小娘」
いるよ。私の牢屋なんだから当たり前だろ。
呟いた豚貴族は、私を視認すると、苦々しげな顔をしながら考え事をしているようだ。
う〜ん、豚貴族の顔からは葛藤が伺えるね。言葉に表すなら「どうする? ……いや、しかし」みたいな感じ。
いや、口に出せ。
まず説明をしろ。後ろの二人は誰だ。
そんな事を考えていたら、豚貴族は鉄格子を掴んで忌々し気に話しかけてきた。
「おい、小娘……キサマ金を欲しがっておったな?」
それがどうした?
「ならば仕事をくれてやる……この親子をココで匿うのだ」
「はぁ? 何言ってんだこのデブ……」
「しばらくの間、この二人を誰の目にも晒すな!」
思わず飛び出た私の暴言にも反応せず、豚貴族は勝手に話を進める。
「いや、さらすなってイキナリ……――」
私の戸惑いを無視して豚貴族は壁のスイッチを弄る。
突如ガラガラと牢屋に無機質な音が響く。音の出所に視線を向けると、いつも食事を提供される方の鉄格子がシャッターで閉まっていた。
「ちょちょちょッ! 本気で何やってんの!?」
そこってシャッター閉まるのかよ。
次に豚貴族は、鉄格子の鍵を開けると、扉を開け放った。そして顎で白髪親子に入れと促す。
白髪親子は大人しく私の居る鉄格子の中へと入ってきた。あ、どーも……。
「おいオッサン! いい加減に説明を――」
「いいか小娘よく聞け」
よほど焦っているのか、豚貴族は一方的に話を進める。
「報酬は三十万ネルス払う。破格だろう。条件は、しばらくの間この親子を、誰の目にも晒さずに隠すことだ……」
捲し立てるように私に話しかけていた豚貴族が、不意に舌打ちをした。
「チッ! もう来おったか……」
その言葉と共に、ハメ殺しの窓の外が薄暗くなる。
異常に気づいた私は窓の外を伺った。
なんだ……あれ? UFO? あぁ、飛行船か……。
異変の正体は、上空を通過した巨大飛行船だった。飛行船の影で日の光が遮られ、外を薄暗くしたようだ。
「……おわ!」
そんな光景を見ていたら、今度は見ていた窓の方のシャッターが降りてきた。豚貴族が操作して降ろしたらしい。
私の牢屋は、完全に外から遮断されてしまった。
なんだよコレ。部屋がシェルター並みに断絶されちゃったんだけど。まるで台風前の準備だね。
「……これから、この牢屋には誰も近づけないようにする。もちろんメシの用意もない」
「はぁ?」
メシが来ない? 本気で言ってんの?
「いや、この二人のメシとかどーすんのよ……」
「それも含めてキサマがなんとかしろ」
「んな無茶な……」
「……出来るだろ? 小娘ならな」
変な信頼ありがとよ。出来るよ、確かに私ならな……。
メシが来なくても、厨房から掻っ払ってくりゃいいんだから……。
つまり豚貴族は、ソレをやれって言ってるんだ。
いつものように牢屋を抜け出して、白髪親子を私が匿うために行動して欲しいんだな。
「ワシは忙しい……、後のことはキサマに任せた」
それだけ言って豚貴族は部屋から出て行った。
「……はぁ。私は了承してないんだけど……」
私はため息を吐いて、白髪親子を伺う。
二人は私の視線を受けて、申し訳無さそうな、そして居心地の悪そうな顔をしていた。
金をくれるのはいいけど、もっと分かりやすい仕事をくれませんかね? お貴族様よぉ……。
私は突如できた同居人に頭を抱えた。
「この二人……どっかから誘拐してきたんじゃねぇだろうな……」
そもそも、報酬の三十万ネルスって、いくらだよ……。