作品タイトル不明
プロですから油断しません
室内に入ってきたこコート姿の暗殺者。部屋に大穴を開けた魔法は連発出来ないのか、再びナイフを取り出した。それ何本もってんの?
「入ってきおったか!」
豚貴族は脂汗を流しながら反対側の壁際まで下がる。
「おい、待てキサマら!」
お、なんだ? この状況を回避できる案があるのか?
いや、どう見ても無理な状態だと思うんだけど……保険でも入っとく?
「い、いったい幾らで雇われた?」
おい、コイツまさか……。
「ワシなら倍! いや三倍出そうじゃないか!」
流石だぜ! 死ぬ寸前の悪党が吐く言葉を、恥ずかしげも無く言いやがった!
……あぁはなりたくないもんだね。人間プライド捨てたらお終いよ。
私の生き様を見届けな!
「きゃ〜三倍!? 三倍ですってぇ〜! 私達を見逃すだけで三倍ものお金が貰えるなんて! あなた達なんてラッキーなんでしょ!」
……
…………
………………うるせえな。プライド捨てなきゃ終わりなんだよ。
「ま、まて! 何が不満だ!」
豚貴族の懐柔にも無反応で距離を詰めてくるコート暗殺者。
「オジサマー! お金の高さが足りなくてよ!」
「そうか! ならば五倍でどうだ!」
ジリジリ……。
寄ってくんじゃねー!
「じゅっ、十倍! 二十倍! なんだ! 何が欲しい!」
「なるほど地位がお望みなのね!」
「なんだそれなら早く言わんか! どうだお主ら! ワシの子飼いにしてやろう!」
ジリジリ……ハァ……。
あ、少し呆れてる。コイツら仕事に真面目過ぎるよ。真面目過ぎる奴は損するぞ。
ジリジリ……。
やっべぇ! 分かってたけどマジで止まんねー!
「オージーサーマー! 誠意よ! 前金という名の誠意が足りないのよ!」
「なるほど! ワシもそう思っとったぞ! 確か現金なら少し持っておる! もちろん報酬とは別だ! お主らの懐に入れるが良い!」
絶体絶命、脂汗まみれの私達はワタワタと情けない姿をみせる。
「ほらこれだ! 宝石もあるぞ!」
追い詰められた豚貴族は形振り構わず懐から金目の物を取り出そうと四苦八苦している。
「さ、さぁ! 受け取れ!」
私は横に跳んだ。
「……くれてやるわ、俗物が……」
「ッ!?」
豚貴族は懐から取り出したスプレーをコート暗殺者達に吹きかける。……そんな事だろうと思ったよ!
シューッ! という音と共に部屋が曇っていく。
ちと目が沁みるな。催涙スプレーと煙幕って感じかな?
私はなるべく煙を吸わないように壁際を移動して、部屋からの脱出を図る。逃げ道はコート暗殺者達が開けた大穴だ。
しかし、四つん這いで移動する私の前にコート男のうち一人が立ち塞がった。
んげっ……煙幕の濃度が足りないよ! しっかりしてよ豚貴族。
「あ、あーワタシ何もミテないヨー……無害な少女ヨー、ほらガイコクジンだヨー」
「目撃者は子供だろうが消させてもらう」
らしいです、はい。
「ちょ、ちょっと待って! 喋んないから! ここで見た事は墓場まで持ってくから見逃してよ!」
手をバタバタ振りながら無抵抗のポーズを取る。だいたい私は本当に関係ないからね!
「悪いがコチラもプロなんでな……」
問答無用でナイフを取り出すコート男。
そっかープロかぁ……。
「……にしてはさっきからツメが甘くない?」
パリンッ! パリンッ! パリンッ! パリンッ!
同じような手に掛かるとはプロが聞いて呆れるわ!
私の腕に巻いた数珠の球が四つ弾け飛ぶ。身につけやすいように数珠にしていた 妖球(あやかしだま) だ。
「 氷滅球(ひょうめつだま) !」
「ッ!? クソッ!」
片手をコート男に向けて叫ぶ。コート男は反射的にコートを広げてガードの体勢に入った。
パキパキ……と締めつけるような音が部屋に響く。
馬鹿が! 発動したのは逆の手だ。
コートの男に向けている手は囮で、本当に発動したのは床に付けている手。凍りつく床が地を這う蛇の様にコート男の脚に走る。
どうだ!? 煙幕の煙で足元が見辛いだろ。
「あはっ、捕まえたぁ」
「なっ!」
床に着けた手から伸びた氷の道はコート男の足元を凍りつかせる。
足止めオッケー! 第二射いきまーす!
パパパパリーンッ!
更に数珠が四つ破裂する。
「 炎滅球(えんめつだま) !」
両手に現れるドッジボールサイズの火の玉を投げつける。どうよこの美しいコンボ攻撃。いざという時の為に考えてたんだよ。カッコよくない?
「クソッ!」
「…………」
「………………」
「……………………あれ?」
うん、私の炎かき消されました。
あれ、おっかしいな〜。全身が火だるまになる予定だったのに。コート男が手を振ったらボフッていって消えましたよ。
えっと……魔法とか使った? あ、違うね。コート男も不思議そうな顔をしてるわ。
慌てて腕を振ったら何か消えちゃったみたいな顔だよ。そして足を縫い付けてた氷は何の抵抗もなく動けるみたいだ。足についた泥を飛ばすようにするとパラパラと氷が落ちる。
「えー、私の 妖球(あやかしだま) 弱すぎない?」
「随分と発動の早い術だな……どこの流派だ?」
もしかして気を遣ってる?
「スーパー殲滅流です」
「物騒な名称の割に……その……」
ですよね。弱いよね。私もそう思う。
横目で豚貴族を窺うと、もう一人の暗殺者とやりあっている。こっちの暗殺者も相手してくれていいんですよ?
私は腕に巻いた数珠を確かめる。もともと十二個の妖球を連結していた数珠は、残り四個。つまりあと一回分ね。
スキマの空間には沢山あるんだけど身につけてたのは、この数珠だけだからなぁ。
しょうがない。ラスト一発。これでダメなら死んだふりだ。
「あーと……降参するッス。降参降参。 光滅球(こうめつだま) !」
パパパパリーン!
秘技! 会話の途中に必殺技!
「流石に掛からんよ……」
コート男は呆れたように、私の降参ポーズから放たれた光球を腕を払って掻き消す。
その瞬間、カッ! っと部屋全体を光が包む。
スタングレネードみたいでしょ? 攻撃力がないならこっちの方にシフトしなくちゃね。
「だから掛からんよ……」
次の瞬間には、私は胸ぐらを掴まれて宙吊りになっていた。
げぇ、コイツ本当に油断してないじゃんかよぉ……。
地のつかない足をバタバタと振ってみるが微動だにしない。逆の手にはナイフが振りかぶられていた。
あ、やべっ……。
「お館様ーーー!」
その瞬間、コート男の顔がブレて帽子だけが残った。
「お、おぉ! やっと来おったか! キサマは領主館に勤務していた奴だな!」
「はっ! 館内の異変に気づいて走り回っていたところです!」
「でかした! 賊を捕えよ!」
休憩室で休んでたはずの兵士か。ナイスだ兵士の兄ちゃん。君は出世するよ。
でも出会い頭にドロップキックはファンキー過ぎないかい?
顔面を蹴られたコート男は、ふらふらと立ち上がる。そこからは暗殺者二人と兵士の兄ちゃんとの戦いになった。おお、強いぞ兵士の兄ちゃん。
こうなったら私も負けてられないな!
うおおおおお!
「逃げよ……」
暗殺者とか相手してらんないよ。
兵士の兄ちゃんが相手をしてくれてる内に退散させてもらいましょ。
私は大穴から逃げて、牢屋に戻った。