作品タイトル不明
上司の視察は死ぬほど迷惑
「なぁ」
チャラいニーちゃん三人が、ダンジョンの簡易セーフティゾーンで幼女二人に詰め寄る……。
チャラ兄は眉間に皺を寄せて、ガラ悪く幼女達の目の前に置かれたテーブルに手をついた。そして反対の手でテーブルを指差す。
「食いもんある?」
そんなチャラ兄に帽子をクイッとあげてニチャァ……と笑う……どーも私です!
「ありますよぉ〜あるある。ポーションもあるよぉ〜」
揉み手でそう言いながら二ヘラと笑うとチャラ兄ちゃんは『ん〜……』と気のない返事をする。
「ポーションは間に合ってんだよな……食いもんくれよ。道中落としちまってさ……」
「あ、そうですぅ〜。ちょっと待ってね」
私はロッカーに手を突っ込んで、あらかじめ設置しておいたスキマから食料を取り出す。そして、弁当と凍った鍋を取り出した。
「今ある食べ物はこんなもんですかねぇ〜、どれくらい必要です?」
チャラ兄ちゃんは明後日の方を向きながら、私にだけ見えるように指を三本立てる……。
「お、シチュー入り鍋三個ですねぇ〜?」
「いやちげぇよ……弁当の方。なんで凍った鍋売ってんだよ」
「弁当二個しか在庫ないっすね。シチュー鍋なら在庫ありますよ」
「ラインナップよ……その鍋、凍ってんじゃねぇか。弁当二個くれ」
「まいどあり。弁当二個で600ネルスです。幼女ちゃん、包んであげて!」
「いや、たっけ……あと声抑えろよ」
チャラ兄ちゃんは焦ったように小声になる。
「おっとすんません。私は、ここに弁当を落としただけです」
「……そうだな。そして俺もここに600ネルスを落としただけだ」
私達はニチャっと怪しい笑みで笑い合って、弁当を交換する。
うん。こんな薬の売人みたいなやり取りしてんのもね。どーやら、ダンジョン内での商売が禁止らしいんですわ。
とは言っても、まぁね、ナァナァだよ。冒険者同士で交渉することもあるだろうし、商売と大々的にやらなけりゃ大丈夫やろ。……ま、私らがやってんの完全に商売だからアウトくせぇけど。
「お兄さん、次のセーフティゾーンのお供にポーションどうです? 定価1000ネルスのどデカいやつ」
私がテーブルにドンと一リットルポーションを乗せれば、チャラ男兄ちゃんは苦笑いして首を横に振った。あ、ダメ?
「だからポーションあるって、もっと小型の良いやつ……そんなデケーもん持ち歩けねえよ」
「そうッスかぁ〜そりゃ残念」
「それに高けーって、キミんとこ定価の三倍とってんだろ……」
「うふふ、こんな奥地ですから」
本当ならポーション買って欲しいんだよね。元値が高いからさぁ。売れたらその分……ね?
食いもんは賞味期限あるし。売った弁当だって、売れなければ自分たちで食べるつもりだったから、二個しか用意してねぇのよね。
「まぁ分かる。正直便利だし助かるわ。……ダンジョン的に怪しいとこだけどな」
「そこはほら……落としただけですしぃ〜」
「はは、そのとおりだな」
「んじゃ、また機会があればご贔屓に〜」
そう言って私達はロッカーに引っ込んだ。
うしうし、今日の稼ぎもボチボチかなぁ〜。
元値が掛かってる分、利益はあんまりだけど着実に稼いでるよ。でもアレだね、元値が掛かる商売って割と大変なんだねぇ。
売れなければ期限のあるもんは廃棄になるし、仕入れ分が丸損だ。私達はズルしてこれなんだから商売って大変よね。
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ガチャ……
「……本当に消えてんな」
「噂に聞いてたけど、ダンジョンで商売する怪しい子供って本当にいたんだな」
「……ま、この事は黙ってようぜ」
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はい、所変わって我が家の牢屋です。
今日はお話し合いのようで、いつものメンバーが揃ってますよ。
「それではウルペースダンジョンとベアリングダンジョンのスタッフによる交換研修について……」
「メンバーは選定済みですわね。移動の時のみ封鎖していた球体転車の使用を復活させますの?」
「……そうですね。地上を移動させるより時間も手間を掛かりませんしね」
「まぁ……そこら辺は柔軟に行きましょう」
なにコイツら? 戦争中とか言いながら交換研修とかやってんの? 仲良すぎだろ……。
「ライバルでも母体が一緒だからこんな感じなのかねぇ……」
ソファーにダラリと寝転がりながら、天井に向かって呟く。
あ〜、はやく終わってくんねぇかな〜。客になりそうな冒険者がセーフティゾーンで休憩してんのよ。
「……それでは、例の件ですが」
「……えぇ、例の件……ですわね」
おや、なんか会議室の空気が急に重くなったね。
キツネ顔と高飛車ネーチャンは、深く深くため息を吐いたあと、チラリとこちらに視線をやってきた。
おん? なによ……私らに関係することかい?
「……とりあえず、当日は緩衝地帯を完全に封鎖するということで」
「……そうですわね。その日はここの存在を無かったことにするのがいいですわね」
「いいですか? なるべく視察の目が向かないようにするのですよ」
「分かってますわ……まったく、なんで急にこんなダンジョンの端っこまで……」
二人は再度ため息を吐いて、私達を見た後、もう一度ため息を吐く。……なんなんだよコイツら。
こんな可愛い美少女を厄介者みたいにさ。
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会議が終わって全員が出て行った後、商売をしにダンジョンに向かおうかな〜と思ってたら、若造が台車を押しながら帰ってきた。
「お、どしたんです若造お兄さん?」
「……壁際まで下がってください。牢屋のなかに冷蔵庫を設置します」
「え? あ、はい。どうぞ?」
冷蔵庫ぉ? いやまぁ家具を付けてくれるんなら別にいいですけど……。
私達が壁際まで下がると、若造兄ちゃんは入り口を開けて、手早く小型の冷蔵庫を設置する。そして、流れるように入り口を閉めて鍵をかけ直した。
「えっと、ありがとうございます?」
「……」
私がお礼を言うと、若造は冷静そうな氷の顔を複雑に歪めて、呟くように語り出した。
「この冷蔵庫は……食料を入れるためのものです」
「まぁはい、冷蔵庫ならそうでしょうね」
何が言いてぇのよ。食い物入れる以外にねぇだろが。人でも入れんのか?
若造兄ちゃんは眉間に皺を寄せて、天井を向きながら独り言のように言葉を続けた。
「……今度……『総ダン長』がこのダンジョンに視察にくるそうです」
「……」
おっ……とぉ……。
総ダン長って私ら『小悪魔』を嫌ってるらしい、あの総ダン長ですかね?
「……もう分かっていると思われますが……我々は貴女達『小悪魔』を隠し通すつもりです」
「なるほど、それで冷蔵庫ですかぁ」
「お話が早くてなにより……幹部は出払ってココにはこれません。そして緩衝地帯は幹部以外は来れません」
「あ〜はいはい、その間食事が来ないので食料を詰め込んでおくからチンして食べろってことね」
「……そうです」
若造兄ちゃんは、そう言った後、とても難しい顔をして鉄格子を両手で掴んで顔を寄せてきた。
「当たり前の事を言いますが。総ダン長に貴女達の存在がバレると、非常に……非常に困ります!」
「あはい」
「絶対にあり得ない事ですが! 牢屋から出るのは……やめましょう……ね」
なにそれフリ?
「ちなみに、キツネ顔さんと高飛車さん……どっちのダンジョンですかね?」
「……どっちもです」
最後はお願いのように頭を下げて出て行った。
「だってさ」
「……ふむ」
「当日どうする? 近寄らんとく?」
正直、総ダン長に 相見(あいまみ) えるのは確かにコッチとしても危険だね。でも豚貴族の情報を得る機会でもあるか……。
う〜ん、さすがに危険が勝つか。
「……まぁ、状況をみてからかな」
「だぁね」
まぁその日まで時間あるみたいだしね。