作品タイトル不明
この世界ってガキも十分ヤベェよね
「ねぇマミぃ〜……今日って鍋だよねぇ?」
「そうよ〜長髪ちゃん〜。毎日シチューだと飽きちゃうもんね〜」
リビングでモニターを見ている脳内お花畑そうなマミぃ〜に私は口を引き攣らせながら話しかける。
「う、うん。マミぃ〜のシチュー好きだけどね」
「楽しみにしててね〜。母さん腕に寄りをかけて作っちゃうんだから〜」
「わ、わー。楽しみだな〜」
ねぇマミィ〜……何でお前、晩御飯の準備しねぇのかな? 具材とか見当たんねぇけど、ちゃんと用意してるよね?
というか不安しかねぇんだよな。この花畑マミィ〜はよぉ……。
平気で鍋開けたらシチュー入ってたってオチありそうじゃない? 『鍋に入ってりゃシチューでも鍋やろ』とか思ってそうなんだよな。
そんなん恐怖するわ。
さ、流石にねぇよな? 正直シチュー飽きたんだよ……。コツコツ残ったシチューを食料用のスキマ放り込んでたからシチューばっか溜まってくしよぉ。
そんなん思ってたら家に来客を知らせるチャイムが鳴った。おや珍しい。この辺りって家も少ないから人も滅多に来ねぇんだけど……。
念の為隠れとくか? 逃亡中だし。
「お届け物で〜す」
「は〜い」
ふむ、配達のようだね。マミィ〜がモニターから視線を外してパタパタと玄関まで小走りする。
「届いたわよ〜」
そして大きめの箱を両手に抱えて帰ってきた。
マミィ〜結構力持ちね。見た感じ重そうな箱やぞ。
「マミィ〜、それなぁに?」
「……………………何かしらね〜?」
なんか変な間があったね……。
いやまぁ、その場で開けようとしてるから無理に隠してるワケじゃなさそうだけど。
そして箱から取り出したのは…………三つの土鍋だ。
しかも何故か冷気が見えるほどに冷えてる。うん、クール便だねぇ!
おい、マミィ〜お前まさか……。
「それじゃあ晩御飯の準備始めるわね〜」
「て、手伝う?」
「ふふふ〜ありがとうね〜長髪ちゃん。でも母さんの仕事奪っちゃダメよお〜?」
そう言って彼女は、冷凍土鍋をコンロに掛けて再びリビングに座り雑誌を読み始めた。
「……」
「…………」
こ、コイツ!
具材入りの鍋を 注文し(ウバっ) たな! いや別に良いんだけどさぁ!
頑なにシチュー以外の料理をする気がねぇよこの女ぁ。
何なのその拘り。
鍋なんて具材入れれば出来上がりだろうがよ! 確かに野菜とか切らなくていいし、味付けもプロがしてんだろうけどさぁ……。
……まぁ……うん。よく考えたら便利だね。野菜切るの面倒だし。
届いた鍋をコンロに乗せるだけでできるんだもん。簡単だね。よく見りゃ届いた土鍋三つとも味が違うっぽいし。……忙しい主婦の味方だね。
でもアンタいつも暇そうよね。
この世界、割と発展してるから、主婦の大変そうな仕事も楽になってんのよね。カラカラに乾く衣類乾燥機だったり。
けどさぁ……シチューはちゃんと自分で作るじゃんよ。でも鍋はダメなんだ。その並々ならぬシチューに対するリスペクトなんやねん。
「…………長髪ちゃん〜? 母さんね〜……」
「え、あ、はい。なんでしょ」
そんな事を思ってたら、モニターを見続けるマミィ〜がコッチを見もしないで声を掛けてきたのでビクっとしてしまった。
その背中は妙なプレッシャーを放っていた。
「……シチュー以外の料理出来ないからね〜。アムネシアには内緒よ〜」
「り、了解ッス」
……な、なるほどぉ。そう言う事かぁ〜……。マミィ〜ってシチューに拘りがあるんじゃなくて、他の料理作れないのね。そんでバレたくなかったのか。
「いまマミィ〜が読んでる雑誌って……」
「料理本よ〜…………でも期待はしちゃダメよ〜」
ど、努力は認めます。
頑張れ世の中のお母さん……。便利な物は活用すればいいと思います。
――――――――――――――――――――――
マミィ〜との間に変な空気が流れたので、私は退散するようにリビングを後にする。
まさかマミィ〜がシチュー以外の料理出来ないとは……。
まぁ、料理本をよく読んでるから改善はしようとしてるっぽい。
でも読んでてシチュー以外作らないんだから、たぶんまぁ……結果はお察しなんだろうね。
廊下をテクテク歩いて部屋に戻ろうかと思ったら、庭で車を洗ってるパピィ〜の姿があった。
「おや長髪ちゃん。いま洗車中だから外に出てこないでね」
「あ、パピィ〜。了解ッス」
ガレージから車を出してきて鼻歌を歌いながら、丸っこい車を洗う一家の大黒柱。ハンサムパピィ〜。
「随分ご機嫌ッスね〜。良い事でもあったんすか?」
「ん? はっはっは、そう見えるかい? 別に何もないさ。車の洗車が好きなだけだよ」
なるほど、確かにハンサム父さんは車にキスでもしそうなくらい楽しそうに洗車をしている。
洗車をする店もあるんだろうに、自分でやるくらいだから車好きなんだろうね。
「それに新車だからね〜。自分で洗車したくなるんだよ」
あ〜分かる分かる。
新品の物って最初は綺麗に使いたいもんだよね。
「へ〜新車なんすか〜……」
あ、口に出して気づいたけど、この発言大丈夫か?
この家の子供なんだから知ってて当たり前じゃね。
「はっはっは、そうなんだよ。お父さんピカピカにしちゃうぞ〜!」
ほ、大丈夫そう。まぁ幼女ちゃんの話じゃ、ある程度は大丈夫らしいし、このくらいなら問題ないようだね。
「家族でドライブしたら楽しいだろうな〜」
「…………」
なんというか……
平和な所だよね。
静かで、清潔で、綺麗な場所だ。
そして理想の家庭だと思う。
少しだけ考えてたんだ。
幼女ちゃんを、ここに置いて行ったほうがいいんじゃないかってさ。
ぶっちゃけね……幼女ちゃんの今の状況、普通じゃねぇよ。
貴族に追われてマフィアに飼われて、町長には殺されかける。軽く考えてみてもコレだ。
普通の幼子なら潰れてる。
幼女ちゃんが普通じゃねぇから何とかなってんだ。
「それでも……」
幼女ちゃんは幼女だからね。大丈夫だからといって『じゃあ良いやろ』ってのは少し違うかなぁと。
だからこの退屈なほどの平和な日常を体験して……ちょっとだけ思っちゃった。
幼女ちゃんはこのままココにいた方が幸せなんじゃないかってさ。んで、私だけで豚貴族を探してくりゃええやんってね。
「ま、無理だね……」
そもそもこの考えには穴がある。
いや穴がボコボコ空いてる。
まず幼女ちゃんの催眠術みたいなのは、指輪の魔力が無くなったらそれでお終い。しかもそれはそう遠くない未来だ。
そして何より一番の問題がある。
それは……。
「幼女ちゃんが納得しない……」
あの子は 他人(私) の成果をただ待つだけの事は絶対にない。
私が居なくなれば、それこそ一人でここを離れて本当の母親の元に向かうだろう。
そんな、そんな彼女だから今まで生き残ってきた。
立ち塞がる障害を自力で破壊してきた。
いざとなれば、私を踏み台にしても母親の元に帰ろうとするだろう。まぁこんな幼女ちゃんだからこそ私達は上手くやれてるんだ。
そうじゃなかったら私は幼女ちゃんと一緒にいられない。
ま、アレやね。
「そもそも無駄な考えだわ!」
さっきも言ったけど、この家に止まるのって無理があるからね。ただちょっと思っただけだよ。
「ん? どうしたの長髪ちゃん」
「なんでもねっす。所でなんの話でしたっけ?」
「だからこの新車で家族ドライブをね」
ほ〜ドライブね〜。
車好きってドライブ好きなイメージあるわ。
ところでさぁ……。
「丸い車ッスね……」
「可愛いだろ?」
うんそうだね。
この車で家族揃ってドライブか〜。
うん、この車……二人乗りだねぇ!
利便性とか考えずに購入したよなオマエ?
ただ気に入ったから何も考えずに買いやがったな! そのせいでこっちは家族構成ミスったんだからな!
平和どころか平和ボケしとるわ……。
母親もそうだけど、父親も天然入ってますわ。
一番危機感あるのが 一人娘(三つ編みちゃん) とかどーなっとんねん。いや、こんな両親だからシッカリした子供ができるのかもしらん……。
――――――――――――――――――――――
ボケボケ夫婦に呆れて部屋に戻ってくると、幼女ちゃんが三つ編みちゃんのベッドでゴロンと横になってた。
「……む。お帰り」
「ただいま」
ふむ……動かねぇなコイツ……。
こういう所あんだよコイツ。
動く必要がないなら地蔵みたいに動かなくなりやがる。まぁ、いざとなったら私より動けんだけどさ。
前もそうだったからいい加減覚えた。
それだけこの生活が平和ってものあるんだろうけどね。
実際は『座敷童』と『ぬらりひょん』のハイブリッドみたいな仮初めの平和だがな! そら内情知ってる三つ編みちゃんがパニック起こすわ!
「仕方ねぇな」
「……?」
運動させっか……。
――――――――――――――――――――――
「ただいま〜」
「お帰りアムネシア」
庭で車を洗車しているお父さんが、笑って帰宅を迎えてくれる。
当たり前の日常……。
「ただいま〜」
「お帰りなさい〜、アムネシア」
晩御飯を作っている母さんが、花の咲くような笑顔で迎えてくれる。
「いい匂いだね。今日はお鍋でしょ」
「そうよ〜、腕によりを掛けて作ったからね〜。手を洗ってらっしゃい」
「は〜い」
当たり前の日常。
階段を上がり、部屋の扉を開ける。
「ただいま〜」
遺憾な事に……誠に遺憾な事に、『当たり前の日常』となってしまった二匹の妖怪がいつも通りに――――
「ヘイッ! ヘイッ! ヘイッ! ヘイッ!」
「……へい……ぬん……へい……ぬん」
ハリセン両手に踊ってらあ!
手を変え品を変え! 日常じゃないんたけど!
「ねえ……何してるの?」
「ヘイッ! へ……あ、おねぇちゃんお帰り」
「え? なんで踊ってるの? …………それ踊ってるの?」
「踊ってますよ。運動ッスよ。最近運動不足なんで」
そうだよ……この二人、外に出たがらないんだったわ。
「それでハリセン振り回して遊んでたんだ……」
「いや、踊ってんすよぉ…………あ、そっか」
私の疑問に長髪ちゃんが納得したように頷く。
そうしたら白髪ちゃんが歩いてきて、私にハリセンを渡してきた。
「ん〜……ん〜…………ちょいと待ってね。おねぇちゃんよぉ。えっと……うむ、『今から音ゲーするから受け入れて』VRリズム剣豪【MODオン幼女】プレイヤー【三つ編み】」
ごめんちょっと意味分からない。
分からないけど、何かの遊びだろうからとりあえず頷いた。
「んじゃ、ミュージックスタート!」
ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!
「どっから鳴ってんのこの音!」
「よし! おねぇちゃん! 斬れ!」
そして部屋の壁から突如飛んでくる三角の物体……私は自分に向かってきたソレを、反射的に手に持ったハリセンで叩いた。
スパァーン!
すっごいいい音したわ!
スパァーンスパァーンスパパーン!
そして次々と飛んでくるのをハリセンで撃ち落とす。
「お、おねぇちゃん上手ッスよ」
「……ぬ。やりおる」
「意味が分からないんだけど!」
「あれ? 面白くないッスか?」
「腹立つことにすごく面白い!」
キレ気味で返したけど、とんでもない爽快感あるんだけどコレ! 意味は分からないけど。
「……ぬぅ。楽譜強化……」
しばらく叩いてたら、白髪ちゃんがそう呟いて飛んでくる物体が増える。
「ちょ、多い!」
「……まだ追いつくか」
どうやらこの物体の量をイジってるのは白髪ちゃんらしい。私が全部斬ると増えていく。
「お〜、やるな三つ編みちゃん。やっぱ運動能力たけ〜わ」
床に光る線が入る。
これは……ハリセンで叩くんじゃなくて、足でなぞればいいのかな?
「……対応……するだと?」
白髪ちゃんがムキになったのか、とんでもないテンポで物体と地面の光る線が増えてくる。
本当に白髪ちゃんがやってるんだとしたら、この子鬼畜なんだけど!
ついに光の線は壁にまで及び、私は部屋を駆け回る。
「この世界のガキ……どうなっとんねん……」
ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!
そして曲は最後のパートに入ったのだろう。白髪ちゃんの目が細められたのが横目で見えた。
くるぞ! 鬼畜ステップ!
壁に光る線が入る。私はそれを足でなぞって、壁を蹴る。そして最後の物体に向かって飛ぶ!
最後の物体は、壁から離れた遠くに見えた。
私はその物体に向かって、キリモミするように飛んでハリセンを振るった。
スパァーン……!
間に合っ……た!
「どうよ! 全部叩き落としたよ!」
空中で二人の様子を見てみれば、二人とも目を見開いてビックリした顔をしている。
ふふん! 驚いたみたいだね。
白髪ちゃんのそんな顔を見られるなら頑張った甲斐があるよ。
いや〜気持ちいいな〜。
普段私が驚かされてばっかりだったもんね。
私は日頃の鬱憤を晴らすように、窓の外から二人の驚いた顔を目に焼き付けた。
………………ん?
あ〜はいはい。窓……空いてたんだね〜。
「落ちたーーーーーーーー!!」
「……じ、じこやねん」
――――――――――――――――――――
ガキが二階から落ちたーーーー!!
周り見ろやボケガキ共があ!
『……じ、じこやねん』じゃねぇよ。普通に事故だよ!
三つ編みちゃんは、ハリセンを振り抜いたまま落下していった。
私は間に合わないと分かっていても、窓の外に手を伸ばす。
そして聞こえるドン……という落下音。
に、逃げるか? ちょっと早いけど逃げるか!?
私は惨状を予見して、見たくないけど窓下を覗き込む。
「うわーガクッとした。ビックリしたよ」
「…………」
普通に着地してた……。
この世界のガキって……二階から落ちるの『階段から数段落ちる』みたいな感覚なん?
まぁなんにせよ、事故にはならなかったらしい。
でも気をつけようね。流石に遊びで二階から落ちるとは思わんかったわ。
無事でよかったわー…………。
「……アムネシア……お転婆が過ぎるなぁ?」
ちなみに、三つ編みちゃんが着地したのはパピィ〜の洗車している車の上だった……。
そして新車に落ちてきた娘に対して激オコの様子。
「あ、はは、お父さん。洗車……手伝おうか?」
「ふふふ、ありがとう。でもお父さんね。大事な物は自分で掃除したいタイプなんだ」
「ご、ごめんなさい」
この世界では二階から落ちる娘は、よくある事なのかもしれない……。
ねぇ、これってこの世界のガキがヤベェだけ?
それとも二階から落ちて何ともない三つ編みちゃんがヤベェだけ?
どっちかな? どっちもな気がする……。