軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

飛ぶ能力

鎧武者の横薙ぎをスライディングで掻い潜る。

懐に潜り込んだ吸血鬼には、無防備になった鎧武者の腹部がさもチャンスに見えるだろう……。

だが……ソレは罠だ。

すでに準備の整ったイカヅチのような斬り返しが吸血鬼の命を刈り取ろうと迫る。

もう何度も何度も……この一連の動きは吸血鬼の命を儚くも散らせた。

今回こそは打ち破ってみせる。

神経を極限まで研ぎ澄ませ……。

「ッ……フッ!!」

吸血鬼が行うことは連撃を叩き込む事ではない……。

ましてや情けなくも飛び退く事でもない。

スライディングから派生できる吸血鬼の特殊アクション!

後方へ大きく飛び上がり、旋回しながら素早く切り掛かる『ムーンサルト』

回避と攻撃が一体となった出が速く、使い勝手のいい技。

その攻撃に鎧武者の体勢が崩れた。

幾度の敗北をもって訪れた絶好のチャンス。

ここで決める! 叩き込め!

一撃……

ニ撃……

三撃…………鎧武者の刀が、吸血鬼の爪を止める……。

そして滑るようにその刀は吸血鬼の胴を薙いだ。

吸血鬼は灰となり、画面には『game over』の文字がオドロオドロしい効果音と共に表示された……。

「ふ、ふふふ…………」

私はゆっくりとコントローラーを机に置いて――

「ムキィィイイイイイイイイイイイイ!!」

頭を抱えて床を狂ったように転げ回る。

「ふぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

床を叩くと、ウィーンという機械音を鳴らしながらサンドバッグが迫り上がる。

私の手にはボクシンググローブが装着され、ソレを助走を付けて叩きつけた。

ペチィぃ……

「ニュオラァぁあぁあァァアア!!」

ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチぃ……

「こんのッ!!」

ペチィぃ……

「――クソゲーがよぉ!!」

誰がクリアできんだこんなモンッ!!

何回この鎧武者にぶっ殺されたと思ってんだ!!

「はぁはぁはぁ……」

私はドサッと床にアグラを組んで座り込んだ。

マジ無理ーー!! このゲーム難しすぎるわ!!

どーも私です……。

うん、【ロストグラウンド】〜lost ground〜やってます……。

ま、あれですね。プレイヤーに恨みでもあんのかってくらい難しいッス。

「初めてだよ、私をここまで苦しめたゲームは……」

ヤベぇ……とんでもねぇ難易度だわ。

「ふ〜」

いったん心を落ち着ける為に深呼吸をする。

「いや、クソゲーってのは言い過ぎたわ……取り消す」

でもね。これ一般人が手を出していいゲームじゃねぇよ……。

「攻撃力が足りてないってワケじゃなさそうなんだよな〜」

敵キャラの体力ゲージの減り方を見る限り、思ったより減るんだよね。

それはそれとして……こっちの耐久力は酷い。

下手すりゃ一撃で持ってかれるし、なんかコンボ的な動きされたら抜け出せずに一気に消滅よ……。

「どっちかって言うと……プレイヤースキルってところか」

レベルを上げたり装備を整えたりじゃない……純粋に戦い方が悪いんだ。

調子に乗って攻撃を続けたら、間違いなく手酷い反撃を喰らうようになってるんだよ。

何と言うかね――

「敵が賢い……」

まるでこっちの考えを見透かすように、動きを変えてくる。回避をすれば、回避した地点に高速で詰め寄り殺される。

遠距離で戦おうとすると、高速で詰め寄られる。

近接でゴリ押そうとすると、攻撃を挟まれてコンボをくらう。

「まるで人間が動かしてるみたいだわ」

それを感じてしまうから一層腹立たしい。

必勝パターンみたいなものがないんじゃねぇのかって感じやね……。

「少しスキル構成を見直すか?」

このゲームは、空中戦に特化したゲームだ。

おそらく地上での戦いは上を取った方が有利なんだと思う。

ただし、その空中に浮くというのがネックだ。

浮くと言う動作は隙が大きくて、敵もそれを潰すための行動を取ってくる。

「……と、なるとぉ。ムーンサルトみたいに攻撃と空に飛ぶ行動の両立している技が有効なんじゃね?」

じっさいムーンサルトが一番上手く立ち回れてるし……。

「ええっと、遺跡で拾った武器なにがあったっけ?」

攻撃か回避をしながら浮く動作のある技を覚える武器……。

飛ぶのが主軸になったゲームだけど、実際は滑空することが多い。上昇するってのは難しい行動なんだね。

上昇できる技ってのがキモだ。

「お、これとかいいんじゃね?」

『 大円刃(オオマドカガリ) 』大きな刃の付いた輪っかの武器だ。

「ん〜……フラフープ?」

そんな感じの武器。

これにスキルポイントを振れば、腰の辺りでフラフープが回転して上昇する。出も速いし攻撃扱いもできる。

ちょっと試してみるか……。

「お、いいじゃんいいじゃん! フラフープ上昇からの下降切り……このコンボいいぞ!」

はい、二回繰り返したら叩き潰されました……。

もしかして、同じ技の繰り返しは学習するAI積んでる?

「だったらムーンサルトと大円刃を交互に……こ、これだ!」

明らかに鎧武者の動きに精彩がなくなってきた。

なんなら途中に単純な攻撃を挟んでも面白いように入る!

そしてようやく――

「かっ…………………………たああ!!!」

鎧武者撃破です……疲れたわ。

ひぃいい、とんでもねぇゲームだわコレ。

敵の体力が数センチになった時の手汗がヤバい。ようやくこのゲームの面白さが分かったぞ!

この瞬間の開放感のためだ!

そう考えると、この難易度の高さこそがゲームの達成感を与えるスパイスといったところか。

ふむふむ。よ〜く分かったよ。でもね――

「……まだ序盤なんよねぇ」

やべ……心折れそう……。

クリア出来んのかなこれ。

まぁ取り敢えず……今日はこの辺りで終わりにしておこう。

正直疲れたわ……。

「領域解除!」

――――――――――――――――――――――

「おっとぉ……雨降ってんのか」

私の領域から外に出て、窓の外を見るとポツポツと降り始めて、分厚い雨雲のせいで暗くなっていた。

「おねぇちゃんは?」

「……まだ帰ってない」

この家のガキのベッドで寝転がりながら、幼女ちゃんが答える。

おねぇちゃんは学校か……。よろしよろし、しっかり勉強して偉いね。

「ふむ、幼女ちゃんや。コレみてぇ〜」

幼女ちゃんは『なんだよ……』って面倒臭そうな顔をしながら目線を向けてきた。

お? そんな目してていいのかなぁ〜?

新能力のお披露目しちゃうぞ。

【ロストグラウンド】〜lost ground〜

【飛ぶ能力】

手を胸でクロスして、ヌヌヌ……と力を込める。

そして、バッと両手を開いて叫んだ。

「ウィーーーング!!」

「……」

バサァと私の背中から『蝙蝠の羽』が生える。

「……おぉ、とんだ。マジか」

んふふふ、フワフワと床から浮いた私を見て、幼女ちゃんが珍しく驚いたように目を見開く。

そしてベッドから降りた彼女は、私の足の下で手を振って首を捻る。

あぁ、本当に浮いてるかどうか確認したのね。

「……さすがに引く」

……おい感想おかしいだろ。

引くってなにさ! もっとあるやろ。

「……もっと高く飛べる?」

お、興味はあるみたいやね。そうかそうか……もっと高く飛んでるとこみたいよねぇ? 任せな!

「ちょっと待っててね」

「……?」

私の腰の周りに輪っかが現れる。そして……

「えっほえっほ」

「……」

空中で腰を振り始める私……。

「えっほえっほ」

「……なにしてんの?」

フラフープだよ。

腰でフラフープを回す私の体はゆっくりと上昇を始める……うんゆっくりと……。

「……おっそ」

「仕方ねぇだろ!!」

ゲームエネルギーのリソース不足やねん。

はい、このゲームの能力【飛ぶ能力】なんだけどさ。

飛ぶって意外とエネルギー使うんだよ……。

その場で滞空するのはできるんだよ。そして、滑空しながらの移動もできる。

けどね。『上昇』ができねぇんだよ……。

出来ないっていうかゲームリソース不足。

志方ねぇから、それを補う為に『制限』を付けたんだよ。

『フラフープを回してる間はゆっくり上昇する』っていうね。

「……かっこ悪い」

「それは私も思った」

けど、フラフープが一番効率良かったんだよね。私の中で上昇=フラフープの概念ができちゃったんだよ。

もちっとゲームエネルギーを貯めれば使い勝手も良くなるかな?

「ただいま」

ガチャっと扉を開けておねぇちゃんが帰ってきた。

「うぃ〜ッス。おかえりぃ〜おねぇちゃぁん?」

背後で雷がピカッとひかり、ゴロゴロと重い音を空が鳴らす。雷の光に照らされた三つ編みちゃんの口が引き攣ってるのが見えた。

危なかったねぇ。雨が本格的に降る前に帰って来れて良かったじゃん。

「…………」

三つ編みちゃんは翼を生やしながら部屋で浮かぶ私を見て、胸元から十字架のネックレスを取り出して握りしめる。

「悪魔が私の部屋にッ!! ついに現したね!!」

「べブッ!」

そして私の顔面に投げつけてきた。

なにすんねんこのガキ!!

ベチョっと床に落下した私は三つ編みのガキに抗議する。

「悪魔め!! やっぱり人間じゃなかったな!!」

「人間だよ人間!! ちょっと羽が生えて浮くだけじゃん! よくあるだろ!!」

「そんな人間いてたまるか!! この悪魔どもめ!!」

「聞く耳ねぇよこの三つ編み!!」

あ〜もう、面倒臭せぇとこ見られちゃったなぁ……。

少し落ち着けや。

「おねぇちゃぁん? 落ち着いて? 私達人間だよ〜」

追い出されたら敵わんからな。

私は幼女ちゃんと肩を組んで人間だと説得した。

流石に悪魔扱いは今後の生活に支障が出そうだし。

ほれ白髪、お前も説得せんかい!

「ねぇ〜幼女ちゃん。ほらほら私達人間だよねぇ〜?」

ほらお前も、『私達は人間』だと宣言するんだよ!

ニコニコしながら幼女ちゃんに目配せしたら……、幼女ちゃんは私の背中を押して酷く冷たい目をした。

「……うせろ」

マジかよコイツ……自分だけ人間アピールは酷いと思うよ。

お前も大概やからな!

――――――――――――――――――――――

「ん〜…………」

どーも私です。

三つ編みちゃんの悪魔騒動もなんとか説得に成功?

そしてこれ以上彼女を刺激しない為にクローゼットの中のスキマに引っ込みました。

仕方ないので今日も今日とて、スキマの中で広げた領域畑を確認中。

一応家の中は領域畑にして、ダンジョンを作る能力を使ってます。

まぁそしたらね……。

「あれ? ……これってダンジョン?」

いや、私のダンジョンじゃなくてね。近くにダンジョンあるわ。

もともと【ダンジョンを作る能力】は他のダンジョンから情報を盗み出すっていう性質があるからね。

近くにあると分かるワケなんだけど……。

「……下……か」

私はスキマの床に視線をやって考え込む。

たぶん地下にダンジョンが広がってるね。

でもなんか前と感覚が違うっていうか……うん、感覚の話なんだけどね。境目がキッチリしてるって言うか……直線な感じがする。

「……オバケ姉ちゃん。どうしたの?」

首を捻っていた私の様子が気になったのか、幼女ちゃんが話しかけてくる。

「あぁ幼女ちゃん。たぶん地下にダンジョンがあるっぽいんだけどさ。どーも、前と違う気がするんだよね」

私の言葉を聞いた幼女ちゃんが納得したような顔をした。お、なんか思い当たる節でもあんのかい?

「……なるほど……ダンジョン」

幼女ちゃんはウンウンと頷いたあと、私を見て口を開いた。

「たぶん……『人工ダンジョン』……だとおもう……たぶん」