軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンドレスシチュー

どーも私です。

町長事件のあと、ちょっと目立ち過ぎたかな〜と反省した私達は、しばらく大人しく隠れてやり過ごそうという事になりました。

まぁ、その方法なんですがねぇ……幼女ちゃんが、ある夫婦に催眠術を掛けて、その家の子供のふりをするという計画ですな。

いや、実際の話……上手くいけば割と冴えたやり方なんだよね。

飯を買いに外にでる必要もない。なぜなら親が勝手に用意してくれるから。私達を探してるやつにカチ合う危険性なんて、外に出てるときだけだろうからね。

だから善良そうな夫婦を騙くらかして隠れ住むってのは良い作戦なんだ。

そう…………上手くいくならね…………。

「……………………」

朝食の席でジーーーっと私と幼女ちゃんを見てくる、不信感を隠しもしない茶髪のガキ……はい、この家にはすでに子供がいやがりました!

この家の本来の子供……三つ編みちゃんです!

いや、寝起きで今現在は三つ編みではないけどさ。

慌てて幼女ちゃんが妹だと両親に催眠術のアップデートを図ったんだけど、三つ編みちゃんの分までは無理くせぇって。

まっ! ガキだから『お前の妹やねん』で乗り切る事にしたんだよね!

大丈夫大丈夫! ガキだから!

「お姉ちゃぁん? どうかしたッスか?」

「私は……お姉ちゃんかな?」

「何言ってるのぉ、可愛い可愛い妹の私達を忘れたの?」

「……はくじょう」

「…………いない……私に妹はいないよ!」

「じゃあ私達は何かなぁ?」

「知らない! だから困ってるんですけど!」

「酷いなぁ、お姉ちゃんは、ずっと居たでしょ? お姉ちゃんどうしちゃったの?」

「え……あれ……そうなの? 本当に居たの? 私がおかしいだけなの?」

三つ編みちゃんは、スプーンをシチューに沈めたまま、頭を抱えてしまった。

う、うん。この通り微妙に育ってるせいで誤魔化しが効かないお姉ちゃんなんだけどさ。

割と自分の記憶に不安を持ち始めてるようなんだよね。

「……母さんもお父さんも、妹だっていってるし……」

原因はコレだろうね。

頼れる両親は『妹』だって言ってるし、本人の私達はもちろん『妹だ』って宣言してる。

そうだよ? この家で反対意見はキミだけなんだ。

ガキの思考能力なら軽いバグくらい起こすさ。

むしろ大人ですら、人によっては起こすんじゃない?

「そうなの? ご、ゴメン私がおかしかった……かも?」

「…… 姉(あね) ぇ……わかればいい。ところでスプーン落とした……かえはどこにある?」

「ありがとう、後ろの棚だよ」

「……うむ」

「……」

「……どうした?」

「……なんで食器の場所くらい知らないの?」

静かにスプーンをテーブルに置いたお姉ちゃんは、プルプルと震えた後、クワッと目を見開いて絶叫した。

「私に! 妹はいない!」

そうですね。

ダメだ。思ったよりこのガキ意思が強いぞ。ちょっとした事で戻ってきやがる。

「どうしたの〜朝から騒がしいわね〜」

台所から鍋を持ってきた母親が、ポワポワした雰囲気で絶叫する三つ編みちゃんに目を向ける。

「母さん!? やっぱりおかしいって!」

「おかしいって…………なにかしら〜?」

む、いかんな。

幼女ちゃんの話じゃ両親に違和感を突きつけるのは、あんまりよろしくないらしい。

記憶を弄るとか怖い事やってる幼女ちゃんなんだけど、この記憶改竄、そこまで万能じゃない。

違和感なんかを抱かせると、催眠指輪の魔力残量が減っちゃうとか……つまりこの家に居られる期間が短くなっちゃうワケだね。

ある程度は大丈夫らしいけど、お姉ちゃんの『妹なんて居ない』発言を、あまりさせないほうがいい。

「マミィ〜、お姉ちゃんこう言いたいんだよぉ……晩御飯シチューだったのに、朝ごはんもシチューっておかしくない?」

「違うよー! そうだけど違うよー! 私もそう思ったけど!」

朝から元気だね〜……お姉ちゃぁん。

「この家はッ! 私が守らなきゃ!」

悪いけどしばらくはこのスタンスで行くから。まぁ安心しなよ。私達もずっと居るわけじゃないからね。

それまでヨロシクしようや……ね、お姉ちゃぁん?

「マミィ〜、私お昼はパスタで晩御飯は焼肉がいいなぁ〜」

「ふふふ〜、お昼はシチューで晩御飯はシチューよ〜」

ねぇマミィ〜……どうでもいいけどシチュー作り過ぎじゃない?

出してもらっといてなんだけど、何人家族想定で作ったのか私気になるな〜…………。

――――――――――――――――――――――

「あ、幼女ちゃん。お姉ちゃんは?」

「……スクールいった」

お昼ご飯を食べて部屋に戻り、シチューで腹のはち切れそうな体をベッドに転がす。

幼女ちゃんはすでに、ポンポコお腹を上にベッドに横たわっていた。

「あーね。学校か……」

「……うむ」

そんで三つ編みちゃん、昼に見かけなかったのか……。

うぃ〜……それにしても、マミィのヤツ……空いた皿に延々とシチュー注ぐのやめてくんねぇかな……。

「……オバケ姉ちゃんメシ食った後どこ行ってたの?」

「あーうん、探検?」

「……外には出るなよ」

「分かってる分かってる。家の中だけだよ」

外を出歩かないために一般家庭に潜り込んだんだから、出るワケないじゃん。

探検っつっても、家の中を『領域畑』にしてただけだよ。

出るとしても家の庭くらいまでだ。

しばらくはこの家に厄介になるからねぇ。

外にもでねぇし、能力の検証や実験の為に領域畑を広げといたんだよ。暇つぶしにもなるだろ?

ま、三つ編みちゃんが学校でいねぇんなら、遠慮なく彼女のベッドを使わせてもらおうかね。

スキマの中はベッドねぇから久々だ。

「んでぇ、しばらくはフリーでやる事もないんだけど、キミはどうするか決めてるの?」

「……そうだね。わたしは……わたしで好きなことやっとく……」

そう言って幼女ちゃんは寝ていた体を起こして、パイプ端末と天然コアを取り出して軽く目を閉じる。

うむうむ、キミの暇つぶし二点セットだね。

何してんのか私にはサッパリだけど。

しばらくすると幼女ちゃんの体から黒い霧が吹き出して床……というかベッドに吸い込まれる。

これ……たまにこの子がやってんだけどね……不気味だよね!

なんっつうかさぁ……邪悪っていうの?

しばらく黒い靄を床に吸い込ませていた幼女ちゃんは、軽く目を開く。その目は白目が黒く染まり、眼球は赤く光っていた。うん! 怖いね! 魔族かな?

「……ぬ……なんか……じゃま……とおい」

そうボソリと呟く。

アレかねぇ……たまに幼女ちゃんが地面から生やす細い棒……っていうかミニチュアのビル……。アレって黒い霧と関係あんのかね?

まぁいいや私は私で好きなことやっとこ。

さてさて、家の中を領域畑に変えたワケなんだけど、何するかな? とりあえずダンジョンでも作る?

と言っても領域エネルギーを貯めるのは無理やろなぁ……。だってこの家、三人しかおらんからな。

ダンジョン作って感情エネルギーを得るのは無駄すぎる。

それに……自宅がダンジョン化したら流石に騒ぎになるしね。

隠れてるのに騒ぎになるのは本意じゃない。

まぁ、検証の期間だからダンジョン作って家族にはバレないようにすりゃいいだけか。

とりあえずは【監視カメラの能力】をゲームリンクさせて、【ダンジョンを作る能力】もゲームリンク。

あとは……新しいゲームでもやって、能力とダンジョンを繋げてみる?

「ん……おやぁ? これは……」

そんな事考えてたら、私の領域畑に妙な反応があった。

「…………収穫物か」

ふむ、久々というか二個目かな?

前は宝石店で見つけたテーブル。

つまり、領域畑に使えるリソースの物体というワケだ。

「欲しいねぇ」

収穫物……本来なら知恵を絞って骨を折りながら得ることの出来る感情エネルギーなどの、通称領域エネルギー……そのリソースが家の中にある。

「でもダメかぁ……」

この家は一般家庭とは言っても、結構裕福な家庭のようで大きい。オマケに庭も広い。

その中で反応が有るのは家の一階……もしかして親の寝室かな?

まぁダメってのは親の部屋にあるから無理ってワケじゃない。忍び込むくらいなら簡単だ。

問題は『私に所有権』がないこと。

テーブルの時もそうだったね。あれは持ち主のOL女に貰ったから『私の物』になり、リソースとして取り込めたんだ。

物体が何なのかは知らないけど、「ソレちょーだい」で通じる状況じゃねぇしな。なるべく違和感は持たせたくないし……。

盗むのは論外……所有権がないし違和感の塊だ。そしてバレて敵対されたくない。私達は大人しく隠れるのが目的なんだよ。

「んふふ、とは言っても逃すのは惜しいなぁ……」

貴重な領域エネルギーの塊だ。

コレがあれば次に領域畑を作る時、最初から色んな融通が効く。

ま、違和感持たれない程度に、その物体を手に入れられないか考えるだけでもいいでしょ。

もしかしたら、可愛らしい私に収穫物をプレゼントしてもらえるかもしれないわね。

オホホホホ!

――――――――――――――――――――――

「ただいまー」

スクールから帰ってくる。

当たり前の日常。

「お帰りなさい〜、帰ったら手を洗いなさい〜」

母さんのいつもの台詞。

いつもの日常。

でも、違う。

本当は当たり前の日常じゃない。

突然現れて私の日常に侵食した存在……二人組の怪異……。

手を洗った私は、階段を見上げる。

おそらく……きっと……

自称妹の二人組はいるのだろう。

親はダメ……だから私がシッカリしないと……。

早鐘を打つ心臓を騙し、強気の仮面を被る。

「……追い出すんだ」

スクールで色々考えて決心した。

アレはこの家を乗っ取ろうとしているかもしれない。

手遅れになる前に……

階段を上がり、自分の部屋の前にやってくる。

深呼吸をして扉を開け放つ。

相手は二人組の小さな女の子……強気に出れば行ける!

「あなた達! ココから出――」

二匹の怪異がソコにいた……。

「……………………」

「ゲヒャッ! ゲヒャヒャヒャヒャ! 可愛い私に掛かれば収穫物なんて楽勝ッス」

片方は白髪で不気味な黒い霧を無表情で体から噴出し――

片方は大の字で寝転がり、白目のない不気味な目で一人で天井に向かってケタケタ笑う長髪の子供……。

「……」

「……とどかぬぅ」

「ゲヒャヒャヒャ!!」

私は無言で扉を閉めた。

私の手には負えないかもしれない……。