軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暖房が効きすぎな車両

「アーハー、駅まで送ろうか?」

「いやいや、町長様のお手を煩わせるなんて、とてもとても……」

朝、町長宅の玄関先で私達を見送る、町長とその娘。

「んーん、でもさ〜。やっぱり心配だよ〜。だって昨日の今日だよ? 亡霊デュラハンに狙われたのって」

しかしこのオッサン……私達が帰るって言ってんのに、性懲りもなく私達についてこようとしやがる……。

ま、どこまで本気か分からんけどね。

「……いらない」

町長宅から出ていく私達の後を、何食わぬ顔でスタスタついて来ようとする町長に対して、幼女ちゃんが振り返りながら睨みつけるように牽制する。

「アーハー? そんな目しないで、護衛だとおもってさ〜」

「……だからいらない。いざとなればオバケ姉ちゃんを囮に逃げるから問題ない」

「そ、それは問題ないのか〜い?」

ノータイムで私を囮にする発言に、町長が私の顔色を窺うようにチラ見してくる。

ふむ、このウザったい町長をドン引きさせるなんて、やるじゃないか。

私は、チラチラ見てくる町長に向かってニッコリ笑いかけてやる。

「町長様の知り合いに奴隷商人とかいません? この白髪のガキ売りたいんですけど」

「アーハー! はっはっは! 僕に奴隷商人の知り合いがいるとか死んでも外で言わないでね!」

最近、私のこと囮にし過ぎなんだよクソガキがぁ……。ついに尻尾だしやがったな。

「……じょうだんじゃん」

「それはやってないヤツが言う言葉なんだわ……、実際やってるヤツが言うのは言い訳にしかならんやろがい」

「……オバケ姉ちゃんならなんとかなる。未来あるわたしに人生を譲るがいい……」

「あるよ!? 私には輝かしい未来が待っとるわ! 売れば大金になりそうなテメーと一緒にすんなや!」

「……おたがいさま……オバケ姉ちゃんはサーカスにも悪魔崇拝の邪教とかにも売れそう」

「キミ、私のこと魔界から来た化け物かなんかだと思ってない?」

「……ワンチャンあると思ってるよ……わたし」

どっちかと言えばヤンキー神から遣わされた天使だからね私!

ただちょっと、その神様的な存在に迷惑掛けて、力のほとんどを封印してもらって地上に落とされたけど!

だいたい天使でいいやろ!

そういやヤンキー神って自分で神様とは言ってねぇんだよな……。私に近い感覚が神様ってだけで。

やっぱヤンキー神、悪魔に近いか?

そもそも、神すら知覚できない上位存在だろアイツ……。

農家とか言ってたけどな。

――――――――――――――――――――――

「ん〜、どこも混んでるねぇ」

「……まえと時間が違うからね」

列車の中で扉を少しスライドさせ中を覗くと、四人がけの座席は埋まっていた。

どーも私です。

町長宅から出た私達は、ついて来ようとするハイテンション町長を引き剥がして、港の灯台拠点に戻るために列車に乗り込みました。

前に町長宅を抜け出した時には真夜中だったからね。

列車の中は貸切状態だったんだけど、今は朝とはいえ日が昇ってるから混んでるんだよ。

コンパートメント席って言うのかな?

この列車の座席って、部屋みたいに四人席が区切られてるパターンなんだけどさ。

大人だったらスライド式のドアから、ガラスを覗き込めば人がいるか分かるんだけど、子供の体だと届かないからね。

いちいち少しスライドさせて、覗き込まなきゃダメなのよ。

「二時間も乗るのに、立ちっぱなしは面倒だからねぇ」

拠点のある港のステーションまでは、二時間とちょっと……流石に座りたい。

もっとも、この世界って何につけてもスケールをデカくするクセがあるからね。

この車両も前の世界感覚で言うと、あり得ないくらいデカい……。だから探せば空いてるコンパートメントもあるはずだ。

「……オバケ姉ちゃん」

せっせとドアをスライドさせて覗き込んでいたら、向かいのドアを覗き込んでいた幼女ちゃんが、顎でシャクって中を促してくる。

「う〜ん、妥協しようかね」

「……うむ」

そのコンパートメント席は、空ではないんだけど私達二人が座るスペースが空いている。

まぁずっと乗ってるワケじゃないだろうし、相席させて貰いましょうかね?

「おっと、どーもどーも失礼します」

「……」

先客は、雑誌を読みながら私たちが入ってきた事を察したのか、足を引っ込めてくれた。

幼女ちゃんが窓際の席に飛び乗って、その隣に私が座る。

「ふぃ〜ようやく落ち着いたッスねぇ」

「……うん。これからどうする?」

そうだねぇ……ぶっちゃけて言うと、どうしようもないってのが正直なところだね。

「結局さぁ、あの町長が豚貴族の情報を仕入れてくるまでやる事ないよね」

「……うむ」

私達の目的は、貴族に渡りをつけて豚貴族の情報を得る事だった。それは一応完結したと見て良いだろう。

このまま町長の情報を待つか?

「幼女ちゃんはどう思うよ?」

「……わたしは、それ以外にも情報を探すべきだと思う」

「ふむ、具体的には?」

「……別の貴族をさがす……とか?」

自分の言った言葉に幼女ちゃんは顔を顰める。

うん、そうだね。

キミが言ったんだよ。貴族はポロポロ落ちてないってさ。

別の貴族を探すのは問題ないよ。

でも、滅多にいない貴族をどこで探す?

町長が情報を探している現状、このセッテ区域での町長の活動範囲外は探せない。

いや、それなら町長に別の貴族を紹介してもらうとか?

貴族のセカンドオピニオンみたいな事はどうだ?

「いやダメか……」

探してもらう対価がない。

それに貴族ってのは一見の平民のガキの頼みを聞いてくれるのか?

それに町長のツテで探してんのに、そのツテって同じやろ。それで見つかるならとっくに町長が見つけてる。

そして幼女ちゃんは町長が情報を隠してる可能性があるとか言ってたからね。町長を介しちゃ本末転倒。

「ま、町長の情報待ちかねぇ?」

というか何となくなんだけど、町長が豚貴族の情報を隠してるって幼女ちゃんの予想……合ってる気がするんだよね。

となると、やっぱり町長は豚貴族と関わりたくないから隠している?

それともう一つ……あの町長が、私達を隠す理由があるね。

『亡霊デュラハンに対する囮……』

たぶんコレかなぁ……。

せっかく見つけた亡霊デュラハンに繋がる手掛かりを、手放したくないとかね?

まぁ、あからさまに私達を保護しようとしている目的がコレだからねぇ……。

「でも残念……」

私達もみすみす囮になる気はない。

それに町長宅の駅から離れれば安全だろうしね。

ふと、幼女ちゃんを見てみれば、車窓から外を見ている。

……そして、なんか汗をダラダラ掻いている。

え? どしたんキミ? もしかして列車に酔っちゃった? 飴食う?

幼女ちゃんは外を見ながらチラっと向かいに座る男に視線を向けた。

私も釣られるように向かいの男に視線を向けると。

「……あぁ?」

「あ、ども……」

不機嫌そうなコートの男と目が合った。

「……」

「……」

「……」

男は私と目が合うと『なんだよ?』って目をグラサンの上から向けてくる。

そして目をクワッと開いたかと思うと……

「……お、……あ……あ……あ」

欠伸でもするように大口を開けたかと思うと、断続的に声をもらして滝のような汗を掻き始めた……。

え?

なんなの? 幼女ちゃんといいこの車両、強烈な暖房でも入ってんの?

幼女ちゃんを見てみれば、やっぱり滝のような汗……。

グラサンってもしかして、マフィアの一員だとか?

いや違う……

うっすらと私も額に汗を掻く……。

コートの男の全身を上から下までゆっくり見渡す。

「あ、あの〜……つかぬ事をお伺いしますがぁ……お兄さん」

気づいたら私も滝のような汗を掻いていた……。

この狭いコンパートメント席で、三人の汗だくの乗客が唾を飲み込む……。

「……亡霊デュラハンだったりします?」