軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな勢力候補

「……ドリーム……ランド?」

紅茶色に染まる空を見上げながら、祈りの巫女は目を見開く……。

気圧が変わったかのように、耳の奥が大気の動く音を煩いほど拾う。

「いやぁ……三十三回にして、……ようやく一回ッスわ」

「ッ……いったい何の話よ!」

夕日を背中に背負った少女が陽気に呟く。

その顔は怪しく影が差しており、表情は見えない。

「巫女さんはねぇ……私の提示したルールを破った。それでも、お強い巫女さんには関係なかったんだよね。だから私は、何回も破らせた……」

にも関わらず、少女の声色からはニタニタと笑っていることが容易に察せられた。

「ヒヒッ、乱暴な言い方をしましょうか?」

夕日により影で隠されているのにも関わらず……口が笑みに吊り上がっていることを感じさせる。

「アンタに『ゲームオーバー』を叩き込んだ」

遠くから……重厚な笛のような音が聞こえた気がした。

「何回も何回も……それでようやく一回ッスよぉ……これだけ育ったダンジョンで、これだけゲームオーバーにして、やっと一回のペナルティーを負わす事ができた」

「ッ……」

異様な少女と世界の変貌に、祈りの巫女は警戒する。

「チッ!」

そして自然と後退してしまった自分の足を見て、イラつきの含んだ舌打ちを溢した。

気押された……。

「安心していいッスよ……そう大したことはできない」

何処からともなくカンカンカンカンと、鐘を連続で叩くような音が聞こえて来る。

それはまるで異常事態を示しているようで、焦燥感を掻き立てた。

「ほんの細やかなペナルティーだ……だから巫女さんのこと理不尽っていってんすよ」

夕日が沈む。

「ッ! オマエッ! 何を考えている!」

不安を押し殺すように巫女は睨みつける。

暗闇が世界を侵食する。

そしていつの間にか……周りの光景が変貌していた。

錆びついた遊具に、煤けて淡い光を放つ灯。

それは夜の公園だ。

祈りの巫女は……誰に言われるでもなく、自然と理解した……『 世界に引き込まれた(ようこそドリームランドへ) 』

「何を考えてるって? 最初から私の目的は話していたはずなんですけどねぇ……忘れちゃいました?」

煩いくらいに響く鐘の音と、笛の音。

徐々に大きくなる音にも関わらず、少女の声はハッキリと耳に届く。

夜に覆われた公園で向かい合う少女の背後から……二つの小さな光が迫って来ていた。

その光と共に大きくなる重厚な笛の音。

カンカンカンカンと危機を知らせる『踏切』の音。

「それでは……」

ポーーッ! っという汽笛の音が鳴り響き……。

少女の背後から一瞬で二つの光球が追い越した。

「お帰り下さいな」

「ッ!!」

巫女は……

少女の背後からやって来た……

特大の『列車』に撥ねられた……。

「あ、ああぁァァアアッ!」

キュルキュルと早送りのように飛んでいく景色。

巨大な鉄の塊である機関車によって運ばれる体。

「な、何なのッ!?」

ありえない……。

こんな所に列車が通るなど。

いや、これは列車などでは無い。

ただの列車などに、祈りの巫女はどうにかなる物では無い。

ただの鉄の塊。

ただの機関車なら撥ねられることなく、吹き飛ばして仕舞えばいい。

切り裂いて仕舞えばいい。

退けて仕舞えばいい……。

祈りの巫女ならそれが可能なのだ。

だが、ソレが出来ない!

交通事故など、彼女にとってありえない現象だ。

なぜなら、ぶつかって来た乗り物のほうが砕けてしまうから……。

ならば……これは一体……。

「く、くぅうううあああ!!」

祈りの巫女に張り付くように押して来る機関車、それを押し除けようとするが……感触がない。

力づくで押し込める事ができない……。

無骨な機関車は、凄まじい勢いと煩いほどの汽笛を鳴らして祈りの巫女を移動させる。

「ふざけるなっ! 私が……私がこんな事でッ!」

これは機関車に撥ねられているのでは無い……。

機関車はただの見せ掛けだ……。

もとより、機関車に撥ねられてもどうということはないが……そもそも感触すらない。

本質は『強制的に移動をさせる』という『概念』

少女によって……ダンジョンの主人によって齎された細やかなペナルティー。

――――夢の時間は終わりだよ――――

――――――――――――――――――――――

ハッと祈りの巫女が気づいた時には、彼女はゴーストタウンの入り口……元の場所に立っていた。

「ッ! アイツは!?」

ゴーストタウンを見てみれば、静寂の支配したゴーストタウンが広がるだけ……。

ダンジョンモドキを形成していた異様な空間もなく、元の静かなゴーストタウンが寂しく佇む。

何も残っておらず悪い夢を見ていたようだ。

「ッ……ふざけているわ……」

逃げられた……。

散々馬鹿にされた後、訳のわからない現象で逃走を許してしまった。

ニヤニヤ馬鹿にしたような少女の口調を思い浮かべる。

祈りの巫女は錫杖を振り上げると……勢いよく地面に突き刺した。

――――――――――――――――――――――

「幼ぉ〜女ちゃぁ〜〜ん!!」

ひぃいいい!

巫女さんヤベぇよふざけんなよ!

集合住宅のベランダを、ポケットパペット【髪の毛のような物を操る能力】で伝いながら移動をしてます。

どーも私です。

ダンジョン解除しちゃったから、幼女ちゃん探すのに手間取ってんのよ。

何処いったあの鬼畜白髪!

何が『囮になって』だ。

手軽に取れる栄養補助食品みたいに簡単に言いやがって!

気軽に手を出していい存在じゃなかったわ!

死ぬわボケッ!

あんなんシャブだわ!

手を出したら最後、違法薬物と一緒だね!

ほら、その証拠に私の体はボロボロだぜ!

「にゅ? 発見!」

髪の毛使って、ベランダから辺りを見渡したら、下の方で豆粒のような二人組を見つけた。

「うぉ〜い! 幼ぉ〜女ちゃぁ〜〜ん!!」

髪の毛をウネウネ動かして下の階のベランダへ次々と降って行く。

「幼ぉ〜女ちゃぁ〜〜ん!! ねぇ聞いてよぉ! あの巫女さんヤベェんだけどっ! バケモンだったんだけどお!」

「……ぬ? あぁオバケ姉ちゃんお疲……いよいよ……」

振り返った幼女ちゃんが、髪の毛を使ってタコみたいに移動する私を見てドン引きした声を出す。

人の顔……と言うか髪みて『いよいよ』ってなんやねん……。

こちとらオマエの無茶振りで、自然現象の権化みたいなバケモンに喧嘩売って来たんやぞ!

「ひ、ヒィ! ……な、なんだ……長髪か。いや長髪が過ぎる!」

「お、負け犬ニーサン生きてたんすね……」

「な、なんとかな……」

負け犬も髪で移動する私を見てビビったようだけと、私だと気づいて安心し……そして二度見した。

「こいつも普通じゃねぇ……」

ちょっと髪が長くなって手足のように動くけど、ビビるこたぁねぇだろ……。

「っと幼女ちゃん! 時間稼ぎはもう良いんだよね? これ以上無理だよ。行けって言うならオマエが行けよ?」

「……むぃ、もういい終わった。祈りの巫女はどうしたの?」

「入り口まで飛ばして逃げて来た。これ以上ホントに無理だからね。マジでヤベェ巫女さんだから!」

「……よくやった」

「そんじゃ……逃げるよ! グズグズしてたら追いつかれちゃう!」

そう叫んだら負け犬が、フッと笑って後ろを向く。

「そうだな……逃げるか」

「……いい加減にあきらめろ」

その負け犬に後ろから幼女ちゃんが蹴りをかます。

「……わたしたちから逃げようとするな。体のプログラムを止められたいか?」

「い、イヤだ! いつでも俺を殺せるヤツの近くにいてたまるか!」

「……今すぐ止めてもいいんだぞ?」

「あ、悪魔だ……」

おん? プログラム?

なんのこっちゃ知らんけど、負け犬の弱みでも握ったのかな?

「……オバケ姉ちゃん。負け犬を利用してオクトー区域を脱出する」

「ん〜……負け犬ニーサン使うの?」

「……首輪は付けた」

怖い表現すんなこの子……。

とか思ってたら……ズズンという音と地響きがゴーストタウンに響き渡る。

「ヒィ! な、なんだ!?」

ゴーストタウンの向こう側で、大地が競り上がる。

そんなこの世のものとは思えないような光景に、心当たりがあった。

「やべ、怒ってるわ……」

間違いなく巫女さんの土地転がしのようですねぇ。

「……あたまオカシイ……」

その光景をみた幼女ちゃんもヤベェもん見たって顔してる。

うん、オマエあんなのに私をけしかけたんだからね?

反省しようね?

そして、隆起した大地が転がされる。

グラグラと揺れる地面……そして奥から迫って来る爆風のような砂煙……。

「「「に、逃げろーーー!!」」」

――――――――――――――――――――

迫る土砂崩れのような砂埃から逃げる……三人の盗賊。

「ひ、ヒィぃいいい!! な、なにが起きてるんだ!?」

目の下にマジックで描いたようなクマをもつ、小者臭い男……負け犬。

「……オバケ姉ちゃん! アレ何とかして!」

白髪の髪を持つ幼女……白髪。

「出来るかボケぇ!? さっさと走るッスよ!」

胡散臭い少女……長髪。

三人は飛んでくる瓦礫に戦々恐々としながらも、暴風から逃げる。

祈りの巫女から逃げる。

マフィアから逃げる。

貴族から逃げる。

「あっ!? そうだ幼女ちゃん! これ拾って来たんだ!」

「……ぬ、帽子?」

「ちと、クシャクシャになっちゃったけど、髪を隠すのにはいいでしょ?」

長髪の少女がジャンプして、隣を走る白髪幼女の頭に被せる。

「なんてったって私達は……」

オクトー区域から逃げる。

「逃亡者だからね!?」

――――――――――――――――――――――

オクトー区域に拠点を置く勢力……『教会』

各地のパワーバランスの一角を担う教会が、その日、オクトー区域以外の支部にも緊急で情報を共有し、激震が走った。

『人間』でも『妖魔』でもない存在。

それでいて妖魔を操り、何かを企む正体不明の敵。

姿形は小さな少女を模っている。

だが油断はしてはならない。

教会に身を置く信者全員に告ぐ……。

『小悪魔』に気をつけろ。

祈りの巫女を退けた、教会の『敵』である。