作品タイトル不明
ドリームランド
どーも私です。
この度、ダンジョンを開園しました。
いや〜当初の心配を他所に、当ダンジョンは中々の盛況を見せており、嬉しい限りでこざいます。
『やばいジャックだ! 逃げろ!』
『ふざけんな! チェックポイントまでもう少しなのによお!』
当ダンジョンに来店の方々も、アトラクションを楽しんでいただけているようで、走り回って喜んでいますね。
『ヤメロ来るな来るな来るな! ジャーーーック!!』
ユーザーの皆様には、当ダンジョンに満足して頂けているようでなりよりです。
『クソダンジョンがよお……』
入り口に戻された冒険者を眺めながら、ニンマリ笑みを浮かべる。
よ〜しよし。いい感じに冒険者が増えてるぞ!
「だいたい一日に百人くらいかな?」
はたして目新しさで人が来てくれているだけなのか、それとも理を見つけてやって来ているのかは分からないけど、順調なのは間違いない。
領域畑による感情エネルギーの溜まり具合もいい感じ。というかこれ……単純に感情エネルギーだけの溜まり方じゃないな……。
「例えばモンスターとの戦闘とかね……変なエネルギーの入り方してんなこりゃ」
序盤に出てくる弱いモンスターの戦闘で、冒険者たちがそんなに感情を発露するとは思えない。
でも実際は楽勝で勝てる戦いでも、ある程度のエネルギーは得ているっぽいんだよね。
何ぞコレ?
それにイベントだ。半分お遊びで入れたイベントですら、それなりにエネルギーが発生してるんだよ。
まぁ、私の能力だから、深く確認してみれば判明はするんだけど、なにぶんエネルギーの発生箇所が多すぎてイチイチ探ってらんない。
「これもう感情エネルギーとか言ってらんねぇな」
感情以外にもエネルギーが発生してんだもん。暫定的に『領域エネルギー』とでも呼称するか。
イベントなんかも雑に増やすだけで、エネルギーの獲得が更に良くなるかもね。
ともかく、ちょいちょいアップデートもして飽きられないように頑張ってるワケよ。
冒険者たちの進行もだいぶ進んできたし、溜まった領域エネルギーで次のエリアでも作ろうかな。
「……オバケ姉ちゃん。そろそろダンジョンに行こうよ」
「お、もうそんな時間ッスか。了〜解」
幼女ちゃんが帽子を深く被って話しかけてくる。
出かけるのは、いつもの神殿ダンジョンだ。
ウチのダンジョンの事は一先ず置いておいて、金稼ぎに出かけますか。
自分のダンジョンだと金にはなんねぇからね。
スキマから出て、滑り台を降りる。
「……ねぇ、わたしたちも入り口まで転移出来ないの?」
後ろから続いて滑り降りて来た幼女ちゃんがそんなこと言ってくるけど、それは無理なんだよねぇ……。
「冒険者たちがいるのは、あくまで私のダンジョンだからね。そしてココは現実世界の公園なワケよ」
「……?」
まぁ分からんよね。感覚的に覚えてくれればいいよ。
「説明が難しいけど……う〜ん、冒険者達はダンジョンという領域の中でこそ転移が可能なんだよ」
「……私たちがいるのは現実で、ダンジョンは違うってこと?」
「うんまぁそう? 分かりやすく説明するなら冒険者たちは、入り口で立ち止まって夢を見ているようなモン……とかどう?」
違うけど、分かりやすくはあるよね?
「……分かんないことが分かった……」
「そういうモンだって思って」
悪いけど、入り口まで転移して近道なんて出来ないってこと。私の能力ってエネルギーがなくちゃ、そんな万能じゃねぇのよ。
――――――――――――――――――――――
「はぁ! はぁ! はぁ! 何なのよ! このダンジョン!」
一人の女性冒険者が、ゴーストタウンで発見されたばかりの特殊ダンジョンを走る。背後から聞こえてくるのは、ズシャズシャという恐怖を煽る足音。
その主は身長二メートル越えの悪魔のような見た目をした化け物。
鑑定アプリを使用しても反応はなく、自分を視界に入れた瞬間物凄いスピードで追いかけ始めた。
そんなもの逃げるに決まっている。
未知の魔物と戦うなんて危険は冒せない。
それに何より……
「【アイボォォォォオオオオ!】」
……すっごい怖い!
筋肉質の悪魔のような魔物が、クラウチングスタートからスプリンターのようなフォームで走ってくるのだ。
従来の魔物から逸脱しすぎて本能的な恐怖を感じる。
「ッ!」
そして、薄汚れた街の角を曲がった瞬間、何者かに通路に引き込まれた。
「!! な、なに!? 離して!」
「静かにしろ!」
女を通路に引き込んだのは、中年のいかにもベテランといった冒険者。
そのベテラン冒険者は、女に小声で怒鳴ると、建物の影から道路を覗き込む。
「……はぁ、行ったか」
どうやら、このベテランは自分を助けてくれたらしい。その事を実感して体の力を抜く。
「あ、ありがとうございます。助かりました」
「お礼できて偉いねぇ……気にしなくていいよ。キミのお陰でオジサンもアレに事前に気づけたから」
ベテランは、通路に置いてあった木箱に腰掛けてタバコに火をつける。
「ジャックに見つかっちまうなんて、ついてないねぇ」
「……あの化け物……ジャックと言うんですか?」
女の言葉にベテランは少し驚いた顔をすると「新人か……」と呟き、頭をバリバリ掻く。
「あ〜新人ちゃん? キミはこのダンジョン……『ドリームランド』は初めてかい?」
「え、ええ……」
このダンジョンはドリームランドというのか。
「……だろうね。キミはこのダンジョンのことを、何と聞いてやって来たんだ?」
「……安全性の高い……初心者向けのダンジョンだと」
そう聞いてきた。だが、あんな意味不明の魔物が徘徊するダンジョンが安全とはとても思えない。
ベテランはタバコの煙を吐いて「なるほど……」と呟いた。
「概ね間違ってはいないよ。でも初心者向けというのは間違っているかもな。ここからはお節介なオジサンの言葉だけど……聞くかい?」
「お願いします……」
助けてくれたし、悪い人間ではないのだろう。それにベテランの情報をタダで教えてもらえるのは幸運と言える。
「まず、ここは間違いなく『特殊ダンジョン』だね。既存のダンジョンの常識に縛られないダンジョン。そして人工ダンジョンのように無機質でもない」
「……ええ」
特殊ダンジョンのことは聞いている。
「その中でも……このダンジョンは特殊過ぎる……何でこのダンジョンがドリームランドと呼ばれていると思う?」
「分かりません」
「ダンジョンを出るとね……ダンジョンで負ったはずの傷がないんだ……まるで夢を見ていたみたいだってさ。だから『ドリームランド』」
「……それは……随分と優しいダンジョンですね」
「そう思うかい? オジサンは逆に寒気がしたよ……勘のいい冒険者は何となく思ってるんじゃないかな? ここは本当に……」
ベテランは目を軽く瞑り……呟く。
その言葉は妙に心に残った……。
ココは本当に……ダンジョンなのか?
「とまぁ、難しい話は置いておいて、オジサンがこのダンジョンの歩き方を教えてあげよう」
冷え切った空気を戻すように、ベテランはニカリと笑ってイタズラな顔を浮かべた。
「いいんですか?」
「ははっ、気にしないでいいよ。若い女の子に優しくしたい中年の見栄だからね。キミが男だったら、ハイさようならだったよ」
そう笑っているが、面倒見の良さが伝わってくる。たぶん、男だったとしても同じように助けたのではないだろうか?
「新人ちゃん、パイプ端末の通知。無視したでしょ?」
「……あぁ、ダンジョンに入ってすぐの」
確かに来ていたが、何の意味があるか分からなかったし面倒な事になるのがイヤだったので無視をした。
「ドリームランドではまず、ソレを許可してダンジョンアプリを入れないと話にならない」
「ダンジョンアプリ……ですか?」
言われて許可を出せば……確かに地図が見れたり便利だ。
「ここまで魔物との戦いで『色玉』を拾わなかった?」
「はい、一応拾ってますけど」
もしかして売れるかもしれないと拾っている玉だ。
「まぁ、基本的なことはアプリが通知してくれるんだけどね。それ、このダンジョンでは大事な物なんだけど、結構ジャマでしょ? ホラ、ここの項目を使ってみて」
そう言われて、アプリ上の『色玉変換』をやってみる。すると持っている色玉が表記され、手持ちがなくなった。
「それで持っている事になるんだ。最近そんな風に変わったんだよ。冒険者の不便な部分を修正してくれたのかな? 便利だよねぇ。本当に……」
最後の一言は独り言のように……誰にも聞かれないように呟いた。
「怖いよねぇ……見られてるみたいで……」
路地裏に溶けるようなベテランの言葉に、ゴクリと唾を飲み込む。
「後はオジサンが教えるより、自分でアプリを活用して覚えたほうが早いね。お知らせの『あっぷで〜と』はこまめに確認しておくんだよ」
そう言ってベテランはタバコを足で揉み消し、立ち上がる。立ち去ろうとするその姿に、少し心細くなったがこれ以上頼るわけにもいかない。
「あの、ありがとうございました」
そうお礼を言うと、ベテランは片手をあげて笑う。
「さっきの『徘徊獣ジャック』は、捕まっても入り口に戻されるだけだから、必要以上に怯える事はない。それまでのドロップはなくなるけどね」
「そうなんですか?」
「そして最後にお得な情報だ。ジャックはダンジョンアプリの『モンスター図鑑』で確認出来るんだけど、色玉を消費して情報が見れるようになるんだ。オジサンが解禁した情報によると、『ジャックは目がいいけど、音には鈍感』つまり、視界が切れた瞬間に隠れると逃げ切りやすいからね」
色玉の使い道にはそんな物もあるのか。
そんなことを思って、再度ベテランにお礼を言うと、男は立ち去りながら手をヒラヒラさせる。
「ようこそドリームランドへ」
――――――――――――――――――――――
「「「ぎゃぁあああああ〜〜〜!!」」」
洋館の廊下を、ズルズルと引きずられる三人のパーティ。どーも私です!
私は引き摺られる負け犬の足を掴み、そして私の足を幼女ちゃんが掴む。
「うおおお! 止まれ止まれ止まれ!」
「負け犬ニーサン! 離しちゃダメっすよ!」
三人連結の電車ゴッコの先頭には、バッグに噛みついて爆走するチワワのようなモンスターがいた。
なにこの光景……。
え〜事の始まりとしましては、油断から始まりました。
いつも通り私たち三人は、ダンジョンでお宝を漁っていたんだけど、そろそろ今日は帰ろうかってなったんだよ。そうしたら、いつの間にかねぇ……。
「チクショウ! バッグを離せ!」
近くにチワワのようなモンスターがいたんだよね……。たぶん、曲がり角を曲がった時に注意を怠ったのが敗因……。
運が良いのか、そのチワワの特性なのかは知らないけど、攻撃はされずにモンスターは、負け犬の肩から下げていたバッグに噛みついた。
そう、今日一日必死に集めた、お宝の入ったバッグに……。
負け犬は奪われてたまるかとバッグを掴むが、モンスターの力は強く引き摺られる。
私も奪われてたまるかと、引き摺られる負け犬の足を掴む。そして幼女ちゃんも『何やってんだテメェら』とばかりに私を掴んで引き摺られた……。
そして出来上がったのが、チワワに引き摺り回される私たちの光景です。
「うわァァアア! ザコみてぇな見た目のクセに力強ぇええ!?」
いや、すごいよこのチワワ……。
大の大人である負け犬プラス、幼女二人を軽々と引きずって何の負荷もないように走るんだもん。
「……おごっ!」
曲がり角で最後尾の幼女ちゃんが、壁にぶつかって呻き声をあげる。
結局、洋館の廊下を使った電車ゴッコは、チワワの根負けで終わった。
『コイツらしつけぇな……要らんわこんなモン』とばかりに唐突にペッとバッグを離してどっかいった。
「いててて、酷い目にあったッスわ……」
「な、なんとか荷物は死守したな……」
「……わたしだけ被害が多かった……」
うん。最後尾のせいで、曲がり角の度に壁にぶつかっていた幼女ちゃんはご愁傷様。
「なんとか荷物は無事か……」
「う〜ん、思ったよりモンスターの力が強いッスね」
「あれくらい当たり前だろ。俺たちは大人しく魔物から避けて活動するしかない」
「でも、入り口から遠いほうが良いモン拾えるんすよね?」
「そりゃあそうだが……」
う〜ん、安定して稼げているんだけど、そろそろ稼ぎを増やしたいのも確か。
そのためには、どうしてもモンスターの存在が邪魔になるんだよね。現状モンスターからのドロップは諦めてる状態だし。
「どうにか出来ないもんかねぇ……」
そんな呟きを幼女ちゃんが拾う。
「……利用できそうなの……居るかも」
え、マジで?
まあ、話だけでも聞いてみようか……。