作品タイトル不明
快適な堕落
「ここッスかね?」
「……うん」
幼女ちゃんが番号の書いてある扉の前でチケットの番号を見比べる。
チケットカードと、部屋のナンバーは連動しているようで、目の前にある客室がこの船旅での部屋ということになる。
「んで、アレにカードをかざすと部屋の扉が開く……と」
「……そう」
「へ〜」
なんとタッチ式の扉解除だそうだ。普段は常にロックがかかってるってことだね。セキュリティがしっかりしているようで、流石は豪華客船。
これ多分、前の世界のホテルと同様にインキーあるよな?
「……」
「……」
ところでさ……。
「届かなくない?」
「……」
ボーっと口を開けて見上げるしかない幼女二人……。
いや、タッチする場所が高ぇよ! もっと低い位置に設置しろや。こちとらお子様やぞ!
「仕方ないッスね……」
私は扉に両手をついて腰を落とす。
あ、別に新能力のお披露目とかじゃないよ。
「……んしょ……んしょ」
その私の背中を幼女ちゃんが登る。子供二人分の身長を使ってようやくタッチ。
ピピッ!
扉のロックが解除されてプシュっと開かれた。
「……しゅた」
私の上から身軽に飛び降りた幼女ちゃんは得意げだ。
はいはい、お疲れ。
ところで何で靴脱がなかった?
え? このクソガキ当たり前に土足で背中に登りやがったんだけど。そういう文化か? 背中に足跡付いたらどーすんだオラァ……。
部屋の中は、狭めぇな……。
大人一人が通れるくらいの通路が二メートルくらい続いて、その奥に二列の縦穴。これベッドか。
アレだ。カプセルホテルみたいな感じだね。
豪華客船とはいえ、私たちの取ったチケットはその中でも極安の物だったからね。まぁ贅沢は言わんよ。
それにベッドの天井は低いけど、子供の体なら直立も可能だしね。
なにより狭い所は落ち着く。
「ん〜、それにしても」
「……面倒くさい」
流石に出入りの度、幼女組体操やってらんないわ。
「あ〜スキマ作るのが一番いいかな?」
「……わたしは解除する」
そうね、幼女ちゃんもこのタイプの扉なら自分で開けそうね。
んじゃまぁ、さっそく扉にスキマを設置するか。
コチコチコチコチ……チーンッ!!
ニュルン。
外に出る時は人がいないのを確認してから飛び出さなきゃね。見られたら変に思われちゃう。
まぁ、これで出入りは楽にできるようになった。幼女ちゃんも自力で開けられるから、わざわざ私に頼らなくてもいいし。
これだけセキュリティがしっかりしてるなら、不意に押し入られる危険も少ないだろうし、安全面としては――――。プシュ
「にゅぅぅううん……」
「……うおっ」
いきなりスキマからズルリと押し出されて、私は幼女ちゃんの目の前にうつ伏せで転がった。
幼女ちゃんよぉ……。スキマに入ってる時は扉開けるのやめてくんね?
スキマが解除されて、見ての通り押し出されちゃうからさ。
うおっじゃねぇよ。ドン引きした顔すんな。
オメーが引き起こした光景だわ。
――――――――――――――――――――――
そして待ちに待ったビュッフェ形式の食堂!
入口でチケットカードをかざしての入店。ここは店員さんが立ってたから問題なくタッチできた。嫌な顔もせずに、わざわざ子供に届くように機械を下ろしてくれたよ。
店内は幾つものテーブルが並んでいて、料理が綺麗に並んでいる。そして壁際には料理人らしき人達が個別に焼いたり切り分けたりしていた。
おお、いいじゃんいいじゃん。the金持ちって感じ。こういったところで食事すると、自分が上流階級の存在になった気がしていいよね。
よっしゃ! 食うぜ!
幼女ちゃんも今のうちにに食い溜めしとけよぉ。
チケット代高かったんだからな!
さっそくローストチキンみたいな肉を切り分けて貰って咀嚼。よく分からん柑橘系のソースと、ギトギトの油がうめぇ! なんか油って美味ぇよな!
「おほほほ、なかなかお上品な味ざまッス!」
「……善きにはからえ」
――――――――――――――――――――――
「お嬢様方……」
「あ〜らぁ、シェフ。いいお味ですことよ!」
「……苦しゅうない」
「ありがとうございます。シェフではありませんが」
「ごめん遊ばせぇ〜。いい腕だとお伝えくださいまッス?」
「……褒めて遣わす」
「お嬢様方……」
私たちがお上品に食事をしていると、シェフじゃないけどお店の関係者らしき人物が話しかけてきた。
「食べ物を容器に入れて持ち帰ろうとするのはおやめ下さい」
あ、ダメッスか。すんません。
――――――――――――――――――――――
「うっぷ!」
「……ぬぅ」
食い過ぎた。
いやぁ、美味かったから仕方がないよね。容器に入れて持ち帰られないなら、胃袋を容器にすればいいじゃない! ということで食い過ぎたわ。
後半のほうは旨さよりもキツさの方が強かったんだけどね。
「いつ食えなくなるか分からんからなぁ」
「……王都に着いたらセツヤク」
そだねぇ……。チケット代で結構使っちゃったからさ、アッチに着いたら対策考えないとメシが食えなくてマジで飢える可能性があるんだよ。
それが分かってるから、私も幼女ちゃんも腹一杯食おうとしちゃってんだよね。
まぁ、食い溜めなんて出来ないんだから無駄なのは分かってんだけど。
「あ〜、何日で着くんだっけ?」
下のベッドで腹を出しながら寝そべる幼女ちゃんに話しかける。
「……んと、七日」
七日かぁ、結構掛かるな……。
ん〜、少しおかしいか? 私は飛行船で五日掛けてコッチに連れてこられた。
それが、列車で二日と船で七日……それで領地から脱出も出来ないとか。
まぁ、何となく予想は出来てんだよね。
「たぶん、飛行船が早いんだな……」
列車に乗った時の景色の進みから見て、それほど遅いとは感じなかった。
そして豚貴族の飛行船に乗ったとき、外に出ても風を感じたり揺れを感じたりしなかったんだ。恐らく魔法なんてある世界だから、そこらへんの影響がない仕掛けがあるんだろうけど。
そのせいで、とんでもないスピードで飛行してる感覚がなかったんだろうね。
「たぶんこの世界……人間の生存圏に比べて、自然が広大過ぎるんじゃねぇかな?」
だから大自然の領域を飛行船でブッ飛ばさなきゃ他領まで辿り着けない。
地図を見た時に気づいたんだ。領地同士が隣り合ってないって。
普通さ、国内の領地を区切る時ってさ。国境みたいに国の境目がハッキリしてるもんでしょ。
「この世界には恐らくそれがない」
前の世界の国境みたいに隣り合ってるんじゃなくて、離れた位置に隣の領地があるんだ。
地図には駅みたいに離れた位置に、ポツンと領地の線が書いてあったからね。つまりそこ以外は未開拓なんだ。
まぁ、全部私の予想になるけど。
土地が広いんだろうね。そして人類圏の部分以外は過酷な環境が広がってるから、他領に行くのに飛行船以外の移動手段が乏しい。
豚貴族の飛行船から外を見た時の光景でそう予想した。たとえば、窓から世界樹みたいなデケェ木が見えたんだよ。
いや、世界樹というには剪定した松の木みたいに曲がりくねってやがった。ある意味迫力満点だったけどさ。
問題はその大きさ……。
豚貴族の巨大飛行船が、世界樹松の木と比較すると、まるで『ミツバチ』なんだもんよぉ……。
しかもそれが何本も見かけたっていうね……。
「そんなヤベェ大自然を避けて、ちょっとずつ生存圏を広げて領地になったんだろうな」
あくまでも予想なんだけどさ。
――――――――――――――――――――――
「幼女ちゃ〜ん。飲み物買ってくるけど来る?」
「……いい、部屋にいる」
船旅が始まって三日目。
かなり順調。というか平和そのもの。
もともと引きこもり気質の私はもちろん、逃亡者の自覚がある幼女ちゃんも、迂闊に出歩くことがあんまりない。
メシか風呂の時くらいしか部屋を出ない。まぁ、私は夜中に出歩いていつもの厨房漁りやってんだけどさ。
問題は幼女ちゃんだ。
「コイツ、マジで動かねぇ……」
食って寝て、起きてる時はずっとパイプ端末弄り。
このまま行くと幼女ちゃん太るんじゃね?
いや、別にいいんだけどね。
アッチについたらゆっくりする事も出来なくなるかもしれんし。幼女ちゃんがおデブちゃんになったところで私に関係はない。
いや、太って足が遅くなったら逃亡に支障がでるけどさ。
まあ、太ろうが幼女ちゃんの責任……とは思うんだけど……白髪ママに再会した時。
「ブヨブヨの幼女ちゃんになってたら文句言われんかな……」
い、いかんか?
私に関係ないで通せるか?
いや私は幼女ちゃんの保護者じゃねぇんだからさぁ。
幼女ちゃんも私に運動しろなんて言われる筋合いはないだろう。
「…………」
仕方ねぇな……。つまらん事でママさんの怨み買いたくねぇし。
「でも運動させるって言ってもなぁ。幼女ちゃんも私に言われたくないよなぁ……」
なんか上手い案はないもんかなぁ……ないよなぁ。
「はい! 有りま〜す!」
いや、ガキを手玉に取るくらい訳もねぇッスわ。舐めんなよ!
幼女ちゃんが自発的に運動するように仕向ければいいんだよ!
自発的に運動なんかするかって?
大丈夫さぁ……
「そう! ゲームならね!」