作品タイトル不明
話し合いましょう副店長
女がドアノブを回す。
少しだけ開いた後、迷いを見せた女はゆっくりと扉を開いた。
「……そう、もう出たのね」
外は陽が落ちたばかりで暗くなっている。だが、寝る時間というには早すぎる時間……。
だが、その部屋は灯りが点いておらず、部屋の主が存在しない事を示していた。
謎の幼女二人は、いつの間にかその痕跡さえ残さずに、本当にいたのかさえ疑うほどに自分の前からいなくなった。
「ハァ……ひと段落といった所かしら?」
明らかに訳アリ、そして貴族関係のある二人組を匿うのは胃にダメージを与える行為だった。
だが、それを上回る利益を得たつもりだ。
呪いの解呪が終わった商品は、抱えているだけで資金を食い潰す物から、極上のお宝へと変貌を遂げた。
金のなる木である能力を持つ少女だが、囲い込むつもりは毛頭ない。これ以上関わるのは破滅を招く。
「まるでギャンブルね……」
だが、そのギャンブルに勝った。
安堵と共に、ドッと疲れが押し寄せる。
言い方は悪いが、居なくなってくれてホッとしていた。
貴族に狙われているであろう少女達には悪いが、災いを招き入れるつもりはない。
あの二人が安易に助けを求めてこなくて本当に良かった。そんなことをされても、ただの商人には何も出来ない。
せいぜいが警察に相談して保護してもらう事くらいだろう。しかし、恐らくそれは……少女二人の詰みになり得る。大きな権力を有する貴族が警察に根回ししていないわけがない。
その点をふまえて、あの二人は弁えていた。コチラの事情を察して商人として手を出すギリギリの交渉を行ってきた。
少女二人は知っているのだ。
あの年で……世の中は綺麗事だけで出来ていない事を。人の善意など不安定なものだと言う事を。
それに影響されたと言われたら否定はできない。
「決着……つけなきゃね……」
幼なくとも自分に交渉を仕掛け、見事に自分の利益をさらっていった二人に看過されたのかもしれない。
目を逸らしていた事から、あの二人のように立ち向かう決心を決めたのだ。
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「副店長……お店を閉めたら話があるわ……残ってちょうだい」
引き継ぎが終わって、他の従業員が帰り支度を始める中で私は副店長に声をかけた。
「……なんですかな? 店長」
自慢なのであろうマキヒゲを弄りながら、副店長は不思議そうにしている。
「店舗の事で相談事よ」
「ふむ、分かりました。セキュリティを作動させたら向かいます」
副店長……泥棒の犯人は恐らくこの人だ。
先代、つまり私の父の代から副店長を務める彼は、娘というだけで店長に納まった私の事が気に食わないのだろう。
事あるごとに嫌味を言われ、遠回しに馬鹿にされてきた。私が女だと言う事も、彼にとって面白くないのかもしれない。
本当は泥棒の正体が副店長だと察していた。彼しかいないのだ。セキュリティの張り巡らされた店舗内で盗みを働けるのは……内部の犯行だ。
そして私に恨みを抱いているのは副店長なのだ。
そして何処で知ったのか、私のネックレスを狙っているらしい。
あの胡散臭い少女がネックレスが狙われていると言った時、この時が来たか……と思った。
立ち聞きをしたと言っていたが、恐らくあの映像を撮る能力で副店長がネックレスを狙っている事を知ったのだろう。
確定だ……副店長はネックレスの秘密を知っている。
「それで……どうかしましたかな?」
副店長は鷲鼻の向こうから値踏みするような視線を向けてきた。
「そうね……本題から入りましょうか……私が気に食わないのは分かる……でも、店舗から商品を盗むのをやめて貰えないかしら?」
「…………………………………………なんと?」
副店長は目を丸くした。
そもそも、なぜ私が犯人の副店長を今まで見逃してきたか……それは彼の有能さにある。
先代から支えていた副店長は従業員から信頼が厚く、それでいて彼じゃないと分からない仕事も多い。
悔しいが、彼がいないと店が回らないのだ。
「ハァ……」
副店長は大きくため息を吐くと、首を振りながら肩を落とした。
「証拠でもあるのですかな?」
予想通りの返しだった。
「…………ないわ」
そう、証拠はない。
たぶん、胡散臭い少女は掴んでいたのだろう証拠。
だが、私はその証拠をあえて望まなかった。
確定させたくなかったのだ。
副店長が泥棒の犯人だと確定させて糾弾してしまうと、彼を警察に突き出すことになる。それだけは避けないと、今のままでは店が立ち行かなくなってしまう。
だから釘を刺すだけだ。
「……話になりませんな……憶測で物を言わないで貰いたい……不愉快ですな」
「そうね。謝るわ」
目を瞑り謝罪をする。腹立たしいが今はこれで良い。
そしてもう一つ。釘を刺す事がある。
「それと、何処で知ったか知らないけど……ネックレスを手放す気はないわ」
「ッ!」
副店長の反応は劇的だった。驚愕を浮かべたその顔に、してやったりと嬉しさが込み上げる。
「つまり……店長はそれがどう言った物か……分かっている……と言う事ですかな?」
「……ええ、狙っているのだから副店長も分かっているのでしょうけどね……父からネックレスをもらったのは私よ」
「それでも手放す気は……ないと。……厄介ですな」
「ええ、このネックレスは……」
このネックレスの秘密……そして副店長が狙っている目的は単純な事だ。
「呪いがあるのでしょう」
「大金庫のカギ…………は?」
「は?」
「………………」
ん? あれ?
聞き間違いかしら?
「………………大金庫のカギ?」
「………………呪い?」
微妙な空気が私達の間を流れる。
副店長も目を点にして首を捻っている。
「少し……話を整理した方が良さそうですな」
「え、えぇ」
もしかして私は……とんでもない思い違いをしていたのかもしれない。
「……そのネックレスは大金庫のカギなのですかな?」
「……」
「いや、今更でしょう」
黙秘をした私を、副店長は呆れた目で見ていた。
「それで、私が大金庫を開けるために狙っていると……」
「ちがうの?」
「違いますな」
「だったら何でネックレスを狙ってたのよ!」
「そのネックレスには分かりづらいですが、呪いが掛かっているからですな。宝石を見る目があっても分かりづらいほど隠蔽されてますが……というか気づいてなかったのですかな?」
「…………あっ」
「呪いがあると分かっていても、先代の形見だから手放せないのでは……なかったのですかな?」
「いや、呪いが掛かってたら着けないわよ。それと思い出したわ……このネックレス……呪いに見える魔術が掛かってるのよ」
「……なんと。では呪いは……言っても聞かないでしょうからコッソリとすり替えようとしてたのですが」
「ないわ……そもそもカギと言う事を隠す為に、偽装する魔術だからよほど眼識に優れていないと分からないらしいけど……私には分からなかったわ」
だから忘れていた……。
肩の力が抜けるのを感じる。
「そもそも、大金庫は私も開けれますな……」
「……嘘でしょ」
「先代からカギを貰ってますから……ネックレスとは形状が違いますけど」
「……」
「この際ですから……しっかりと話し合いましょう」
「そうね……コーヒー入れるわ……」
疲れた……。
副店長が嫌な奴だと思って避けていたのがいけなかったのかもしれない。
ずっと敵だと思っていた副店長が、別に大金庫を狙ってないなんて……。馬鹿みたいだ。
「そうですな。ちなみに泥棒ならもう…………ガッ!」
「……副店長?」
ドサリと物が落ちるような音が聞こえて、副店長に振り返ると、うつ伏せに倒れていた。
「ちょっと! どうしたのよ?」
その背中にはコードの様な物が付いていて、針が制服に刺さっていた。
「あ〜あ〜、ついてねぇな……こんな日に限って従業員が残っているなんてよ……」
コードの伸びる先の暗闇から聞きなれない声が聞こえた。
「仕方ねぇ……計画は予定通りだ……奪うぞ」
「「「おう」」」
その暗闇からゾロゾロと、足音もなくピエロの仮面をつけた集団が出てきた。
「あ、ああ……」
パニックを起こす思考。
そんな中……ある少女の声が頭に響いた。
『商品ラインナップとして『ネックレスを狙ってる人物』と『泥棒について』の二点がありまして』
何故……ネックレスと泥棒についてを分けた……。
それはネックレスを狙っている副店長と泥棒は別だったからなのではないか?
「本来ならポリシーじゃないんだがな……予定は変えられねえ……殺せ……」
今となってはもう、少女の思惑を察する事ができない。