作品タイトル不明
入り込んでいた盗賊団
「グッ! て、店長、警察を……」
「副店長!」
床に倒れた副店長が呻きながらケース棚に視線を向ける。
「早くッ!」
オロオロと駆け寄ると、副店長は鬼気迫る顔で叫んだ。普段から大声など出さない副店長の態度に驚く。
それでもゴクリと生唾を飲み込んで、言われた通りケース棚の裏にあるボタンに触れ魔力を流した。
けたたましいベル音が店内に鳴り響くと、ピエロ盗賊団と自分達を分つ様に、鉄格子が勢いよく降りて来る。
「ハァハァ……」
「あ〜まあそうなるよな」
極度の緊張から口の中が乾く。
無事に警察を呼ぶ事ができて若干の余裕が心に生まれるが、ピエロ盗賊団の親玉らしき男は、面倒臭そうに呟くばかりで焦る様子は見られない。
その態度が不安を掻き立てた。
「あ〜ついてねえよな。アンタもそう思うだろ姉ちゃん?」
頭を掻きながら、そう呟く親玉らしき男の視線がコチラに向けられる。
「念入りに準備して、いざ決行だって時によお……たまたまアンタらが残ってるなんて誰が思うよ? ホント、ついてねえわ……でもな――」
仮面の向こうから覗くその目に背筋が凍る。
「アンタらほどじゃねえな」
男がそう言った瞬間、鉄格子に歯車型魔法陣が浮かび上がる。
「そんな……解析されてる」
歯車型魔法陣はカチカチと、その模様を組み換え、鉄格子の制御を乗っ取り開け放とうとしている。
「警報装置の通信から警察がやってくるまでどれくらいだ? 一時間か? 二時間か? どちらにせよアンタらを殺して大金庫のお宝を奪うまでお釣りがくるわな」
「ッ!」
その通りだ。
警察が来るまで二時間は掛かる。
本来ならそれで十分な時間のはずだった。セキュリティを作動させ、店内の鉄格子を下げさえすれば二時間など楽に稼げるはずだった。
解析さえされてなければ……。
「ッ店長! 今のうちに逃げますよ!」
副店長の声にハッとなり、腕を掴んで立ち上がらせる。
「でも、一体何処に……」
自力で歩行が困難な副店長に肩をかし、フラフラしながら店舗の奥へと足を進める。住居側はダメだ。泥棒の入って来た方向へ向かわないと辿り着けない。
どう足掻いても店舗の奥へと逃げるしかない。
「グッ……大金庫しかありますまい。あの中ならちょっとやそっとでは解けないくらいの頑強さがありますからな。警察が来るまで籠るしかないでしょうな」
苦しそうに呟く副店長と一緒に、奥へ奥へと歩みを進める。通路を通ったあとは、隔壁と鉄格子を下ろすのを忘れない。
「時間稼ぎだけど……やらないよりマシよね?」
「そうですな。解析されたとはいえ、突破するのに時間は掛かるでしょうからな」
「大金庫も……解析されてるのかしら……」
「可能性は高いと思いますな。賊は大金庫の中身を狙ってるそうですからな。そう考えるのが正しいかと……」
袋小路……唯一の希望である大金庫すら安全ではない。それでも大金庫に逃げるしかない状況は、死地へと自ら足を進めている感覚に陥る。
それでも、最後の望みをかけて歩き続けるしかないのだ。
「ハァハァ……」
「……」
「ハァハァ……」
「……店長」
「なによ!」
「置いて行きなさい……」
その言葉に驚き、肩をかしている副店長へ視線を向ける。
「……いくら隔壁や鉄格子を下ろしたところで時間の問題ですな。それならばいっそマトモに歩けない私が足止めをしましょう」
「……」
脂汗を流しながら副店長は自力で立とうとする。
「なに、これでも若い頃は体を鍛えていたのですよ! 賊の一人や二人! 一捻りですな! 警察が来る前に私が捕らえてみせましょうぞ!」
ニカリと下手くそな笑みを浮かべる。
だが、誰が見たところで無理をしているのは一目瞭然だった。
「ふ、一人や二人ですって? ……十人はいたわよ」
副店長の強がりに状況も忘れて吹き出してしまった。
彼の主張を無視して両足に力を入れる。
一人で残った所で幾分も時間など稼げるものか……。
本人も無茶を言っているのは分かっていたのか、大人しく肩を貸されたまま無言で歩く。
「……」
「……」
「……体は大丈夫なの?」
ただ無言で歩き続けるのも気まずくて声をかける。
「問題ありませんな。体に電気を流されたようですが、少しすれば痺れもなくなるでしょう。防犯のためにウチでも導入を検討しましょう」
「そうね……無事だったらね」
「……」
「そういえば、泥棒って誰だったのよ。まさかあの盗賊団の事じゃないわよね?」
「ウチの職員でしたな。醜聞になるので大事にはせず独自に捕らえましたが。現在は教育中です」
「そう……私は舐められたのね」
店から商品を盗んだのがウチの職員、その言葉が心にのしかかる。つまり私なら騙せるだろうと職員に思われたのだ。
「古い考えですが、女性というだけで侮る者は今だにいますからな。上に立つのが女だということで気に食わなかったのでしょう」
「副店長は……違うのかしら?」
「……ふむ」
副店長の口から出た言葉、それは皮肉にも私が副店長に対して思っていたことだった。
「そもそも、店長を店長に推薦したのは私ですな」
「え!? 聞いてないわよ!」
「言ってませんからな。先代から店を引き継いで、アナタを鍛えてくれと言われたのですが……柄ではなかったのでアナタを店長に推薦しました。ま、押し付けたとも言いますな」
「なんてこと……」
ますます私は馬鹿じゃないか……。
「私が気に食わないのは……無能が上に立つ事ですな」
その言葉にドキリとする。
「……」
「……」
「……まぁ、及第点という所でしょうか。少々視野が狭くて我が強く、顔に出やすいのが傷ですが、意欲と負けん気が強いのはいい事ですな」
「褒められてる気がしない!」
「それに成長もしてますからな。口を出せば嫌な顔をしながらも改善しようとする。鍛えがいがあるのはいい事ですな。おかげで泥棒と思われたのは癪ですが……」
「わ、悪かったわよ! 嫌味を言われたら私の事が嫌いなんだって思うじゃない!」
分かっている。勘違いしたのは自分で、副店長は私を成長させるために言ったことは。
でも恥ずかしくて大声を出して誤魔化す。
大金庫へ続く最後の隔壁と鉄格子を下ろす。
「……着いたわ」
目の前に現れる巨大な金庫。幾つかの魔法鋼を組み合わせて作られた鉄の金庫は鈍い光沢を放つ。
丸く取手の付いた扉にネックレスを向けると、魔法陣が浮かび上がり解錠する。
金庫とは言うが、内部は小部屋のようになっており特に価値が高いものを保管する倉庫みたいなものだ。
「……開けるわよ」
緊張から取手を握る手に汗が滲む。
もし、とっくに大金庫の解析が済んでいたら……。
もし、とっくに大金庫まで辿り着かれていたら……。
もし、大金庫を優先されていたら……。
大金庫の中には既に、盗賊団がいることになる。
ありえない話ではないのだ。十中八九、大金庫の解析はされている。奪われるのは決定事項。
それでも、ここに逃げ込むしかない。
最後の砦。
扉を開けた時に盗賊団がいる時点で、お宝どころか私達の命まで奪われることが決定するのだ。
握る手に力が入る。
開けた瞬間、ニヤニヤとコチラを嘲笑う盗賊団がいた瞬間に命運が尽きる。緊張しないわけがない。
ゆっくりと、鉄の扉が横に回転し開かれる。
居ないで……
そんな一途な願いを込めて。
だが……
私はついていないのだろう……。
「そんな……」
私の願いも虚しく……
それが聞き届けられることはなかった。
全てを嘲笑うかのように、すでに大金庫の中には盗賊団が入り込んでいたのだ。
「えっさ!」
「……ほいさ」
「えっさ!」
「……ほいさ」
大金庫の中では、テーブルを協力して運んでいる二人組の幼女盗賊団が入り込んでた……。
それ、大金庫にあったお宝の一つよね。なんか盗みだそうとしてるんだけど……怒ったほうがいい?