作品タイトル不明
続―――???
『なんにもわかんないね・・・』
意気揚々と歩き出したものの、暗礁に乗り上げるまでが早かった。
理由は単純。
『名前もわからねぇんじゃ、どうしてもな』
言わずもがなだが、色んな事を忘れていくような空間ってのは、何かを探すのに向いてない。
顔も、名前も、その存在さえ忘れてしまうような空間じゃな。
『おにぃちゃんはわたしのこと、いつまでおぼえててくれる?』
『今のところ、忘れる予定はねぇけどな』
『そこはうそでもいっしょうっていうところでしょ!』
『名前もわからねぇんじゃ、どうしても・・・な』
『それはそうだけど・・・』
プンプン! と、わざわざ口で言いながら怒ったかと思えば、萎れるまでも一瞬だ。
『でも! わしたしもおにぃちゃんのなまえ、きいてないよ!』
『それがどうも、さっぱりでな』
『わ~! いっしょだね!』
『あぁ。嬉しくはねぇけどな』
『うん、そうだね。ぜんぜんうれしくない』
俯く瞳には涙が滲み、唇を尖らせるのは噛みしめないための抵抗か。
『なんにもおもいだせないの? どこのだれなのか、なにをしてたのか、なんでこんなところにきちゃったのか―――』
『どこの誰かは微塵も思い出せねぇな。何をしてたのかは・・・多分冒険者だろ。さっきもすんなりと言葉が出たしな。なんでこんなところに来たのかについては、俺も誰かに聞きたいな。ここがどこだか、見当もつかねぇよ』
しばらく歩いては、声を掛けて無視されるを繰り返す。
返ってくるのは視線だけで。
しかも、その目でなにか訴えるわけでもなく、ただただ虚無が浮かぶ。
今どこに居て、どこへ向かっているのかも不明。
進む先が東西南北どこを向いているのか、それさえ知ることができず。
目印になるようなものもないせいで、
『おにぃちゃん・・・さっきもこのひと、いなかった?』
同じ場所を迷っている気になって来る。
星の位置でも、木の年輪でも、方位磁石でも、場所を記した杭でも、何か1つでもありゃぁマシなんだが・・・なんて、つらつらと出てくる辺りが、冒険者疑惑を濃くしていく。
『周りの顔には見覚えがねぇから、コイツも歩いてきたか、他人の空似だ』
『じゃあ、あっちのひとは? あのへんなふく、もってるひとぜったいすくないとおもう!』
『ありゃぁ大道芸人の服だな。珍しいが仕事着だ。同じ仕事をしてるなら、似たような格好をしててもおかしくはねぇよ』
『それってどんなことするおしごと~?』
『あー・・・刃物でお手玉したり、デカい球に乗ったり、人をからかうのが仕事――』
『それってほんとうにおしごとなの?』
『どうだろうな。本人に聞けりゃぁよかったんだがな・・・』
一応。声を掛けてはみるが、やはり視線をくれるだけで無視だ。
それ以外は歩いてるか、止まってるか。
その違いについても謎だ。
なにせ聞いてみても、誰も何も言わねぇんだからな。
『ほかにはなにをするおしごとなの?』
『そうだな・・・後は―――口から火を吐いたりしたはずだ』
『わ~ッ‼ すごいね! おにぃちゃんといっしょだ‼』
おかしなことを言う。
『そうなのか?』
『うん! わたしもいつかはできるようになるって、おにぃちゃんがいってた! みんなそうなんだね!』
そんなはずねぇだろって言葉は飲み込んで。
だとすると、この子の兄は大道芸人だったのか?
だから服を見て何かを感じた?
少しでも情報が欲しいところだったことだし、ここは深掘りしていいかもな。兄を探す上での手掛かりになるだろう。