作品タイトル不明
送風
カップを想像してみて欲しい。
その底へ空気を送るにはどうすればいいか?
意思があれば上から息でも吹き込んでしまえばそれで終いだが・・・自然にそんな思惑なんざあるわけもなく。
通常であれば、風は上部を撫でるだけでこんなに吹き下ろしたりはしねぇ。
むしろガス溜まりになってねぇかを注意するほどに空気の循環がない。
それがなんで?
「可能性で言うなら、風の通り道が存在している場合が考えられるね。探知は遠くになればなるほど精度が下がる。君達は上から、それも少し遠くからこの亀裂を探知したから、反対側の底付近に穴でも空いてれば、風が通っていても不思議じゃない。亀裂の向こう側が谷へ繋がっているとかね」
「そうじゃねぇ場合は?」
谷ってのは山と山の間に出来る。
だが、この山はほとんど一塊。連なるような山もなけりゃぁ、現在位置は中央付近。欠けがでるほど端でもない。
似たような割れ目が連続してどこかへ繋がってる線もないわけじゃねぇが、その可能性は限りなく低いな。
なぜなら、この割れ目は雪で埋まっていたからだ。
風の通り道には風が吹くんだ。常時じゃなくとも、頻繁に風が通ることを考えりゃぁ早々に埋まったりなんざしねぇはず。被さってるのが掘りやすい雪じゃなく、氷のように硬ければまだ信憑性もあった。
「そうだね。なにかが動いている・・・とか?」
「なにか・・・・・・」
「ご存じの通り、我々人間だって、移動の時には風を感じる。これは体が風を押しているが故に感じるものだ。速く走れば自分だけでなく、周囲の人間にも風を感じさせられるだろう? それは動くものが空気を引き連れているからだ」
「この風をか?」
「この風を、だね」
鳴り響く音は地響きのような大きさで、身体に受ける風は気を抜けば吹き飛ばされそうなほど。
「ゼネス。アンナは気付いていると思うか?」
「どっちにだ?」
俺達の会話を聞いていたクライフが思わず言う。
「風の原因にだよ」
「気付いてねぇだろうな」
「そうだよな・・・ここを斜めに進んだのだって――」
「風に吹かれて移動が楽だとか、そんな理由だろ」
「背中を押されてるんじゃなくて、引き寄せられてるなんて考えないよな」
「教えたとして、止まるようなたまか?」
「いいや。絶対に”仕留めれば生態から周囲の調査に繋がって丁度いいじゃない”とかいうな」
若干クライフの頭の良さが反映されているものの、丁度いいとは言いそうだと思った。
「だとすると、なにが居るか・・・ですね?」
「山の中、こんな亀裂に住み着く生物なんて、そうはいないだろうからね。なにより、この風の量を考えればかなりの巨体だろう。岩盤・・・いや氷の壁かな? それを掘り進むモンスターと考えるのが妥当かな?」
「ワーム・・・は、この環境じゃ生きていけないよな。上位種のイーター? だとしたら食事中ってことになるけど、この音は風だけじゃなかった?」
「あるいは戦闘中かもな。ワームやイーターは自分達の掘った穴を縄張りだと認識してる。そこに侵入し
た生物が居れば、敵として攻撃することが多い。こんな場所でそんな生物がいるかは謎だがな」
「一先ず結界の張り直しは後回しでよろしいでしょうか?」
口々に発せられる情報を処理しながらも、折を見て降下を続行する。
合流と共に、伝達も済ませて。