作品タイトル不明
同じ席
「あ! クライフさん‼ 今丁度、お客様に皆様のお話をさせていただいていたんですよ‼」
「聞こえてたよ、外まで。するなとは言えないけど、少し声を抑えてくれると嬉しいかな」
「そうでしたか! すみませんっ‼」
「謝ることじゃないけど、恥ずかしいからね」
「あはは、そうですか? 私は立派だと思いますよ‼ 恥ずかしがるようなことじゃ・・・」
「失敗談は隠してくれたのか?」
「まさか! 勇者パーティーになってからの全部をお話していたところです。キマイラの討伐まで終わりました‼ それより、他の御三方は一緒じゃないんですか?」
「ああ、皆は先に工房へ素材を運んでくれてるよ。俺は依頼の報告をしに」
「そうですか。それでは確認させていただきますね」
ギルド職員はクライフの手から、何かを受け取って場を離れる。
「すみませんね。お話の邪魔をしてしまって・・・」
1人になったクライフが申し訳なさそうに振り向く。
「いや、十二分に聞かされたさ」
「そうかい? これからってところだったと思うけどね」
「ゼネス⁉⁉ それにジーナまで⁉⁉ どうしたんだ⁉⁉」
振り返る機会を失ったまま、クライフがこちらを向いて状況が動き出す。
「私は彼の付き添いでね――そんな顔をしても本当のことだよ? 今の私は君達よりも頼りにされているのでね」
「・・・そんなわけがねぇだろ」
「おや? だったら話を切り出すべきだろう。尻込みなんてらしくもない」
「さっきの話が冗談なのはわかるけど・・・満更、嘘でもなさそうだ。なあゼネス。何があったんだ?」
ほんの僅かな躊躇いさえ、気付かれるような関係値。
それが仇になるとはな。
こういうのもなんだが、クライフもこれで聞き分けが悪い。
適当に誤魔化すのは無理だろう。ジーナの奴もいることだしな。
「ここでするような話じゃねぇよ。向かいの酒場で待ってるから、アンナ達も連れて来い」
言うが早いか、背を向けるが先か。
返事も訊かずにとっととギルドを後にする。
「あ、おいっ!」
「クライフさん! 依頼内容の確認ですけど―――」
「えっ? ああ、はい―――」
引き留めようとしたクライフを寸でのところで阻むのはギルドの職員。
おかげでそのまま外まで出られた。
「この期に及んでまだ先延ばしかい?」
「同じ話を何回もするつもりはねぇんだよ」
「なるほど、実に真っ当な言い訳じゃないか。それなら少しばかりの延命も認めてあげなければね」
「なんでお前が・・・いや、いい。何にも言うんじゃねぇ」
クライフ達の話を聞いている間に西日が射していたのは気付いていた。
今はそれも過ぎ去り、いくつかの星が瞬く。
まるでそれを見に来たかのように、町にチラホラと人影が見え始める。
夜は冒険から帰った者達の癒しの時間。
字面ほど小綺麗な空間にはならねぇから、場所の確保が先決だ。
周りでバカ騒ぎされちゃ会話もままならねぇ。
どうにも重い足取りで、いつか溜まり場にしていた馴染みの店へ。
座る席も決まっている。
カウンター席から離れた、注文を運ぶ店員が通らない、それでいて階段からも遠く、盗み聞いかれない場所。
階段がある壁とは反対側。店の柱のおかげで注目もされ辛い。半端に奥まった席。それがいつもの特等席。
まだ人の少ない酒場でいち早く、指定席だと言わんばかりに。我が物顔で座って見せる。
懐かしさなど、まるで感じなかった。