軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変わらない記憶

もしかしたら――なんて、冒険者らしからぬ期待と不安。

それらを嘲笑うように。

威風堂々と我が物顔で鎮座する酒場兼宿屋。

一際大きく目を引くギルド印は、初めてサルベージまで辿り着いた冒険者達を入れ食いの如く呼び込み、多くの新人達は対面にギルドがあったことに気付けず、恥をかく。

そんな一連の光景が、まるで昨日のことだ。

押し寄せる記憶の波。

なのに、どことなく違う。

形こそ変わらねぇが、手すりや階段にあった傷が無くなっている。

「この辺に被害はなかったはずだが、そっくりそのまま立て直したのか?」

「そんなことはしてないよ。とはいえ、周りの多くは新しく立て替えられてしまったからね。見てくれまでそのままじゃいくらこの好立地であっても、受け入れられないかもしれないだろう?」

「それで表面上だけは小綺麗にしたって? ギルドも?」

違和感を確かめるためにギルドの方にも目をやっていたのだが、そっちも同じく傷や汚れだけが綺麗に無くなっていたことで違いに気付けた。

「町全体が生まれ変わろうとしていたからね。本部もそれなりにお金を出していたようだし、一新とまではいかなくとも、足並みくらいは揃えようって感じかな」

「そんなことを気にするより、やるべきことがあるだろうよ」

「転移扉の件だね? もちろん。そっちも抜かりはないさ」

「直轄地だってのになかった今までの方がおかしいんだけどな」

「そうは言ってあげないでおくれよ。彼らも人間なんだ。優先するべきものはそれぞれあるさ。なにより、転移扉の数に制限を掛けたのは私だからね」

「ならお前のせいだ」

「はっはっは! ・・・私にならなんでも言っていいわけじゃないよッ⁉」

蘇る思い出の中に嫌な記憶まで紛れ込んでいるが、過ぎたことだ。

くだらねぇ会話で流しながら、ギルド真向かいの店へ。

その扉を開けようと取っ手を掴もうとした刹那、

「・・・・・・・・・」

手が止まる。

「まだ不安かい?」

後ろから這い寄って、耳元で宣うジーナ。

「寄るな。ぶん殴るぞ」

「気持ちを怒りに変換してぶつけるのは辞めたまえよ! 君の不安を笑っているわけでもないのだからね‼」

「そうじゃねぇよ。こんな時間じゃ誰もいねぇなと思っただけだ」

お前をぶん殴りたいのは不安だからじゃなく不快だからだと宣言しつつ。空を見上げれば、太陽はまだ頂点にも達していない。

陛下への拝謁は朝一に行った。

ご公務があるからな。内戦の後処理にも今しばらくはお忙しくされるはず。

そうなると私的な時間は朝に取った方が都合がつきやすく、そうしてからここまで来たんだから、現在が昼前でもおかしくない。

おかしいのは昼前から酒場へ入ろうとしていることの方だ。

「それは確かに。けれど、どうする? 今から戻って、工房でも冷やかしに行くかい? それとも、中で大人しく待つとするのかな?」

「どっちもごめんだ」

工房へ行けば邪魔に。中に居座れば暇になる。

つっても、こんな場所だ。

娯楽といえば酒と女と自慢ぐらい。

どれも時間を潰すには向いてなさ過ぎる。

それなら、いっそ―――・・・。

思い切って振り返る。

「な、なんだい?」

急に振り返ったせいか、ジーナが驚いて身を縮こまらせているが、そんなことは無視して、いざ前へ。

「ちょちょちょっ‼」

さっきまで見開いていたはずの目を硬く瞑って、ぶつかりそうになるジーナを小脇に除けて、懐かしき憧れの地へと踏み込んだ。