作品タイトル不明
事前準備1
さて、どれから説明しようかと頭を悩ませる前に。
「必要なら使ってくれ給え」
待ってましたとばかりにジーナが魔法道具を取り出す。
「これはどういった道具でしょうか? マーラグ公」
「少しばかり改良した罠の魔道具だよ。君の魔法を誰でも再現できるようにと思ってね・・・といっても、次元魔法の保存がやっとだけれどね」
「次元魔法――? 時空魔法ではなく・・・か?」
聞き慣れない言葉に陛下が呟く。
こうなると順番は勝手に決まる。
「現状の認識としては時空魔法でもほとんど変わりませんが、研究が進めば大きな違いが見つかるかもしれないため、予測を含め次元魔法と呼ぶことにしたのです。研究についてはそちらの研究者へお尋ねください」
「では恐れながら、私からご説明差し上げます。陛下」
わざとらしく大きく手を上げ深々と一礼した後、顔を上げジーナが続ける。
「元来、時空魔法は時間と空間を操るものだと思われておりましたが、アドレスで観測したドラゴンとゼネス・C・グラーニンの戦闘において、それは誤りだったのではないか? という疑惑が浮かび上がりました」
「その誤りの正体が次元魔法だと?」
「はい。陛下は次元というものを、どの程度ご理解していらっしゃいますでしょうか?」
「言葉にするのは難しいな。本の世界と私達が生きるこの世界との違いだと言うことぐらいは理解している」
「流石陛下。そこまで理解していらっしゃるなら話が早い。私達の世界の上には神の世界があると認識していただけますか?」
「概念は理解しているつもりだ。国教もあるのだしな。しかし、今ここでいうそれは・・・実在しているものだと認識しろ、ということで良いのか?」
「その認識で結構です」
頷くジーナは一旦話を切ってから、
「神の世界は実在する。けれども、認識が出来ない。その理由は上位の次元に存在しているからだ――という発想です。では、その上位の次元には何があるのか?」
試験の問題でも読み上げるかように話を進める。
「私と彼。ゼネスの出した答えは”時間”でした」
「”時間”・・・?」
「そうです。陛下。本の世界が2次元。我々の世界が3次元。その上にある世界は4次元になりますが、そこに存在するのが時間という説です」
「どういうことだ?」
「難しく考える必要はありません。時空魔法でさえ時間を操るのです。神が自由に時間を操れても何ら不思議では無いのではないか? ただ、そう思い至ったのです」
「ふむ。ならば時空魔法・・・いや次元魔法は神の力を一時的に使っているに過ぎないと?」
「ご推察の通り、全く素晴らしい! その上で、時空魔法は時間と空間のみを操っていると思われていたのですが、私達はそれ以上の可能性を見た」
そう言うと同時に、ジーナがこっちを見る。
仕方がねぇからわかりやすい見本として半透明になる魔法を使い、適当に声を発しながら動いて見せる。
「これは私が彼から贈られたこの虹霓玉を基に研究し、編み出した次元魔法。光魔法などの屈折現象による虚像や映像の投影ではなく、彼自身がここに在りながら、現実からの干渉を避ける魔法となっています。正に次元の歪みを利用した魔法。なので、こうして――触れようとしても触れることはできず、彼の言葉は空気を揺らさないため、声も届きません。同じように、こちらの声も向こうには届きません」
ジーナが何事かを言いながら人の体に手を伸ばす。
次元がズレているため当然触られることはないが、手が体を貫通し、更にはかき混ぜるように動くことに少なからず不快感を覚える。
「お互いに干渉できない次元の歪みを利用した魔法か・・・確かに見たことも聞いたこともない。しかし、この魔法はどう役に立つというのだ?」
「この半透明の状態はまだ、お互いを見ることだけはできるのです。つまり、移動の制限を失くすことが可能となり、何者にもその歩みを止められなくなるという利点があります」
今度は伸ばされたジーナが人差し指を除いて握りこまれる。
どうやら歩けって指示らしい。
能力の実演をしろってことだろうから、間に柱をすり抜けつつ、幾分か離れた位置まで移動してから、魔法を解除して会話に戻ると、
「このように、もし人の壁を使用されたとしても、少数人であれば彼の魔法で安全に運ぶことも可能でしょう。他国の人間の命など知らないと切り捨てるような発言をしていましたが・・・少々気取ってみただけで 。彼は何も、最初から虐殺を工程に入れているわけではないのです」
詰まらねぇ補足まで勝手に入れてやがった。