作品タイトル不明
あくなき前進
リミアの注意が聞こえたあたりで隣の建物が途切れ、視界が晴れる。
まず目に入ったのは人が、少し遅れて矢が。
兵舎か練兵場か、あるいはその複合施設なのか。高い建造物、その屋上に並べられた弓兵は躊躇することなく射掛けてくる。
「「先生!」」
2人の声に迷ったが、瞬時に選択。
氷の壁を展開する。
影の目隠しと、どちらがいいか。氷の壁をこんな高さで浮かせるのとじゃ魔力消費が段違いだが、屋根の縁に沿って壁を伸ばせば、その辺りの問題は解消できる。それなら敵の様子を見れる方がいいって選択だ。
飛来する矢は透明な壁に阻まれ落ちるが、幾つかは刺さって止まる。
「弓の精度がいい。脚は止めるな。同じとこに連続すると突き抜けるぞ!」
「だったら屋根の反対側に行けばいいんじゃないですか⁉ 角度があるので稜線として使えるはずですよね⁉」
「駄目だ! 大通りを挟むとはいえ向こうは1階分背が高い建物が並んでる。演習場のおかげで足場のないこっち側の方が安全だ」
「それならせめて僕の魔法で視界だけでも防ぎます‼」
「それも駄目だ‼ 精度がいいってことは、今も俺達を見てるってことだ。目が居るんだよ。そいつがどんな奴で、どう振舞ってるのか見ておきたい」
ヨハンの提案を悉く却下しながら、走り続ける。
外壁から降りた後、門からの追撃を避けるためには距離を取っておきたい。そのためには、軍事施設の周囲にある軒並みを全て踏みしめる必要があった。
氷の壁が並走するように視界を僅かに曇らせ、そこへ蛇のように飛んできた矢が刺さる。
演習場をぐるっと囲うように走る中で、突き刺さる矢は増えていく。
特に、先頭へ刺さる数が顕著なほどに。
そこを後から通る2人が心配だったが、通り過ぎた後の氷の壁を溶かし、水の壁としてリミアが再利用することで数本の突き抜けた矢を防いでいた。
直前で話していた弾力のある水滴を実践してみたんだろう。
これなら大丈夫だと思った矢先、
「あっ!」
と、ユノが背筋を伸ばし、立ち上がるようにして声を発する。
「頭を上げんなッ‼」
急遽。氷の壁を変形させて高さを増す。
そんな急造部分に矢が刺さり、その半分ほどが貫通している中でも、ユノは指差す。
「あの方が目ではないでしょうか?」
弓兵が屋根の上に並ぶ建造物。その正面に当たるこの場所からは、屋根の両側を覗き見る事ができた。
屋根の反対側から頭が出ていた兵士達の中で、1人だけ弓を持ってない奴がいる。
あんまりにもあからさまな気はするが、そうでなけりゃ手持無沙汰にする意味もねぇ。
しかしその顔は教祖のそれでなく。竜の眼も確認することはできなかった。
ただその姿だけは目に焼き付け。
止まることなく外壁の側まで駆け抜ける。
最後の屋根は一際強く踏み込んで高く飛び、外壁へと飛び移る。
一瞬だけ振り返り、敵と続く2人の様子を窺う頃に丁度。
頭上の分厚い雲が晴れ、太陽の光が降り注ぐ。
それはまるで隔絶された意識の壁を具現化した光のように俺達と敵を分断。敵の目を潰し、俺達には命綱を渡した。
より色濃く刻まれた影を使い、外壁を降りる。
そこに追手はおろか、1本の矢すら迫ることは無かった。