作品タイトル不明
現状の嘘
「・・・・・・・・・・・・」
嫌に長く感じた沈黙。
実際にはどれぐらいの時間だったのか?
それはたぶん、誰にもわからないのだろう。
しかし、この沈黙を破るのはただ1人。
「リミア。なぜこの者を連れてきた・・・加護教が母に。リーリャになにを強いたのか―――教えたはずだ。忘れてしまったか? それとも・・・その少年に関係があるのか?」
「忘れてはいません。ですが、真相も知りません。私はそれを知るために教会へ属そうとしましたが、それを封じたのはお父様です。それと彼、ヨハンとは―――・・・いえ、関係ないというわけでもありませんね。なにしろ、私達は新たに道を選び直そうというのですから」
「我が子の幸福を願うのは親の務めだ。加護教へ属そうなどと、看過できるはずもなかろう。しかし、どういうことだ? 選び直す?」
「お聞きではありませんでしたか? 彼の名はヨハン・ルーヴェント。ルーヴェント領の次期領主です」
「ルーヴェント! しかも時期領主だとッ⁉ いや、だとするならば‼ それこそなぜ加護教を‼」
「ルーヴェント領は望福教を捨てました。謀反に加担していた領主は捕縛され、現在は南の領都セイルスルーにて、皇王陛下のお慈悲を待つ身でしょう。そして、その要因となった皇国軍はこの地にも遠からず訪れます。爵位剥奪を良しとしないのであれば、今ここで望福教を捨てるべき。そう思ったからこそ、この瞬間に私は帰郷したのです」
「皇国軍ッ⁉ 確かにルーヴェントとは音信不通になってはいたが、詳細はまだ・・・・・・だが、早すぎる! 皇国軍のほとんどは皇都の防衛に当っているはずだ! それが既に反撃へ転じているなど・・・しかも、最短でもないルーヴェント領を制圧しているなどと、そんなはずなかろう!」
「しかし、事実です。ルーフロンス男爵。ルーヴェント領主であった父は、南の辺境伯領の兵に拘束され、連行されました。母も兄も・・・罪を免れる可能性は低いとも、言われました」
「貴様! 急に話し出したかと思えば、何を―――ッ⁉ そもそもがおかしいではないか‼ 皇都の防衛が続いているのは確実だ。その情報筋は疑いようがない‼ 北の辺境伯領から援軍が来たとて、北には帝国が控えている! 全ての兵力を回せるわけではない! そんな状況であの南の辺境伯が、この東側へ兵を差し向けるなど、あり得ぬ話だ‼ 領主達の人となりすら知らぬお前達にはわからん話だろうが―――」
「閣下。自己紹介が遅れて申し訳ありません。私の名はゼネス・C・グラーニン。北の国境線を守る辺境伯領主グラン・T・グラーニンの実弟に御座います。そして、その私が保証するのですが、現在。皇国と帝国は和議に向け、使者を交えております。なんでも、帝国でも望福教が大きく国を揺るがしたのだとか。それを踏まえ、皇王陛下は懸命な判断をなされ。それに呼応した兄が、北の守りのほとんどを皇都に送りましたので。南の辺境伯も負けじと軍をこちらへ動かしたのではないかと推察します」
大仰な一礼を挟んで用意していた台詞を発する。
実際には、北の防衛を完全に放棄などしていないし、南の辺境伯も。軍をこちらへ寄こしてなどいない。
だがしかし、この東側で起こった動きは全てが性急すぎるあまり、皇都周辺以外の情報を追えていないことは明白。その証拠にルーヴェント領の状況も把握出来ていない。
外連味に溢れたこんな戯言でも、嘘と切り捨てることは出来ないだろう。
「~~~ッ‼‼」
継ぐべき言葉を見失い、声を失うダミアン。
それを見かねてか、ガチャリ。俺達が入ってきた扉とは別の扉が開く。
そこに立っていたのは、どうにも見覚えのある顔だった。