作品タイトル不明
特上の事実
「なんの話かな?」
扉を後ろ手に閉めながら、薄ら笑いが張り付いた表情の男がご登場だ。
細く引き延ばされた目の隙間から、確かに一瞬。視線を感じる。
「おやおや? 困りましたね。まさかこんなことになってるとは・・・」
どこか見せつけるように、顔を見上げて悩む素振りで言う。
「ここのこと、誰から聞きました? マルチナちゃんかな?」
それは明らかに俺に対しての言葉だった。嫌な予感がしやがる。
コイツはそう。いつぞやにマルチナから先輩と呼ばれていた望福教の男だ。
だが、俺が何かを言うより早く、反応を示したのは領主の方だった。
「急に出てきて・・・なんの用だ?」
「なんの用・・・とは、また酷い言われようですね? あんまりに騒がしいので奥に引っ込んでも居られなくて出てきただけですよ。文句を言うより先に煩くしたという自覚を持っていただいても?」
「そうか。それで・・・もう一度聞くが―――、なんの用だ?」
「そう邪険にしないで欲しいですね。困っているんじゃないですか?」
「困ってなどいない。辟易としているだけだ。それに困っていたとして、何が出来るというつもりだ?」
「確かに。聴いていた限り、外野から口を挟むような内容だったかといえば、そうでは無かったかもしれないですね?」
『また盗み聞きか・・・』そう吐き捨てる領主の態度を見る限り、信用されているような感じはしないが、それはそれでおかしい気がする。
だったらなんで、望福教はこんなところに潜むのかって話になるからな。
「酷いな。聞こえるような声量で話をしていたのはそっちですよ? まあ、そんなことは置いといて。こちらから言えることが1つ。ここまでの話には嘘が多く含まれている。ただ、そう伝えておきたくて」
「嘘、だと・・・?」
言葉の響きに顔を歪める領主を見て、笑みを深める男。
「例えば、そうですね――そこの御2人の婚姻、ですか? それこそ真っ赤な嘘でしょう」
「なに⁉ そうなのかッ⁉」
「そんなはずがないでしょう」
勢いよく振り向く父ダミアンに気圧されずにリミアが即答する。
「おや? おかしいですね」
「どういうことだ? これ以上話をややこしくしてくれるなよ!」
「ああ、すみませんね。しかし、疑問なんですよ。婚姻の話が本当だというには、連れてくる人選がおかしくありませんか? 加護教の聖女に、北の要塞貴族の1人。接点が見つかりませんが・・・」
「それは、その通りだが・・・リミアよ。どういうことだ? 説明せよ」
「説明もなにも、婚姻においては祝福を受けるのは当然。後見人の用意も、しておくべきものだと常識として従ったまでですが」
「だとしても、いきなり聖女と知り合うはずあるまい。後見人にしてもだ」
「聖女様は偶々です。後見人に関しては、貴族学園を尋ねました」
「学園を? 皇都のか? 今は閉鎖されているはずだが・・・?」
「そうですが、他に頼れそうな相手を思いつかなかったので、こちらの先生とはそこで出会いました」
この辺りは一応、あらかじめ用意しておいた筋書きだ。
なるべく矛盾を孕まないようにしておいたはずだが・・・、
「それはおかしいですね?」
胡散臭い男が食いついてくる。
「・・・何がおかしい?」
自信ありげなその態度に、つい口走る。
「いえ、貴方が教師だということは知っていますが、それでもおかしいんですよ」
「だから何が―――」
「またですか? 本当に、わかって無い振りが好きなんですね?」
見透かした・・・っていうのとも違うな。
真の意味で愉快なんだろう。
腹の底から、楽しげに笑う男は手を広げて言う。
「だって! 学園での、その子達の先生は私なんですよ? 加護教に祝福だなんて、教えるはずがないでしょう??」
常識という言葉は、環境に依存する。
そんなこと言ったのは誰だったか・・・。
語るに落ちるとは、このことか。