作品タイトル不明
side――ダミアン1
跡継ぎ。
どこにでもある問題だ。
血でも、技でも、家でも、店でも。
人の命に限りあるかぎり、それらは次へと託さなければならない。
私はその跡継ぎとして、跡継ぎの問題を抱えていた。
・・・わかりにくかったかもしれないが、平たく言えば婚姻の問題だ。
私はダミアン。家名はルーフロンス。
ルーフロンス男爵領。領主の嫡男であり、その跡継ぎでもある。
我が家系に長く続く跡継ぎ問題。
それは父にしてもそうだった。中々、子に恵まれず。生まれたのは私1人。
健やかに育ったことを感謝されたほど。
父や祖父の時にも似たような状況だったらしく、ルーフロンス領では教会への寄付金ばかりが積み上がっていった。
『どうか子を、そして健康であれ』
ただ、それだけの願いのために。
しかしそのおかげか、こうして私の代まで途絶えることなく続いたのだと思えば、寄付金にも意味があったのだろうと納得できた。
ともすれば、次は私の番である。
成人を迎え早数年。
そろそろ我慢の限界だと親にせっつかれ、婚姻に焦っているというわけなのだが・・・私自身はまだまだ弱卒であると自負しており、家庭などと言われても、いかんせん手に余るというか―――。
情けない話、会話が続かないのである。
同性でもそうなのだ。それが異性ともなれば、余計に滑稽をさらす無様。
相手にされるはずもなく、社交界では無駄な時間だけを食いつぶしてきた。
かといって、心向きだけで改善など出来得るはずもなく。
私は今日も、教会で1人、項垂れるだけである。
そんな私の密かな楽しみはと言えば――・・・彼女。リーリャの姿を拝むことである。
リーリャは真面目な修道女であり、その勤勉な姿は荒んだ私の心を優しく励ましてくれる。
彼女は私のことなど知らず、一方的な勘違いかも知れないが、それでも。私の心は確かに彼女の健気さに打たれ、癒されていた。
教会の清掃も、老人の相手も、子供達の世話でさえ、出来得る限りで答え、持ち得る限りで返す。そんな真っ直ぐさが、卑屈な私には眩しかった。
そんなある日。
その日も私は社交界で負った傷を埋めるべく、教会に足を向けていた。
そんな折。聞こえてきたのは、
「どうしてあなたばっかり―――ッ‼‼」
女の糾弾する声。
私は顔や身分を隠し、目立たないよう裏通りなどから教会へ向かうのだが、その道中でソレを目撃した。
糾弾されているのはリーリャであり、囲んでいるのはその他の修道女。
内容はまあ、日頃の不満をぶつける八つ当たりのようなものだろう。
要約すると『贔屓されていてズルい』になるか。
この時、リーリャ達は町まで買い物へ来ていて、そこでリーリャだけが”おまけ”をもらったのだそうだ。
1人の時ならばまだしも、複数人でいるのなら全員を優遇してやればいいものを。それが出来ないのならば初めから優遇など考えず、杓子定規通りの商売をしていればいいのにと、思うものの。
それを今言ったところで後の祭り。
彼女達も、だからといって止まれはしない。
しかし、仕方のないことなのだ。
リーリャは優遇されるべき人物なのだから。
素朴だが整った見目に、差別のない純真な受け答え、それでいて真面目に勤勉とくれば、良くしてやりたいと思うのが人情というもの。
同じものが欲しければ、同じだけの態度でなければ。
少なくとも、私ならそう思う。
社交界でもそうだ。視線が物語っているのだ。
侮蔑、軽蔑、凌蔑と言った蔑視の眼は、向けられるだけでわかるもの。
『つまんない男』言われたことはないが、思われていることはわかる言葉。
それと同じように、日頃からの態度で透けて見えるのだろう。
囲む彼女らの日常など知りはしないが、” 良い子(リーリャ) ”を囲んで糾弾する時点で、言及するまでもない。
だから優遇などされない。
人に当たる前に、自らを見つめ直すべきだ。
そう思った。