作品タイトル不明
悪夢を冷ます方法を1
「誰でもいい‼‼ 私を助けろ‼‼‼」
そう叫んだのは中庭で倒れ伏す領主。
縛られているわけでもないのに身動きが取れないことへ憤りながらの叫び。
影吊りは影の形に身体を固定する魔法。それが地面でも効果は抜群。月明かりに陰りがないせいで、より強力に地面へ張り付く。
その必死さ溢れる叫び声を聞き付けて、警備の連中がわらわらと。
「領主様を放せ‼‼」
「この兵力差だ! 無駄な抵抗だと気付かないのか‼」
「応援を呼べ‼ もう市民への対応は必要ない‼ 動ける全員を集めろ‼‼ ガキ共も連れてこい‼‼」
続々と出てくる人員に、大した忠誠心だと感想を抱く。
「注意しろ‼ 不届き者はまだもう1匹いるぞ‼ ガキ共を使うならば確認を怠るな‼ 良質な食事も出来なかった出来損ないの負け犬だ‼ 紛れていても気付かんかもしれん‼‼ 騙されるような間抜けを私は許さんぞ‼」
そんなしもべに対しても、領主は尊大な態度で己を誇示する。
寝っ転がって威勢良く吠えるその姿のどこに誇る所があるのか、どの面下げて負け犬なんぞとぬかしてやがるのか。鏡でもあれば面白かったんだがな。
つっても、ヨハンが屋敷に潜んでるのは本当だ。
領主を担いで2階へ上がるのも面倒だったからな。
俺は領主を引きずりながら半透明になり、壁をすり抜けて直接中庭へ。
ヨハンは罠を回収しつつ、援護のために屋敷内へ残った。
だが、存在がバレてるんじゃ援護どころじゃなくなるかもしれねぇ。
注意を引くためにも派手に強烈で、目が離せなくなるような―――そんな地獄にしねぇとな。
そう決意して、手始めに燃やす。
「ぁ? ああああああぁぁぁああ⁉⁉⁉ 熱いぃ⁉⁉⁉ あづいぃいい⁉」
たった1人。
ただ目立つ場所にいたから。
それだけの理由でソイツは燃えた。
何の予兆もなく、身体の内側から炎が噴き出し、あっという間に・・・。
黒く炭化していく最中”助けて”と近くの仲間へ縋りつくよう手を伸ばした姿のまま。
しかし拒絶されるように避けられたまま、釘付けに死んでいった。
「ぅ、ぁ・・・ああああっ⁉⁉ わあああああぁぁぁ‼‼‼」
助けを求められた相手が、その事実に耐えられず。
混乱しきりに前へ出る。
そこに明確な意図はなく、
「ああああああああああああああッ‼‼‼⁉⁉⁉」
その結末には正確な情報もなかった。
ただ繰り返された悲劇。
唐突な発火とそれによる死。
得られるとすりゃぁ恐怖ぐらいのもんだろう。
緩んでいた空気は限界まで張り詰められ、今にも千切れそうなほど。
音さえ止まるかのような緊迫を、打ち破ったのは闖入者だった。
「私の幸福を奪うなぁぁぁあああああ‼‼‼」
どこからか湧いて出た錯乱した市民と、
「「「「うぉおおおおおおお‼‼‼」」」」
それに群れを成すかの如く追いすがる他の市民達。
きっと、それぞれに何かを訴えていたんだろう。
・・・けれど、それを聞き分けるなんざ不可能で。
なにより、
「ぎゃああああああッ⁉⁉⁉」
先頭の断末魔を引き金に。
「「「「うぎゃああああああッッ⁉⁉⁉」」」」
苦悶の大合唱へと塗り替わる。
どこかへ手を伸ばす者、首を抑える者、顔をかきむしる者。
反応にこそ違いはあれど、見るに堪えない死に様だ。
倒れた炭が増え、燻りが消えぬまま草に触れ、風が巻き上げ、種火は庭の草木へと燃え広がる。
焼ける人のにおいと煙、そして足元から照らし返す炎の光源。
誰も近付けさせないために張った幻覚を見せる結界。その幻覚が今、結界の内側で現実となろうとしてる。
あまりにも陳腐でくだらねぇ話だが、なぜだか今日は調子がいい。
気分が辟易とすることもなく、ただ研ぎ澄まされていくような感覚。
魔法道具と繋がったような。あの感覚を知った時から、出来るような気がしてたんだ。いや、確かに出来ていたはずだった。
稼働している魔法道具の力をそのままに引っ張ってくる事が。
なぜならワンダーゴーレムが錆びていたから。
そして、こんな時でさえ。
元溜め池の工場は動いているらしい。
いったい何を燃やしているんだろうな?