作品タイトル不明
動く時
「無茶なお願いを聞いていただき、ありがとうございます。ご息女からの提言は私にとって幸運の渡し舟だったようです」
「陛下からのご指示だからに決まっているだろう。そのような愚か者に覚えはない。それに、貴殿には治安維持の一端を担って貰ったようだからな」
南の領都セイルスルーにて。
領主様から兵の一部を借り受ける事ができた。
移動はジーナの転移扉を使いマーラグ邸からジーナの研究所へ、さらに高速馬車便を手配しての強行軍。
夜明けにはまだ帝国にいたというのに、昼過ぎにはチャード集合国を経由してガルバリオの南端まで移動しているという事実。
目が回るような――とは、このことだろう。
「しかし本当にあの程度の手勢で構わないのか? 皇都防衛を加味しても、些か数が少ないように思えるが・・・」
「そうですが、あれ以上を求めても焼け石に水。足りるまで足すことが出来ないのならば、いっそ最低限で抑えるべきかと。なにより、私は将ではありませんので・・・」
「否定はせんが、であれば2000でも手に余るというものでは無いか?」
「その可能性もあります。閣下の兵を浪費させるつもりはございませんが、その時には―――」
「仕方あるまい。そも、その時は貴殿も・・・」
「そうなった暁には、救国の英雄様へ請求を。いつの間にやら中央の椅子などに座って居りましたので」
「険悪だな・・・・・・時に、私もそうなり得ると思うだろうか?」
「ご息女は私などより、よほど善良かと思われますが」
「故に嫌われているのではないかと恐ろしくてな」
「であれば迅速を心掛けるべきでしょう。怠惰は悪徳足り得ます」
「・・・ふむ。胸に留めておこう」
ついでとばかりに同じように冒険者として飛び出していった娘への対応を聞かれた。
考えうる限りで答えたが、それが正しいかは不明だ。
見当はずれとまでは思わないが、年齢や男女の違い、環境のズレから考えは変わる。参考にしようというのは自由だが、責任を持つまでは出来ない。
などということを付け加えつつ、会話を終える。
部屋を出る。
「どうだった?」
と、声を掛けて来るのはこんな屋敷には似つかわしくない通り名を持つ女。
「事前に話していた通りになった」
「よし! これで上手くいけば・・・」
「連中の待遇は良くなるだろうな。上手くいけば・・・な」
「そこは賭けなんだ。割り切ってるさ。その過程で誰がどうなろうともね。けど、やらなきゃゆっくりと首を締め上げられるだけ。それなら死に方くらいは選びたいと思うもんじゃないかい?」
元々、あの時の連中を。北大陸からの移民をこの土地が受け入れた理由は御父上への対抗策だった。
当時は皇都を中心に反逆が起きると思われていたからだ。
だが、それは事前に抑えられ、結果として時期もズレた。
事が起こらないなら、この時に雇い入れた戦力は過剰。
要らないなら捨てるのが経営者だ。
領主様は給金を絞り始めた。
そうなれば、一時的に賄えるようになった移民達の生活もまた苦しくなり、貧民街の治安も荒れる。
コイツはそうならないように、俺がこの町へ入る前から接触を試みてきた。
そして行われた事前の話し合い。
『兵を借りるなら、あたし達にして欲しい』
その一言を皮切りに、それがどれほど危険なのかも説明したが折れることはなく・・・この場へついてくるまでに至った。
屋敷の中に入れていることから、タンの言ってた従妹って言葉は本当なんだろう。
だったらもっと別のやり方もあるんじゃねぇかとも思うが、俺は他人のこと言えねぇしなと。
空気を読んだからか、領主の顔を見たくなかったからか、部屋にまで付いては来なかったが、意欲的なのは間違いない。
「それで。練度の問題もあるだろうから新顔を中心に――って話は通ったが、そっからどうするつもりだ?」
「そりゃあもちろん現地で戦果をあげんのさ! 安心しな‼ あたしも付いてくから・・・って、なんだいその顔は?」
危険については既に説明した。
その上で言ってんだから止めても無駄なんだろうな。
「ああ! 指示出す奴が複数人いると現場が混乱するとか、そういうこと? だったら大丈夫だ! あたしはアンタの言葉を絶対に疑わないし、曲げたりもしないよ!」
だから信じろというが、そういうことじゃない。
下手に顔見知りの奴がいると、捨て駒のように使えないだろ?
第一、お前は貧民街のまとめ役じゃなかったのか?
自分が居なくなったらどうなるかとか、考えてないのか?
言いたいことは山ほどあるが、
「そういや名乗ってなかったんだったね。あたしはケイ。好きに呼んでくれて構わないよ」
紛らわしい名前なのがむしろ、一番の厄介事のような気がした。