作品タイトル不明
誰がそれを待っているか
「そういえば、そちらの元信者の是非も問うておったな。連れ帰っているということは、やはり信用できるということでいいのだな?」
陛下は話を変え、マルチナに目を向ける。
「はい。この後にこそ、必要な人材かと――」
「内乱にか・・・」
「東の領地が反旗を翻したと聞きましたので」
「そなたの言う通り、東の領地を任せていた貴族の幾人かが反旗を翻す形となった。と言っても、あくまでも宗教の鞍替えを理由にした抗議・・・に類するのだが」
「陛下の意向に従わないというのであれば、それがなんであっても反逆です。情けを掛ける必要はないかと」
「そうかもしれぬが・・・精神の乗っ取りと言われてしまってはな」
「いいえ、陛下。精神の乗っ取りを行えるのは1人に対してだけです。それ以外の者は皆。騙されたにせよ、丸め込まれたにせよ、本人の意思で反旗を翻しています。より正確に言えば、陛下よりも教祖を選んだということ」
「私の人望の無さが原因か」
「己の欲に目がくらんだのでしょう。陛下が悔やむことではありません」
「・・・ゼネスよ。そなたはなぜそう言い切れる? 私は多くの過ちを犯してきた王だ。愛想をつかされたとて、何も言えぬのだぞ?」
「陛下。やましい所のないものは人を殺めたりなどしません」
「―――・・・そうであるな。弱気になっていたやもしれぬ。許せ」
「なんのことかはわかりかねますが、承知しました」
陛下は俺の言葉に納得いただけたようだ。
人の身で竜に抗う。確かに難しいことかもしれない。
それを人望の差と誤解してしまうかもしれない。
だが、姑息な手を使う者を好んで担ぎ上げるのは卑怯者ぐらいだ。
そんな存在と比べて、陛下が劣っているはずなどない。
「して、その者をどう使うつもりだ? いや、それよりも。そなたはこの内乱に参加するのか?」
「もちろんに御座います。この者は彼の東の領地で生活していた経歴があります。なので、それを利用しようかと。この身にも晴らさねばならぬ復讐の念が燻ぶっておりますので」
「復讐か・・・よいのか? 虚しいだけやもしれぬぞ?」
「虚しさで埋まる穴も御座いましょう」
「そうか。であれば、そなたの献身に期待しよう」
「必ずや」
そう、必ずこの手で仇を撃って恨みを晴らす。
「では陛下。失礼ですが、現状の策とその経過をお聞かせ願えますか? 私もそのために呼ばれたと認識しておりますので」
そう言って話を切り出したのはジーナだ。
「そうだな。しかし、詳しくはダンデ将軍を待ってからにしよう。もうしばらくで来るはずだ。それまでは東の領地で起こったことを中心に話そうか」
そうして、しばらく。
陛下の説明とジーナの補足によると。
東の領地で望福教を国教へ! という機運が高まった。
これに合わせ、東の貴族達から同内容の嘆願書が陛下の下へ送られてきた。
そのための話し合いの場が欲しいといった内容も記されていたが、教皇の不在を理由に断った。
これを受けた貴族達が不当であると異議を申し立てると同時に挙兵の動きを見せる。
武力を持って交渉しようという姿勢を取ったわけだ。
その筆頭がルーヴェント子爵とルーフロンス男爵。
どちらも東に領地を持つ貴族で、ヨハンとリミアの親達だ。
ルーヴェント家の主張は、望福教こそが国民を幸せにするというもの。
望福教への傾倒具合が見て取れる文書も見せてもらった。
対するルーフロンス家の主張は、現教会への疑心。
教会のこれまでの活動や在り方への指摘、及び糾弾。
陛下の方ではこれらの査問と調査を現在行っている最中らしい。
どうも、それらの内容は捏造という程のものではないんだが、事実というには曲解されているというか、鵜呑みにはできない代物なんだとか。
実際なぁなぁになっていた部分もあり、認めざるを得ない所もあるものの、それが国の。ひいては国民の不利益になっていた事実はないと、それを説明したところで聞く耳を持たないようだ。