軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

間者と患者

「皇王陛下が体調不良で倒れられたッ⁉」

「はい、そうなのです。そうなれば当然ながら、多くの政務がより一層のこと皇太子殿下であるライザン様へ降り注ぎ、結果として反逆への対処ができないまま・・・。反逆自体も皇王家への反逆ではなく国教への反旗ですので、直接的に皇族の皆様方へ被害が出ているわけでもないので、後回しになってしまったんです」

「で、原因究明が遅れちまったせいで首謀者については何もわからねぇまま。どうしようもねぇから、関係各所の責任者を引っ張ろうとして軍を動かしてみるが、そもその軍が望福教に取り込まれてるせいで責任者達は軍の意向に従わずに雲隠れ―――か。どうしようもねぇな」

「ええ、正にその通りでして」

「ジーナの奴も姿を消してるんだな?」

「そのようです。マーラグ公爵の目撃情報は1か月以上ありません」

「どうせ、研究所にでも籠って高みの見物を決め込んでるんだろう。アイツにとって学園長なんて肩書は肘掛けにもならねぇはずだからな」

「彼女は高名ですからね。それで望福教のその後の動きなのですが・・・、まず軍の内部や貴族が所持している建造物の中に診療所や相談室なるものを設置しました」

「教会との置き換えを狙ってるなら、当然そうするだろうな」

「ええ。そして望福教なる団体は、そこで新しい薬を売り始めました。その名も”心水”。なんでも心を良くする薬だそうです」

「なるほどな。傷が治るような見た目に効果が出る薬じゃなく、心なんつー誰にもわからねぇもんを売りに出したか。しかも、それを使うのは信者だ。効果はてきめんだな」

「そうなのですよ。胡散臭いものですが、一様によく効くと評判になれば、悩んでいるものは手を出してしまう。手を出せば囲い込まれ、まるでその薬に効果があったように振舞われてしまうのです」

サンパダが恐ろしそうに身を震わせながら話す。

まず、胡散臭いと感じた連中はそんな薬を使わない。これが始まりだ。

次に信者がわかりやすく目の前で飲んで見せる。

そして効果があるんだと騒ぎ立てる。

それを見た悩めるものはそれを見て、もしかしたら――と考えてしまう。

そうなっちまったら後は流されるだけだ。

手を出したが最後、まるで効果があったかのように盛り上げられ、囃し立てられ、祭り上げられて取り込まれる。

例えば運が悪いという男がいたとする。

そいつが薬を飲めば、そいつの手を引いてくじ引き会場にでも行けばいい。バッチリ仕込みがしてある会場にな。

薬を飲む前に事前調査として、なにに悩んでいるかの話をするための診療所や相談室だ。難しいことはねぇ。

そこでくじを引かせれば、あら不思議。

大当たり間違いなしって寸法だ。

「お恥ずかしい話なのですが、最近は一部商会の人間も手を出しているようでして・・・」

「もうそこまで?」

「はい。運勢は全ての事柄につなげられますから。特にお金や性については簡単です。向こうの後ろには貴族様が付いていますからね。それは診療所や相談室の件からも明白です。人や物を動かせば、欲求を叶えることは容易。それらでお金や人を動かすこともまた、容易であることは商人ならわかることです」

「それでも向こう側に付くってことは、その方が儲かると踏んだから――」

「勢いのままに国教の変更が成ると睨んだのでしょうな」

「その可能性は?」

「今のままなら低いでしょうな。幾ら英雄様の後ろ盾があれど、国教を定められるのは皇王陛下のみ。その皇王陛下は今、体調不良で休まれておられますから・・・どれだけ派手に動いても咎められない代わりに、国教へなり替わることも出来はしません」

皇王陛下はそれを見越して嘘の体調不良を発表し、身を隠した可能性すらあると、サンパダは言う。

「だからこその”心水”・・・なのかもな」

「どういうことです?」

「皇王陛下は病名を発表しなかったんだろう? 要らねぇ心配をかけねぇための懸命な判断だとは思うんだが・・・怪我でもねぇのは分かり切ってる。それこそ、現教会が取り扱っている回復薬を使えばいいだけの話だからな。だとすれば、なぜ皇王陛下は体調を崩されたのか――って話になるよな?」

「それはつまり――ッ⁉⁉」

「皇王陛下は心を病んでしまったのではないか? そういう切り口で謁見しようって肚だ。医者を呼んでる場合には、医者を呼んでも治らねぇのは心の病だから。呼んでねぇ場合には、医者を呼んでも心は治せないからだ。って論調にすりゃぁ、どちらにしても介入できるだろ?」

「強引ですが・・・筋は通る」

ううむ。と唸ると同時に、なにかを察するサンパダ。

「あの団体が”心水”を売り出したのは、関係各所の責任者を追及しだした後からです。責任者達は姿を消したわけですから、その業務を引き継ぐ人間が居るのは道理。そして、その者達が心労をため込むのも必至・・・・・・、となれば―――ッ」

「皇王陛下から近い位置に間者がいるか、皇太子殿下を唆した奴がいるか、皇族側からの入れ知恵か・・・あるいは相当に頭のキレる奴がいるかだな」