作品タイトル不明
間断される人々の感情
それから皇都まで、俺達は干渉を受けることもなく、道具類と一緒に閉じ込められるようにして、問題の地へと帰還することとなった。
「・・・・・・・・・・・・―――」
「「「・・・・・・・・・――」」」
馬車の隙間、貼られた布と荷台の間や、物資を積載口から皇都の様子を盗み見る。
「気になる点はあったか?」
「・・・どうでしょう。この辺りの普段を知りませんから、なんとも」
「私はお父さんにくっついてよく来てたよ! でも、うーん・・・あんまり変わってないかも?」
同じく外の様子を窺っていたライザードとエイラスが言う。
ライザードは外壁近くの庶民の暮らしを知らねぇが故に違いが判らず、それを知っているはずのエイラスでさえ、明確な何かを見つけ出せずにいた。
それを咎めようなどとは思わねぇ。
素直な感想だし、確かに著しく変わってる点があるわけでもねぇ。
だが、
「なんというか・・・ピリピリしてる気が、する」
俺と同じように、町の微細な変化に気付いた奴もいる。
ジェーンだ。
「僕も、よく来てたから・・・」
聞けば、自身が貴族としての地位を持たないジェーンにとっては、家のある貴族街より、こっちの方が気兼ねなく居られたということで、普段からこの外壁近くまで訪れていたらしい。
その時と比べ、僅かにだが暮らす人の表情の硬さや、周りを見る時の表情、あるいはその頻度が気になったらしい。
その指摘通り、表を歩く人々はなにかに怯えているが如く、頻繁に周りへと視線を配っているし、中には身を護るためか、体を丸めるようにしながら歩く人すら見て取れる。
そんな様子を横目に、俺達の乗った馬車は学園へと向かう。
当たり前だが、学園の関係者はそこで降車する予定だ。
マルチナをはじめとする多くの生徒達も。
しかし、俺達は違う。
俺達は事前の取り決めで、学園では降りずに、この馬車の持ち主であるマンサ商会の建物まで乗り合わせることになっている。
理由はまぁ言わなくてもわかるだろうが、望福教からの干渉を避けるためだ。お互いのために。
流れる街並みは学園に近付いていくにつれ、少しずつその様子を変えていく。
怯えるような表情の人影が減り、逆に顔を綻ばせた人が増えていく。
学園のある場所は貴族街を抜けて、少し離れた位置にある。
この傾向から、望福教は裕福層の多い貴族街を中心に、何かを行っている可能性がある。
それがなにかはわからねぇが、どうせろくでもないことなのはわかりきっている。
その証拠というほどでもないが、教会付近を通ったときに見えた修道者の睨みつけるような視線。
列をなして通る馬車なんざ珍しくもねぇはずなのに、あんな視線を送るってことは、それなりの規模でそのなにかが行われているんだろう。それも、商会まで巻き込んで。
じゃなきゃ商会の馬車をあんな目で睨んだりしねぇ。
この車列が子供達を運んでるだなんて、よっぽどでもなけりゃ外からはわからねぇだろうからな。
まもなくして馬車は学園へ。
マルチナはあの不審者と共に多くの生徒達を降ろし、校舎へと消えていく。
生徒達はそれに従うばかりで、抗うものは1人も居ない。
ついでに、こっちへなにかを言ってくることもなかった。
あの不審者男であれば、嫌味の1つでも言ってきそうなもんだと思ったが、どうやら自信過剰だったようだ。
無駄に気分を害することもなかったんだと考えれば、それだけで儲けたと言ってもいいぐらい、すんなりとマンサ商会へと辿り着く。
大きな館の中へとはいった馬車は、ゆっくりとその動きを止め、回り込んだ御者の一声で荷台から降りる。
思えばここまで、多くのことへ真摯に取り合ってくれた御者だ。その仕事ぶりには自然と頭も下がる。
ここまで運んでくれた御者へ礼を告げていると、
「エイラス‼」
奥から恰幅のいい男が、両手を広げて現れる。
「ただいま! お父さん‼」
その姿を確認したエイラスが、こちらも手を広げて走り出し抱きつく。
奥から現れた恰幅のいい男は、エイラスの言動からもわかるように、エイラスの父、サンパダ・マンサ。
2人が熱い抱擁を交わす中、
「お客様の前でいつまでもそうしているのはどうかと思いますよ。商会頭」
真摯な御者は俺達のために最後までその仕事を全うしてくれる。
「ああ! そうだったな・・・!」
言われたサンパダは名残惜しそうにエイラスを手放すと、すぐに俺の方へと向き直り頭を下げる。
「ゼネスさん。この度は娘を無事に送り届けていただき、本当にありがとうございます」
「そういうのはいい。それより、皇都のことだ。反逆からこっち、どうなってる?」
「それがですね・・・少々ややこしいことになってまして・・・・・・実は――――」
俺はここで、色々と衝撃的な話を聞くこととなった。