作品タイトル不明
side――女教師
不安は的中しました――これでもかというほどに。
具体的には、とある1人の生徒の暴走によって、その場を監督していた彼ゼネスが、敵の攻撃である投擲された岩の下敷きになったのです。
あまりに悲惨な光景を前に、思わず息を呑んでしまいます。
けれど驚くべきは、大した悲鳴も上げず、出来る限りを尽くした彼の行動です。
生徒を助け、敵を止める。
あのような危機的状況でも、しっかりと役目を・・・⁉
そこでハッと気付きます。
私にも、私のやるべきことがあるのでは―――⁉
当たり前ではありますが、その悲惨な光景は私だけが見たわけじゃありません。
生徒全員が、子供達全員が目撃しています。
私なんかよりよほど、この状況に怖がってしまうはず!
そこまでは思い至ります。
至りますが・・・どうすれば⁉
生徒の数は1人や2人ではありません。
数十人。
そしてその全員が幼い子供達です。
大丈夫と言って聞かせるだけでどうにかなるはずがありません‼
そのくらいのことは、この村までの移動で嫌というほど思い知らされています。
まだ小さな子供達に、いきなり理性と感情を制御しろだなどと、言ったところで効果は出ないでしょう。
ですがそれができなければ――子供達に危険が‼
まず、なにをすればいいでしょう?
子供達には子供達の決まりがあります。
それに則って動くべきでしょうか?
そう、隣の・・・彼の教室がそうしていたように、爵位などの上下を利用して纏めるべきでしょうか?
それとも1人ずつでも速やかに逃がすべきでしょうか?
ただ・・・間に合うでしょうか?
恥ずかしい話ですが、私の手であのモンスターを倒すことはできません。
足止めもままならないでしょう。
そうなれば、子供達をまとめ上げることも、逃がすこともできないまま――――かといって、諦めるわけにも・・・・・・・。
そんな時です。
1人の生徒が盾を抱えて走り出します。
助られた生徒ではありません。
しかし、あまり見覚えもないので私の教室の子ではなさそうです。
もしかしたら彼は、こんな状況もあり得ると。先んじて対処法まで教えていたのでしょうか?
そうこうしているうちに、助けられた生徒が逃げ初めて―――って‼
大きなゴブリンが逃げる生徒を狙って‼
危ない‼
そう声を出す前に事態は止まる。
いえ、止めてしまった。
盾を抱きかかえるように前へ出た生徒が、あの大きなゴブリンの拳を受けたんです。
それを見た私の感想と言えば、凄い・・・というなんの変哲もない間抜けなもので。そんな自分に嫌気がさします。
この上なく怖かったでしょうに。
あの生徒は恐らくですが、生きてきた中で一番の恐怖を感じたはずです。
あまりにも大きな敵からの攻撃。そんな経験は今までしてこなかったでしょう。それを手に持ったたった一枚の盾で防ぐ。
怖くないはずがない。
でも、あの子にはそれができた。
盾を持って前へ走るという決断も。その盾を信じて攻撃を防ぐという覚悟も。
なぜ・・・?
まだ年端もいかない小さな子供。
守るべきものなんて自分の命だけのはず・・・それがどうして、なんの迷いもなく前に走っていけるの? それだけ早く動き出せるの?
なんとかしないといけない。
頭ではわかってる。
けれど、なにをどうすればいいのかがわからない。
そうこうしている間に、避難したはずの生徒がその手に槍を持って前へ。
まだ戦うの? 自分達だけで勝てると思っているの?
どうして・・・そう思えるの?
こんなもどかしい思いを、不甲斐ない思いをしている私にだけわからないの?
疑心暗鬼になりかけて、でもそうじゃないと気付く。
なぜなら私の周りにいる生徒達も戸惑っているから。
まだ戦うのか、逃げちゃいけないのか、どうしたらいい?
そんな目で私を見る。
そう、そうだ。
私がしっかりするんだ!
あの子たちは凄い。それは認めましょう。
断固たる意志を持っているのでしょう。
ですが、そういう子達ばかりじゃない。
私だって引率なんです。
彼のように成れなくとも。子供達をまとめ、守る立場にあります。
戦う力がなかろうと、この子達を教え導くんだ!
取り敢えず、不安がる子達皆に声を掛けて1箇所に集めましょう。
幸いなことに敵の標的がこちらに向くことはありません。そうしてくれている子達が居るからだ。
私の教室の生徒達は、私の言葉でも従ってくれました。
彼の教室の方はどうかと思ったけれど、こちらも素直に聞き入れてくれました。
それほど時間もかけずに大方の生徒達を集めることはできました。
けれど問題はこの後です。
最前線で戦うあの子達を置いていくわけにはいきません。
かといって、この子達に戦えということも、私にはできません。
戦う力のない私が、無責任にそんな言葉を口にしてはいけないんです。
この子達を逃がしてあげたい。叶うならあの子達も。
しかし、そんな方法は思いつかない。
神にでも祈れば解決するでしょうか?
でも、私は神を信じてはいません。
ならば教祖様に祈れば・・・・・・なんて、意味がありませんね。
教祖様は素晴らしい方ですが、強いわけではありませんし、奇跡を起こせるっわけでもないのですから。
そんな時に、声が聞こえてきます。
『ライザードを使え。隙を見て魔法を撃たせるんだ』
まさか神託だなどと言うつもりはありませんが、一瞬だけ神を信じそうになりました。
本当に一瞬だけですよ?
だって、声が彼・・・ゼネスの声だったのです。
だから神なんかじゃないというのはすぐにわかりました。ええ、本当に。
同時に、よくもここまでのことを・・・という呆れも感じました。
あの子達がすぐに動けた理由も、わかった気がしました。
ですが、どう説明するべきでしょうか?
いえ、迷うのはもうやめましょう。
真摯に行動するのです。
そうすればきっと、子供だって伝わるはずです。
彼がそう信じたように。
私もそうしてみましょう。