作品タイトル不明
side――バロン3
「話は終わったようですが、なにやら宿の主人に指示を出しているようです。あの女教師を外へ出すな――だそうです」
「あの教師は学園長と婚姻関係にあるはずですが・・・もしや‼ 今ならバレないだろうと、つまりそういうことではありませんか⁉ 先程の言い争いも偽装で、元からこういった関係だったとか‼」
「それはないんじゃないかなあ・・・」
「バロン。なぜ貴方にそのようなことが言えるのです?」
「叔父様はあれでも義理堅いらしいから」
「裏ではどうだかわかりませんよ? それで、その後は?」
急に楽しそうな雰囲気を醸し出す殿下は趣味が悪いのかもしれない。
「椅子を取り出しましたね」
「椅子を⁉ それでなにを‼」
「宿の玄関に置いて・・・―――座りましたね」
「・・・座った?」
「はい。座りました」
「女教師はどうなりました?」
「自分の部屋へ戻ったのかと。確認しますか?」
「・・・・・・いや、いい」
「賢明なご判断です」
露骨にガッカリする殿下。やっぱりそういうのはどうかと思う。
けど、取り敢えず、人の私生活にまで踏み込まなくてよかった。
「宿の玄関に座ってなんのつもりでしょうね?」
「ライザード殿下。これは私の考えなのですが」
「良い、言ってみろ!」
「はっ! おそらくは生徒の帰りを待っているのではないでしょうか?」
「どういうことです?」
「彼は生徒全員へ。各自で好きに行動するようにと、そう言ったのでしょう?」
「そうだ! だが、それとどういった関係が?」
「ですから、生徒達がいつ帰ってきてもいいように。また、もう一度出かけてもいいように。誰が居て誰が居ないのかを確認するため、玄関に陣取っているのかと・・・」
そっか。
本当はもう宿の中にいるのに、居ない! ってなって探し回るのは無駄だし、その逆はもっとたちが悪い。
そうならないようにする一番の手は、自分で確認することだ。
「なるほど? 筋は通っていますね。しかし、それを裏付ける証拠はありますか? なければそれは―――」
「名簿を持っていますね。ライザード殿下の名前もございますよ」
「――そうですか・・・」
ハァ・・・と更に肩を落とす殿下。
「殿下は叔父様のなにが気に入らないの? さっきはもっと立派な、力のある人間じゃないと~って言ってたのに、今度は立派だと思うところを見たら嫌がるなんて・・・変だよ?」
「うるさいですよ! 能力的には優れていても、人間的にはダメな方が、なにかと都合がいいんです! その方が利用しやすいですし、利用したとしても心が痛まないでしょう?」
「それってどうかと思うよ?」
「貴方にはわかりませんよ。大した目標もない貴方にはね」
「む! 僕にだって目標ぐらいあるよ‼」
「それが大したことのない目標だから、この僕の気持ちがわからないんですよ。そう言ったでしょう?」
「なにおう⁉」
ムキになって、なにか言い返そうと思ったところへ、
「ライザード殿下はやはり良い教師を持ったようですね」
千里眼の人が零す。
「――っ! どういう状況だ?」
「この暇な時間で装備の確認や手入れをしていますね。私から見てもわかるくらい丁寧な手付きで。それに、結構な魔法道具も持ち込んでいるようです。私などでは買おうとも思えない代物ですよ。万一の保険でしょうか」
「まあ? この僕が居るのです。当然でしょう」
「ええ。なにより、研鑽を怠らない姿勢が素晴らしい」
「研鑽・・・? って叔父様、他にもまだなにかやってるの?」
「はい。とても小さい魔法を発動しては消しています。本来、街中で攻撃魔法を使用することは禁じられていますが、これを取り締まるのは無理でしょう。無詠唱、多重起動、更には変幻自在。宮廷就きの魔法使いでも太刀打ちできません。見事な腕前です」
なんとなく、殿下が叔父様を悪くしたいものだから、この人もその味方なのかなと思っていたんだけど、全然そうじゃなくて。
しかも、こんな真面目そうな人が叔父様を褒めてくれることが、どうしてか凄く嬉しくて。
「でも、叔父様は魔法使いじゃないよ? 魔力量が少ないから」
「本当ですか⁉ これほどの腕で⁉」
「うん! 叔父様は最前線で戦うんだよ‼ すっごく格好いいんだ‼」
「それは心強いでしょうね。是非、一緒に戦ってみたいものです」
どうだ! と僕が殿下の方を見ると。
「・・・直接見たわけでもないでしょうに」
「演習の時に見たよ‼」
「所詮は演習でしょう? それも貴方のご実家で・・・そこはあの教師の生家でもあるのですから、演出だってこともあるでしょう」
「そんなことないよ! だって、叔父様はゴルドラッセと仲が悪いから‼」
「それが誰なのかは知りませんが・・・ああ! でもそうですね。同じ血を引いてるにしてはおかしなことがありました。貴方はあの教師の甥とは思えないぐらい、魔法が下手でしたね? 貴方の魔力量に問題はないはずですが―――もしや、あの教師。妾腹だったりするんじゃありませんか?」
カチンときた。
叔父様のことを僕はあんまり知らない。
でも、叔父様の話をするお父様まで馬鹿にされた気がしたから。
だから僕は―――その日、初めて友達と喧嘩した。