作品タイトル不明
説かねば
どうやら、女教師はその1日まで引率するつもりだったようだ。
それが責任だと誤解してるんだろう。
一から説明するのも面倒だから、その必要はねぇとだけ伝えて翌日を待った。
そして翌日の朝。
「本日は1日、自由行動とする。日が落ちる前に宿へ戻れば、日中の行動に関して、なにをしてても文句を言うつもりはねぇ。問題が起きた場合、この宿へ話を持ってくるように伝え、その場を後にしろ。それらの責任は学園とお前らの家名が背負う。自身の行動にはよくよく注意するように。以上だ。解散‼」
宿での朝食を終えた生徒達を集合させてからの宣言。
これをもって俺達教師も今日1日は休養日だ。
蜘蛛の子を散らすように町へ向かって走り出す生徒達を尻目に。
「そんな言葉で責任を逃れられると・・・本気で思っているのですか⁉」
などと、つまらねぇことを言い出す女教師。
「現場で子供達の安全を預かるのが私達の仕事ですよ‼ それを、貴方は――‼」
「なにを思い上がってるのか知らねぇが、俺達にそんな責任はありゃしねぇよ」
「なんですって⁉ 誰が思い上がっているというのです⁉」
「お前以外、この場に誰かいるのか?」
「私が間違っていると・・・?」
「そう言ってるつもりだが・・・わからなかったか?」
「っ! 私の、どこが間違っていると言うのでしょうか⁉」
「認識・・・だろうな」
「認識・・・?」
「まず、お前は子供達を甘く見すぎだ。アイツらのほとんどは、貴族として育てられてる。家のためにどのような態度であるべきか。どんな知識・教養が必要か。なにより、家名に泥を塗るな! と・・・そう育てられてるんだ。責任っつー言葉の意味ぐらいアイツらにもわかってる」
「だからと言って、好きにさせていいわけがありません‼ なにかあったらどうするつもりですか‼」
「下手なことを言うなよ。ここは領都だぞ? なにか、なんざ起きねぇよ。それはここの領主に喧嘩を売るだけの言葉だ。それに、子供の好きにさせてなにが悪い?」
「なにが・・・って、だから――――」
女教師は言葉を続けようと息を吸い込んだまではいいものの、なにかなんざ起きねぇという俺の言葉を思い出したのか、続く言葉が出なかった。
「・・・失敗を、するかもしれないじゃないですか‼ 子供達が‼ その時に教師である私達が側に居なければ! 問題が大きくなってしまう可能性があるはずです‼」
「だから、それのどこが悪いんだ?」
「どこがって⁉ それこそ家名を汚すことになるかもしれないでしょう⁉」
「あのなぁ・・・だから! それのなにが悪いってんだ? 責任の重さを知れるいい機会じゃねぇか‼」
「可哀そうだとは思わないんですか⁉」
「それを甘く見すぎだって言ってんだよ‼ 教師の仕事は教えることだ! それが責任の重さだったとしてもな‼」
「そんなことを教えて何になるって言うんです⁉ 辛いだけの思いをさせて、そこになんの意味が‼」
「自信に繋がるんだよ‼ 信じて、任せる。そこに意味があるんだろうが‼ 囲って、自由を与えず、甘やかしてなんになる⁉ 痛みを知らず、辛さを覚えず、どうやってその先を歩かせるつもりだ⁉ アイツらが選択する瞬間は、いつか必ず来るんだぞ? その時に、アイツらはなにを基準に選べばいい? 失敗を知らず、責任の取り方も知らねぇまま、アイツらに。さぁ選べ! と言うつもりか? その方がよっぽど可哀そうだろうが‼」
「なにが自信ですか‼ あの子達に責任を取らせるだなんて! それでも教育者ですか⁉ 貴方が楽をしたいだけでしょう⁉」
「誰がアイツらだけに責任取らせるっつったんだよ‼ 謝るのは学園だ。頭を下げるのは俺になるだろう。その姿を見て、アイツらが勝手に学ぶんだ‼ アイツらはなにも考えずに生きてるわけじゃねぇんだぞ‼」
どこまでも理解しようとしない女教師に頭が痛くなる。
それに、だ。
「お前の認識が正しいなら、お前は随分と立派な家名を持ってるってことになるな? なにせ、全ての責任を取れるんだろう? 俺の教室には皇族も居るわけだが・・・例え国家間の問題になっても、その責任を取れるってことなんだからな」
そこまで言うと、明確に顔色を変えて焦り出す。
「そうならないために監督するんでしょう‼」
「ならお前は、皇族の行動に毅然とした態度で意見できるわけだ? それが間違っているかの判断も、その責任も、当然持てるってことだよな?」
「なにを言って――・・・」
「だってそうだろ? お前の責任で皇族の行動を侵害するんだ。その行動をとらなかった結果も、お前が選んだってことになる。子供のやったことじゃ済まねぇんだから、その責任も取れなきゃ嘘だろ」
「そんな理屈が――‼」
「通らねぇとでも? 政治でも、軍でも、貴族間のやり取りでさえ、よくある光景なんだがな?」
赤、青、赤とまた器用に顔色を変えるが・・・事実だ。
だから枢密院にはご意見番が居るし、軍には参謀が居る。貴族間のやり取りに見届け人なる第3者を挟むのもそれが理由だ。
責任のありかをキチンとしておかなければ、今度はそのありかを探すためだけの無駄な時間が流れるからな。
「なんでも思い通りになるだなんて、考えること自体が間違いなんだよ」
何気なく放ったこの言葉が、遠くない未来に。
多くの人間の胸に突き刺さることになるとは、俺も全く考えていなかった。