作品タイトル不明
構わねば
「先生ー! 隣の教室の子が―――」
「先生‼ 次の町までどれくらいかかる⁉ 吐きそうになってる子が⁉⁉」
「先生~・・・お尻痛い~」
『先生、先生‼ 先生⁉』気の休まる瞬間もない。
子供の引率をしてわかったことは、子供ってのは・・・どうしようもなく騒がしい生き物だっつーことだ。
この行軍もどきは1年全体でのこと。
本来ならば隣の教室を担当する若い女教師とも協力するべきなのだろうが、
「こちらは異常ありません」
休憩などで顔を合わせてもこの一点張り。
あからさまに。
子供への対応に追われ、疲弊しているのが見て取れる表情でもそう言われるほど、俺がなにかしたってのか?
まぁ、全員の面倒を見ずに済んだだけでも僥倖だと――今なら心の底から言える。
異常がねぇって言うんだから、任せておけばいいかと10日あまり。
そろそろ限界が見え始める。
それは教師の方だけじゃなく、慣れない集団行動と自由のない生活を強いられた生徒達にも言えることで、元気がねぇだけならまだマシ。
中には泣き出して駄々をこねる生徒まで。
子供らしいと言えば子供らしいが、それをあやす術などまるでない教師にとっては地獄と言える。
そして、それが更に連鎖しようものなら目も当てられねぇ。
精神を病むどころか、擦り切れてなくなっちまう可能性もあるだろう。
日に日に枯れていくかのように痩せ細る女教師を見て戦慄する。
かくいう俺はと言えば・・・ほとんどなにもしねぇまま、ここまで来てしまった。
っつーのもだ。
今回この特別授業のために馬車を用意した商会は数あれど、1年の担当になったのはマンサ商会。
言わずもがな俺の教室にはその関係者であるエイラスが居る。
そうなれば融通の1つや2つは利いて当然。
食料の中に学友の好物を仕込むこともできれば、暇潰しの道具や旅に役立つ便利な商品だって用意できる。
それと同時に、俺の教室には面倒ごとが詰め込まれたような側面があり、上から下まで様々な爵位が入り乱れているおかげで、軍隊よろしく階級が直ぐに出来上がった。
頂点が皇族のライザードだというのは言うまでもなく、それにつられるように親の爵位が階級となって上下が決まる。
その上で爵位を持たねぇ下っ端のエイラスが、マンサ商会の力をもって雑事に率先して当たり、機嫌を取ることで円滑に生活が送られていた。
俺はそのエイラスや、同じく市民階級のジェーンなどを重点的に見ればそれだけでよく、大した手間を必要としなかった。
俺がそうできたのは、役割として護衛に徹するという姿勢を、教室の頂点たるライザードが理解したおかげだろう。
俺に頼ってもなにもしてくれはしないだろうという、ある意味での信頼を獲得することで、子供達はライザードを筆頭にして協力するようになった。
それでいて、未来の皇王を自称するライザードだけあって、その統率も悪くなく。軍のあり様を知るバロンが補佐することで形を成した。
色々押し付けられる市民階級のエイラスやジェーンには不満もあったが、
「ここでの貢献が売り上げに繋がればお小遣いが上がるの! だから、そのために頑張るわ!」
「僕のこと・・・男だと勘違いされたままじゃなくてよかったです。そうじゃなかったら、その・・・どうなってたか・・・」
正直それより優先すべきことがあったようだ。
したたかなエイラスは置いといて、ジェーンについては俺の失態だ。
武道場での授業の時に、ジェーンが女性用の防具をつけてなけりゃ一人称が僕なこともあって気付けなかっただろう。
その場合に起こっていた問題は今の比じゃねぇってのはジェーンの予測する通り。
”そうじゃなかったから”を理由に、それだけで良かったと言われるのはアレだが・・・そういえば発表の時も含みがあったな。なにか抱えてるのかもしれねぇ。
そんな状況でも。
「あ! 壁‼ ってことはあそこが⁉」
前に進めば景色も変わる。
領都セイルスルーへ到着だ。
馬車の行列を宿の前に止め、生徒たち全員を降ろして点呼。
欠員が居ないことを確認してから部屋を割り振って今日は解散だ。
もう日が暮れる。
この特別授業はモンスターの討伐。
それ故か進退管理は俺が一任されている。
「今日はこれから自由時間にするが、夕食には素早く集合すること。遅れた奴の分はねぇと思え。それと、自由時間っつっても宿からは出るな。迷子になっても探しにはいかねぇからな」
注意事項を伝達しながら考える。
ここから現地の村までは1日もかからねぇ。
隣の教室のこともあって、御者に頼んで移動速度を上げてもらったんだが、そのおかげで日程には余裕がある。
横目で確認する女教師の状態は――目が死んでるな。
「出発は明後日の朝だ。町を見て回りたいなら明日の昼にしろ。いいな? 解散‼」
僅か1日とは言え、休養できればまた違うだろう。
そう思って決定事項を短く伝達したんだが、なぜか。隣では鬼の形相で俺を睨む顔があった。