作品タイトル不明
夢を背に前を向け
早朝、冒険者ギルド。
「おはようございます皆さん。準備はよろしいですか?」
「いや、こっちの手続きが先だ」
「これは・・・? ど、どういうことですか⁉」
「書いてある通り、パーティー脱退の手続きを頼む」
書類を渡したギルド受付嬢の慌てぶりがすごい。
「ちょちょちょ‼ このタイミングで脱退って‼ S級昇級試験はどうするんです⁉ 用意するの大変なんですよ⁉ 後始末だって―――」
「それは問題ない―」
「―アタシたち4人で受けるわ」
事情を話し出す前にアンナが横から奪っていった。
「元々アタシたち4人で十分な実力だったのよ。だから試験もそのまま受けるわ」
「だとしても‼ もう一度上に確認しないと・・・」
「大丈夫。何も起こらないので」
そう言い切るクライフの目はどこまでも真剣そのものだった。
そして、それを見た受付嬢が仕方がないと早々に折れた。
「・・・・・・分かりました。それでは現時刻をもってゼネスさんのパーティー脱退を 受諾(じゅだく) します。お疲れさまでした。今後の活動についてご相談などはございますか?」
「特にないな。引退する」
「そう・・・ですか。今まで本当にお疲れさまでした」
受付嬢の礼を背中に歩き出す。
「それではこれよりパーティー” 進歩の(プログレス) 歯車(ギア) ”のS級昇級試験クエストを受注します!」
そんな声に背を向けて歩き出したんだ。
「待たせちまったか?」
「いえ、まだこちらの準備が終わっていません」
北側の門に並ぶ馬車の群れ。
その中央、特別大きな馬車の前に立つ商人と話す。
「むしろもうしばらくお待ちいただくことになりますね」
「そうか。待たせてなかったんならいいさ。で? 俺はどこにいればいい?」
急遽話を付けたものの、細かい中身まで詰めてはいなかった。
そのため、どの馬車に乗るのかなどは聞いていなかった。
「ゼネスさんは引退なさるとは言えA級冒険者なのですよね?」
「一応な。とはいえ個人でA級モンスター討伐とかは無理だと思ってくれ」
俺個人の実力はギリギリA級といったところだ。A級モンスターと1対1で勝てる相手は両手の指の数より少ない。
「それは大丈夫ですよ。護衛もつけていますからね」
「ならいいんだが・・・それがどうした?」
「いえ。でしたらこの馬車に乗っていただき、旅の話などお聞きしたいのですが・・・」
話を聞くにこの商人、冒険者に憧れがあったが才能がなかったらしく、人の 武勇伝(ぶゆうでん) だとか 吟遊詩人(ぎんゆうしじん) の 詩(うた) を聞くのが楽しみなんだいう。
「くだらない話しか出来ねぇと思うんだが?」
「それもまた一興というものでしょう」
満面の笑みで言われては断るのも気が引ける。
「商会長! 準備が整いました!」
「わかった。では予定通りに」
「分かりました!」
そうこうしているうちに、隊商の準備が終わり後はなし崩し的に目の前の馬車に誘われることになった。
「ほう! それはまさに冒険といったものですなぁ!」
「ああ。まさに、だろうな。生きた心地がしなかったよ」
恰幅のいい体を揺らし、目を輝かせる男の姿は子供の様だ。
「いやいや・・・しかし驚きですなぁ。A級冒険者ならとうにレベルは100を超えていてもいいものなのですが・・・」
はたから見れば冒険者に対して随分失礼な物言いだが、流石は商会の長といったところか、嫌味を感じさせない純粋さを 醸(かも) し出している。
「それが引退の理由でもあるからな」
「そこです! まだレベル100にもなっていないというのなら、なぜ今引退を?」
冒険者に限らずこの世界の人間にはステータスがある。
鑑定スキルをもってすればその人物の能力を大まかに知ることが出来る。それがステータスと呼ばれており、主にS+~G-までで評価する。一応、S+の上にEXがG-の下に表記不能があるが、そのあたりはギフトも絡む。
そしてそのステータス値の上昇に関係するのがレベル100という区切りだ。
個人差はあれどステータス値の上昇はレベル100で上限を迎えるといわれている。つまり俺にはまだ伸びしろがあるということだ。
逆にレベル100以降に何の意味があるのかといえば、単純に補正がかかる。同じステータス評価であってもレベルが高い方が最終パフォーマンス値が高いというわけだ。
「一緒に冒険者になった奴はもうすぐレベル300だ。俺だって手を抜いてきたつもりはないにも拘らず、な」
そう。二人でギルドに行ってギルドカードを作りステータスの更新を行った時、レベル差なんてのはなかった。
「冒険者になってから・・・・・・・長いのですよね?」
「15年ってところだ」
あれから15年余り。3倍近いレベル差はもはや才能の違いという他ない。
「それは・・・なんとも・・・・」
「引退する理由もわかるだろ?」
元気のなくなってしまった商人に笑って見せる。
もはや未練などないと、示すかのように―――