作品タイトル不明
魔法実技の授業:実践2
俺の言い訳を間近で聞いたビューティーは口元を隠しながら、それはそうですわねっ! と笑っているが、他の生徒達の反応はどうか?
期待に目を輝かせているのが数人。後はなにが起きたのかよくわからず、唖然としているように見える。
まぁこんなもんか。
貴族や富裕層でも魔法教育に力を入れているかは家庭によるしな。
もう少し理解してくれる人数が多ければ楽だったのにと思わなくもねぇが。
「今のが前時代の理想となった魔法の形だ。この後に見せる現代的な魔法の考えとは違って、魔法を小さくすることで敵の防御を貫こうっつーやり方だ。圧縮・凝縮して、効果範囲を狭めることで対応しづらくさせるのが狙いだ」
「なぜ、そのような必要があったのでございますか?」
ビューティーはその意味を理解していて、わざと俺に質問する。
他の連中にわかりやすくするためだろう。
「少し話は逸れるが、刃物がなぜ尖ってるか・・・わかるか?」
「刃物、ですの?」
「そうだ。剣でも槍でもなんでもいい。武器でもそれ以外でも。なぜ鋭く研ぐ必要がある?」
「それはその方が切れ味が良いからですわ」
「なんで鋭いほど切れ味がよくなるんだ?」
「それは――・・・わかりませんわ」
「接点が小さいからだ。接触面といってもいい」
「? どういうことですの?」
「もっとわかりやすく言おうか。拳と指先。この両方が鉄と同じぐらい硬けりゃ、人体を指で突けば刺さるはずだよな?」
「鍛錬を重ねた武道家の中にはそのようなことができる人もいると、お姉様がおっしゃっていましたわね」
「拳だったらどうだ? 殴りつけて、腕が刺さると思うか?」
「指が刺さるのでしたら、そういうこともあるのではと思いますけれど―」
「なら頭は? 頭突きが刺さると思えるか?」
「それは流石に不可能だと思いますわね」
想像するには突飛な場面だが、子供相手に望む答えが帰ってきたのだから、例えとしては上々だろう。
「じゃぁなんで不可能だと思うか・・・だが、それが接点、あるいは接触面の違いだ。指先は人体の中ではかなり尖っている方だ。言うなれば針に近い。だから突き刺さる想像がしやすかった。拳は槍っつーには潰れ過ぎてるから棍ってところだろう。刺さりそうもないが、出来なくもなさそうに思える。そして頭。これは鉄球みたいなもんだ。めり込むことはあっても、到底刺さるとは思えねぇ。その理由がぶつかる場所の形と面積。それが接点や接触面になる」
「確かに。針・棍・鉄球と並べられれば、尖っている・潰れている・丸まっているとわかりますし、範囲についても。狭い・普通・広いと区別はできますわね? ですが、それがどうして魔法と繋がるというんですの?」
「魔力障壁は自由に形を変えられる。そう言ったよな? だが、幾ら自由に変えられると言っても、魔法を打ち消すには魔法に干渉するしかねぇ。その上で、干渉する一番の方法は”押し返す”だ」
「押し返す・・・」
「そう。受け止めるってのも、現象的に言えば押し返すことと同じだ。お前らがそこらの壁を押しても動かせないのは、壁に押し返されてるからだと言える。だが、壁を壊す方法ぐらいはすぐ思い浮かぶよな?」
「それが魔法・・・ですの?」
「いや、もっと簡単に。鉄槌でも持ってくればいい。壁を壊せるだけの力があればなんでもだ。魔法にも同じことが言える。魔力障壁は壊せはしねぇが、突き抜けた分はダメージになるからな。それを効率よく防ぐには、魔法と同じ面積で押し返すこと―――」
「なるほど! 魔法が小さければ、それが難しいのですわね‼ なにより、威力が高ければ打ち消すまでに時間がかかりますわ! それ故、凝縮された魔法は防ぎにくいのですわね‼」
「そういうことだ。敵との距離が近ければ、打ち消すだけの時間すら与えず攻撃できる。そういう考えが流行ったんだ」
「ならばなぜ、廃れてしまったんですの?」
「避けやすいからだ。小さい魔法は当然ながら効果範囲も小さい。例え防げなくても、避ければ被害は出ねぇだろ? それに圧縮・凝縮した魔法は見た目こそ小さいが魔力量は多い。後から軌道を変えたりしようにも、消費魔力が多くなりすぎて割に合わねぇって結論に至った」
「それで現代の魔法はより強大に、より複雑に、より精密に、となったのですわね」
「ああそうだ。だが、この考え方が全く使えないわけじゃねぇ。さっきも言った通り、近距離なら防ぎ辛く、的もデカい。避けられねぇように連射するのもいいだろう。戦闘において手札が多いのは悪いことじゃねぇし、防ぐ側になることも見越して置かねぇと、知らなかったで死にたくはねぇだろ? だから、教えたってわけだ」
他にも、色んな考え方を教えることで、新しい何かを見つけてくれるんじゃねぇかという期待もあるが。
「・・・・・・・・・」
「どうした? まだなにか、わからねぇことでもあるのか?」
口元に手を当てて思案顔のビューティーに聞く。
「いえ、そうではありませんの・・・その――魔法を連射、できますの?」
もっと重要なことかと思ったが、そんなことか。
「できるぞ。初級魔法なら簡単なことだ。中級以上になると面倒だけどな」
それぐらいなら見せるのも楽なもんだし・・・と、ついさっき壊した魔法道具を拾いに行く。
「連射つっても、次々に魔法を発動するんじゃない。先に魔法を発動・待機させておいて、それを順番に動かすだけだ」
壊れた的を拾い上げたら脇に挟みながら戻り、いつも通りそれぞれの指先に10の初級魔法を作り出す。属性を変えれば視覚的にもわかりやすいから、ここもいつも通りだ。
それを人差し指と中指を揃えて伸ばした右手側に集め、指先から手首までぐるりと回る様に待機させる。
そうして、左手で脇に挟んだ的を空へ投げ――右手で狙って撃ち放つ。
見世物だということを意識して放った魔法は、着弾と同時に炸裂。
炎・水・風・土・雷・氷・木・光・闇。
色とりどりの爆発を見せ、最後には。
的の欠片も残さず、次元の狭間へ消し去った。
うぉおおおおお――‼‼ という歓声が上がり、やっぱりこの手の演出は受けがいいな・・・なんて、思っている横で。
「あの的って修理しなくてよかったの・・・?」
バロンが最もなことを呟く。
「・・・・・・学園長代理にどうにかさせるさ」
調子に乗って失敗するだけならまだしも、
「流石、噂になる間柄なだけはありますね?」
意気消沈していたはずのライザードに揚げ足を取られることになるなんざ、考えてもなかった。