作品タイトル不明
少年の心
「よう。2人揃ってどうした?」
「用件がなければ来てはいけないところでしたか?」
「用もねぇのに来るほど暇だったのか?」
「まさか! 冗談に決まっているでしょう」
悪びれもしない態度で返すのはライザード。
「叔父様に聞きたいことがあって来たんだ!」
素直に告げるのは甥のバロンだ。
「そちらこそ。こんな場所で逢瀬とは・・・いいご身分ですね?」
「ああそうだろう? 彼はこう見えて意外とお熱でね」
「ふざけるなよ?」
「あれ? 違うの? 噂になってたのに!」
ライザードの嫌味に悪乗りを重ねたジーナの妄言を信じそうになるバロン。
血縁としては心配になるぞ。
「噂は噂だ。真実とは限らねぇんだ。なんでも信じるもんじゃねぇぞ・・・ それと、呼び方には気を付けろ」
「授業時間じゃないのに?」
「学園の中では教師と生徒だからな。で? 用件ってのはそれのことか?」
「それこそまさかでしょう! あの発表のことですよ」
やれやれとでも言いたげに手を広げ、肩をすくめてみせるライザード。
「今になって話すことでもできたか?」
「この僕直々に教えることなどありませんよ。皇族のしきたりなど、誰かに話しても意味がないでしょう? なにかに活用でもしようものなら不敬にあたるのですからね。知らないことこそ得策たり得る」
「持って回った言い回しだな。誰の入れ知恵なんだか・・・」
「第3皇子ということはないだろうね。奥方でもないだろう。彼女も品性はいい方だ。なにより2人は忙しいだろうからね。従者の線が濃厚だろう」
「僕は意地悪な大臣とかじゃないかなって思う! お城の中で見たことあるから!」
「余計なお世話ですよ‼ それに君! バロンでしたか⁉ そんな大臣など居るわけがないでしょう‼ というかですね! そもそもこの僕が普段を過ごしているのはお城の中ではなく、宮殿です‼ 大臣とて、おいそれとは入れる場所ではありませんよ‼」
「なにが違うの?」
「城は政務を行う場所だ。宮殿はさらにその奥にある」
「そうなんだ! てっきりお城に住んでるんだと思ってた・・・」
「よくある勘違いだね。私も幼い頃は似たようなことを思っていたものだよ。今になって思えば、あれだけ広い塀の中に、お城だけしかないなんてことがあるわけがないというのにね!」
はっはっは! と3人で笑っていると。
「ふざけているのですか? 事と次第によっては・・・―――」
「ふざけてたのはお前だろう? こっちに用はねぇんだよ。質問ぐらいさっさと済ませろ」
「っ‼ いいでしょうとも‼ では、言わせていただきますがね‼ あの発表、アレになんの意味があったというつもりです? 時間ばかり無駄にして。今にしてもそうです‼ 他の教室はまだ授業を行っているのです‼ それがなぜ‼ この僕を擁する教室が、なぜ他より遅れなければならないのでしょう⁉ 納得のいく理由を述べていただかねば、とても承服できませんよ‼」
これは・・・思ってもみない追及だったな。
学習には熱心なのか?
「教室でも説明したように、今後に問題を抱えないためだ」
「この僕には必要がないでしょう‼ 時間の無駄です‼」
「なら、問題が起こる可能性を放置して、後に足を引っ張られる方がよかったか?」
「その時は切り捨てればいい‼ 王とは誰より先へ行かなければ‼」
「その後には誰が続くんだ?」
「優秀な者‼ それだけが居れば―――‼」
「それは無理だよ」
俺とライザードのやり取りを阻んだのは他でもないバロンだった。
「この僕に意見する気か‼」
「だって、無理だもん‼」
「なにが無理か‼」
「お父様が言ってたよ‼ 優秀なものはそうでないものを見て初めて、自分を優秀だと悟るって‼」
「なに⁉」
玉石混交。それは世の常だ。
幾ら選別を繰り返そうとも、優秀なものとそうでないものは存在する。
その原因は比較だ。
比べるから優劣が生まれる。
つまり、優秀な者だけを目指せば最後・・・ただの1人になるしかねぇ。
「それに、出来ることは人によって違うんだよ? 戦いに強い人でも料理は下手だったり、方向感覚が悪かったり、幽霊が怖かったりするんだ! 全部が優秀な人なんていないよ‼」
バロンの言葉には説得力があった。
それはまるで見てきたように――っつーより、見てきたんだろう。軍で。
戦闘訓練ではべらぼうに強いのに、野営では役に立たないような軍人を。迷子になって、お化けを怖がる軍人を。
ライザードもバロンの言い分が正しいことは理解できたんだろう。
心当たりがあったのかもしれない。
ぐっ! と硬くなった表情を見せた後に顔を伏せる。
「・・・・・・・・・それでも」
小さく呻くように絞り出した声を。
「それでも‼ この僕は誰より先へ行かなければならないのです‼」
掻き消すように吠え、走り去ってしまった。