作品タイトル不明
彫刻のアート
「追わないのかい?」
「他にやるべきことがあるからな」
少し間を置いてからジーナが俺に意味深な表情で問うが、それができるほど暇じゃねぇ。
この教員室も。以前と変わらねぇ部屋らしいから、どうせなら人の居ない間に調べておきたいしな。
「い、いいの?」
廊下へ向けていた視線を戻し、不安そうな表情で覗くバロンへ、
「気になるならお前が追いかけてやれ」
助言という形で提案しておく。
これについては面倒ごとを押し付けたいだけってわけじゃねぇ。
「これから同じ教室で過ごすんだ。理解は大事だって授業で教えたよな?」
「うん・・・僕、行ってくるね!」
駆け出す背中を見て。どこか懐かしく感じるのは、学園という場所のせいだけじゃねぇんだろう。
「彼が苦労するかもしれないけれど、いいのかい?」
「子供同士でしか出来ねぇ話だってあるだろ」
「君達がそうであったように?」
「どうだろうな。俺達も、仲良しこよしってわけじゃなかったからな」
「おかしいね? そうであったと、よく聞いたものだけどね?」
「大人から見ればそうだったんだろ。俺とクライフは学園ではぶつかってばっかだった」
いや、俺が一方的に絡まれていた・・・ともいえるか。
あの頃のクライフも、それはもう甘やかされていたからな。
叩きのめされて育った俺とは水と油だった。
「それより、この部屋はずっと教員室として使われてたんだよな?」
「そのはずだよ。というか、もしかして今から調べるつもりかい?」
「今が最初で最後だろ。今後は私物が増えていくだろうし、前任者を探れるのはほとんど手の入ってねぇ今だけだ」
言いながら俺は席を立ち、机という机の引き出しを開けて回る。
「部長の席も変わってねぇならここのはずだが・・・なにもねぇな」
「それはそうだろうね。一応は掃除もしてあるわけだし、前任者の私物は寮の方で保管してあるよ?」
「そっちは後で見ておくさ。そうじゃなくて、動かせないなにかを探してるんだよ」
「なんだい? その”動かせないなにか”って・・・」
「長く使うもんには愛着が湧く。その結果として癖や特徴が出る。例えば、傷跡だったり落書きだったり。間仕切りや2重底みたいな改造。使い方による変形でもいい。共通するなにかがあれば、信仰とも結び付けれるかもしれねぇだろ? 印だとかは宗教にもよく出てくるしな」
部長、副長、教員監督、学年主任、その他と。
全ての机を見て回ったが、共通するなにかは見当たらなかった。
「望福教にはそういった教義が存在しない可能性は?」
「なくはねぇだろうが、人が他人を信じるんだぞ? いるかどうかもわからねぇ神と違って、存在してる誰かを対象にする以上、疑いは出やすい。望福教にも教祖は存在してるらしいからな。だから、なにかしらはあるんじゃねぇかと踏んでるんだが・・・」
「写し絵だったりはしないかな? それならば、持ち運びも楽に出来るだろう?」
「有りそうなのが厄介だな。だとすりゃぁなにも出てこねぇ」
最後に残った自分の机に戻り、ドカッと椅子に腰かけて引き出しを引く。
なにも入ってない引き出しはあまりに軽く、雑に引き抜いた拍子にすっぽ抜け、カンカランと床に転がる。
「まったく、なにをやっているんだい? それは君に与えられた机だけれど、学園の備品だよ? 貸し与えているにすぎないのだから、もう少し丁寧に扱ってほしいものだね」
「うるせぇ。壊れたなら弁償ぐらいしてやるよ」
ジーナの小言へ適当に返しながら、椅子から降り膝をついて引き出しを拾い上げる―――その途中。
「あ?」
視界に一瞬映った境界線。
その凹凸がジーナの小言よりも、目にうるさく感じられた。
俺は引き出しを外に除け、寝そべるようにして仰向けの態勢で机に潜る。
「どうしたんだい?」
突然の俺の行動が気になったのか、ジーナが椅子をどかしてまで俺の隣に寝そべる。
狭いんだから待てよと思うが、今は目の前のソレが気になる。
「見覚えは?」
「ないね。少なくとも魔法関係のものではなさそうだ。もちろん、貴族としてもこんなものに見覚えはないよ」
「冒険者にもねぇ。っつーことは・・・」
素早く隣の机から引き出しを抜き取り、腰を屈めて覗き込む。
「どうやら当たりみたいだな」
そこには全く同じ、見たこともねぇ印が彫り込まれていた。