作品タイトル不明
取り調べ
《・・・なにが聞きたい?》
不思議なもんで、ブスっとした調子で視線をそらしながら返す子のドラゴンからはもう、威厳や風格といったものは感じられなくなっている。
その様子は不機嫌なガキそのもの。
だが、受け答えはちゃんとするつもりらしい。
「さっきまでの会話はどこまで覚えてる?」
《おおよそといったところだ。意識がなかったわけではないのでな》
「ならあえて聞くが、お前にとって世界の意思や理ってのはなんだ?」
《我が守り、導くための規範。世界にとっての正しい形だ》
「なんでそう思う?」
《そういうものだと教えられてきたのだ。我だけではない。他の龍王もだ》
「お前は自分以外の龍王を知ってるのか?」
《我だけではない。先の記憶の中にもあった》
「だが奴は加護の恩寵の話の時に――」
《それは汝の聞き方が悪かったにすぎぬ。加護を司る竜などというものを知らぬと言っただけであって、それ以外の龍王について聞かれたと思ってなかったのだろう》
「司る・・・? そういえばドラゴンにはそんな能力があるとか聞いたが、それは恩寵とは別なのか?」
《違わぬさ。我らが受け継ぐは歴代の記憶と”魔法の恩寵”。この恩寵には属性と呼ばれる種類があり、灼熱、流水、岩砕、竜巻、雷電、極光、深淵など他にも。その数だけ龍王は存在し、互いにそれを存じている。そして、我が司るは次元である》
「なるほど? それだけ私達が用いる魔法と名称が離れているということは、私たちの魔法は次元同様なにかが足りないか、あるいは間違っているのだろうね? 実に興味深い話じゃないか‼」
似たような感想を抱いていたところへ、ジーナが割り込んでくる。
「お前は休んでなくていいのか?」
「結局、私はいいところを見せることもなかったからね。誰かさんのせいで魔力こそ空ではあるけれど、体力的な問題はないよ。それに、ここには私の、私が面倒を見なければならないような相手もいないからね? 居るとすれば君くらいだ。そして、実に興味深い話をしている。遠慮する必要があるかな?」
「いわれてみりゃぁそうか・・・」
コイツは”すべては魔法の上に”というパーティーあるいは組織の長だが、今そのメンツはここにはいない。クライフ達にしろ、ジェイド達にしろ、仲間内でお互いの無事を確認しているなら、その輪に入る事もない。
ワイバーンに関しては・・・見た限り元気そうだし心配はねぇか。
「それにしても気になるね? 時空魔法と言い、なぜこんなにも差が出るのだろう? 研究者としては、まだまだ先がありそうで嬉しい限りだけれど」
《知識、能力、時間。差を挙げていけばきりはないが・・・やはり、恩寵の有無であろうよ。アレは真理に最も近いものであると、我ら竜族は捉えている。故に研鑽を積んだ記憶と共に次世代へと引継ぎ、より高みを目指すことで世界の正しい姿を維持しようとしているのだ》
崇高なる目的のために! って雰囲気を醸し出しちゃいるが、なんつーか。聞く限りじゃ暇潰しに聞こえるんだよな。
ドラゴンは恐らく、実質上世界最強の生物。
天敵はおらず、寿命は長い。
だから、どれだけ好き勝手に生きても暇になるんだ。
実際、いつどこが発祥だか知らねぇが昔っからの言い伝えにはそういった邪竜が出てくることも多い。
っつーことは、ドラゴン共が神と言ってる誰かは、ドラゴンの暇潰しに使命を与えた誰かであって、世界の創造主とは異なるって事になるんだが――。
流石にそれは想像を飛躍させすぎか。
じゃなきゃ恩寵なんつーふざけたギフトが、ドラゴンだけに偏って配られてることになるしな。
いや、ドラゴンの方が早く生息していたなら普通なのか? わかんねぇな。
「けれど、ドラゴン君はその研鑽の記憶をもってしてもゼネスに負けてしまったと・・・記憶の引継ぎが上手くいっていなかったのかな?」
「記憶だけで戦えるなら、本を読んだだけでも最強になれるだろ。覚悟と努力が足りなかったんじゃねぇのか?」
《確かに我は汝に敗したが、あまり馬鹿にしてくれるなよ? 我ら龍王は、いずれ己が死ぬことを受け入れている。記憶を継承せねばならぬのだからな。そのため、記憶も新しいものから流れ込んでくる。先代が死ぬ瞬間の記憶と継承魔法の知識からだ。故に、覚悟など問われるまでもないのだ》
「いずれ来る死と目の前に迫る死は別物だ。生きてる以上いつかは死ぬさ。それを理解していることが覚悟だと思ってるから、お前は弱いんだよ」
「それに、ドラゴン君の魔法が未熟だと言われた理由もわかったよ。基礎を知らなければ応用などできるはずもない。長く生きるドラゴンの方が強いと言われるのも納得だね。とはいっても、確かに。記憶を継承する魔法こそが一番重要なのだから、新しい順に記憶を辿るしかないのもまた事実だ。同じ研究者ならば、もっと聞きたいこともあったのだけれど・・・残念だよ」
俺達からボロクソに言われてドラゴンは唇を嚙むが、言い返せるほどの努力もしていなかったのだろう。
記憶を受け継ぐ弊害かもな。
なにもしなくとも強くなれるなら、急ぐことも、慌てることもなくただ待つ。あまりにも怠惰で教育的観点から見れば論外もいいところだが、周りもなにも言いやしねぇんじゃどうにもならねぇか。
「にしても、そんなことならもっと早く来るべきだったんじゃねぇのか? さっきまでのアイツなら、なにか答えてくれただろうに」
「そんなことはないさ。私にとっては小さなことだからね。その気になれば、自分で研究してしまえばいいだけだからね。けれど君にとってはどうだい? 君自身に大きく関わることだ。どちらがより重要か、わからない私じゃないよ?」
有難いはずの見事な気遣いが、コイツの場合どうしてだか妙に腹立たしく、俺も唇を噛むべきか迷った。