軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恥と失態

古くからの親友を捨ておいて、俺はサルベージの中心へと走った。

クライフのことはジーナが見ているだろう。

すぐに死ぬようなことはない。

散らばる町の残骸を踏みつけて、広場までたどり着いた時。

そこで見た光景は―――。

崩れた建造物。

ひしゃげた屋台。

そこかしこで倒れ伏す冒険者達。

そして。

悠然と、その全てを見下ろす仄暗い色をした厄災の姿だった。

《またか・・・・・・》

頭に直接響くような声は呆れたように呟く。

《よくも飽きぬものだな? 人間というものは・・・》

それは恐らく、俺へと向けられた言葉なのであろう。

振り返ることすらせず、ただ背中越しに告げられる。

《しかし、今一度聞こうではないか。我らは世界を担う一翼。故に寛大であらねばならぬのだ。して・・・汝こそは、理に反するものは連れて来たのだろうな?》

背筋も凍るような恐怖。

存在の違いを――今、肌で感じている。

体の大きさも、力の強さも、魔力の量も、なにもかもが滑稽に思える。

それほどの差が。確かに存在していた。

「・・・・・・・・・さぁ? なんの話だ?」

だが、それを知ってもなお、諦めるわけにはいかなかった。

こんな状況にあって、未だ倒れずにいる人物達が目に入ったからだ。

そいつらに、見覚えがあったからだ。

アンナ、フェリシア、エリック‼

何度か攻撃をくらったのか、防具がところどころ破損しているようだが、クライフの言っていた通り、時間稼ぎを目的として立ち塞がったからか、3人はまだ動けそうな雰囲気だ。

それはいい。

大したもんだと思うと同時に、だったらジェイド達は⁉ という焦燥に駆られる。

《知らぬというならそれも良いだろう。だが、我が前に立つということの意味すら知らぬは通らぬぞ?》

近くに倒れ伏す連中の顔を見回す。

それぞれいつかどこかで見た顔ばかりだが、ジェイド達は見つからない。

ここからじゃ見えねぇ位置に・・・ってなると、このドラゴンの前に立つことになるんだが。

さっきのは、背後に立つ今ならばまだ許すという意味の警告だろう。

回り込めば敵と認識され、ドラゴンからの攻撃を受けることになる。

当初の予定で言えば、それはなしだ。

会話を試み、それが失敗に終わった場合は、連れられるだけを連れえ逃げる予定だった。

敵う相手じゃないのは言うまでもなく肌で感じた。

クライフ達がまだ動けるなら、逃げることもできるだろう。

連れていける数だって多少なりとも増やせるはずだ。

それでも、全員は連れてはいけねぇ。

相手を選ぶ権利が俺にはあって・・・それならジェイド達を俺は選ぶ。

ここにいる見知った顔の連中よりも、冒険者として今までそれなりに生きてきた連中よりも、これからが気になる教え子を選びたい。

なのに、そいつらがどこにいるのか・・・このままじゃわかりゃしねぇ。

諦めて逃げる?

冗談じゃねぇ。

死を恥じろ。逃げてでも、生き残ってこその冒険者―――。

しかし、今の俺は冒険者か?

違うはずだ。

折角の誘いも断って、ここへ来たのが俺だろう。

ならば、それこそが答えだろう。

だったら、なんだ?

今の俺は。

冒険者じゃなくて、本部からの提案を蹴った以上はギルド職員ですらねぇ。

ガルバリオ皇国の上級貴族?

違うな。

捨てることこそ叶わなかったが、残していたいもんじゃねぇ。

国を護る軍の要人?

違うな。

そんなもんは冒険者になるよりずっと昔にかなぐり捨てた。

ここにいる俺は、ただ1人の男に過ぎねぇ。

地位など要らず、職すら持たず、立場にさえ縛られはしない。

ただの男だ。

男なら・・・どうする?

死を恥じて、仲間を見捨てて逃げるのか?

勝てないと諦め、生き延びたことに喜ぶのか?

違うだろ?

意地も矜持も持たねぇ奴が、男だなんて名乗れるか?

現実を見て生きていくんだと思ってた。

夢は夢で終わらせればいいと思っていた。

出来ねぇことを出来ねぇということは間違ってねぇんだと・・・。

利益を優先することこそが正しいんだと・・・。

そう思っていた。

だが、今の俺に。

「ここは俺達が作った町だ。そこへ急に現れた新参者に我が物顔で道理を説かれてもな? 知ってるはずがねぇだろ?」

抱えるものはなにもない。

かつて、これまでの人生で・・・これほど心持が軽かったことがあっただろうか?

浮かれた心につられる足取りも軽やかに、俺はドラゴンの前へ立ち塞がると、

「戦うのなら勝てる相手だけにしろ・・・ってのは、お前らの常套句じゃなかったか? だらしねぇなぁ?」

倒れ伏す冒険者達を煽る。

どうやら死んでる奴はまだいねぇようだからな。

それを考えると。もしかすれば、ドラゴンってのは優しいのかも知れねぇな? なにせ、群がる人間相手にもしっかり手加減してくれてるんだから。

などと、まるで余裕があるようなハッタリを見せたのが悪かったか、

《良かろう・・・死に急ぐものに容赦はせぬ‼》

初めて見たドラゴンの顔が、険しく、苛烈に歪んだ瞬間。

その口に膨大な魔力の集束を感じた。

ここで俺は2つの過ちを犯した。

1つは魔力の回復を怠っていたこと。

ギルド本部からジーナの研究所への移動で、俺の魔力は尽きていた。

それを忘れたまま、俺は迎撃のための体制を取った。

なにしろ、俺の後ろにはアンナをはじめ元パーティーメンバーや顔見知りの冒険者が倒れていたんだ。避けるなんざ出来やしねぇ。

そしてもう1つは、魔力を回復しようとして丸薬を取り出す時に、手が震えたせいで袋ごとそれを取り落したことだ。

圧倒的な絶望を前に、希望が掌から零れ落ちる感覚を俺はこの時、初めて体験した。

《その死を以って、我が役目の礎となるがいい‼》

――― 竜の息吹(ドラゴンブレス) 。

竜種が使う魔力の奔流。

上位種のそれは防ぎようがないとまで言われる圧倒的な威力を誇る一撃。

大きく開らかれた口からは、吸い込まれそうなほど深い黒が示された