軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

side――ゼネス10

「おい! どういうことだ⁉ サルベージは今、どうなってる⁉」

背後からの突然の闖入者に俺は、目が開けられないことも忘れて詰め寄り、胸ぐらに掴みかかりながら聞くが、

「しょ、詳細については不明です! 連絡はつい先ほど入ったばかりで⁉ ただ、サルベージからは少し距離がありますので・・・ドラゴンが現れてから30分以上は経過していると思われますが・・・・・・」

わざわざ流れ続ける血をぬぐってまで目を見開かなくとも。こいつはここ、ギルド本部の職員。現地のことなど知るはずもなかった。

30分。

本当にドラゴンが現れたなら、30分なんてのは長すぎる時間だ。

町どころか山が1つなくなってても驚きはしない程の時間。

あいつらは無事なのか――っ⁉

逸る気持ちは当然だが、それに意味がないことなどわかりきったこと。

今できることといえば・・・・・・。

「サルベージへの転移扉は⁉」

振り返り、ここの責任者へ問う。

転移扉の魔法道具はなにも1つしかないわけじゃねぇ。

その魔力反応は全部で12。さっきの攻撃を仕掛ける時に確認済みだ。

俺が使ったのはその内の1つにすぎない。

残りの中に1つでもサルベージへ繋がっている扉があれば、現地へ飛ぶことが可能だ。

こんな状態で現地へ行って、なにができるかは今考えるべきじゃない。

できることなどなかったとしても、居ても立ってもいられねぇんだ。

「サルベージはここから比較的に近い。だから直通の扉は存在していない。あそこはこの本部の直轄地だからな。私ならば、急げば1時間足らず・・・どうしても優先度は低くなる」

だが、残念なことに話にならねぇ。

「直轄地だからこそ、緊急時のために用意しておくもんじゃねぇのか? 裏にある12の転移扉は、それぞれ12人いるS級にあてがってあるんだろ? だったらてめぇの分はサルベージに繋げておけよ‼」

「私にはこの集合国の運営もある‼ 国家を経営するために必要な場所と繋げているのだ‼ 貴様にとやかく言われることではない‼」

「そう言って、今回の件が済んだ後てめぇは。もし転移扉をサルベージへ繋げておけば・・・なんぞと言うんだろうさ! 冒険者に”もし”なんざねぇんだぞ‼」

「っ‼⁉ なにを言うかと思えば! 誰がドラゴンの襲撃など予想できる⁉ そんな異常事態にまで目を向けて、低い可能性にかけて大事な判断をしろというのか‼ 貴様は‼」

「言ったはずだ。冒険者に”もし”なんざねぇと・・・どれだけ可能性が低かろうが、そうなった時の対処法まで考えて行動するだけだ」

未知に挑むとはそういうことだ。

思いがけないようなことがあったとして、その度に『あーなると思った』『こうなるはずだった』などと、言ったところで時間の無駄なんだ。

なにを守り、なにを捨て、どこまでを許容するのかを初めに決める。

「それを俺に教えたのは・・・」

俺は言い訳をするギルドマスターの隣にいるはずの自称師匠へと向く。

「・・・そうだね。仮に、今回のことでサルベージがなくなって、そこにいた冒険者が全滅していたとしても、全てはヴィーちゃんのせいさ。あそこがギルド本部の直轄地で、その責任者がヴィーちゃんである以上。解決までに払われた犠牲は許容の範囲でなくちゃいけない」

「なにをっ⁉」

「それが責任者の務めだよ。僕はそれが嫌だからギルドマスターなんて椅子に座らないのさ。君がそれを違うというなら、ジーナ君・・・だったかな? 彼女をS級に誘った時、本人の希望でS級へ昇格させない代わりに当時研究中だった転移扉を召し上げさせたあの時に。国とギルドを天秤にかけるんじゃなく、両方を取って13組。あるいは予備も含めてそれ以上を要求すればよかったんだ」

そうだ。

必要だと思うなら、それだけの数を用意すればよかっただけだ。

それをできる立場にいるんだからな。

その言葉を聞いたギルドマスターは苦虫を嚙み潰したような声が聞こえる。

自分に有利な交渉で、しかしその実。自分の望みを叶えきれていなかったことが後からわかれば、まぁそんな呻き声も出るわな。

にしても、そんな取引までしてやがったのか・・・あの変態。

色々と鬱陶しい所も多いが、ジーナの奴は間違いなく優秀で天才なんだな。

「そんな話・・・今はどうでもいいだろう。まずは応援要請に答えるべきだと、俺は考えるが?」

一拍遅れてパチモン騎士が立ち上がりながらなのか、ガシャガシャと金属音を伴いながら言う。

「ここでなにを話してみたところで飛んでいけるわけでもない。心配すればこそ急ぐべきだと思うがな?」

確かにこいつの言うとおりだ。

とはいえ、こいつにそれを言及されるのも釈然としねぇがな。

いや・・・? ―――・・・飛んで?

パチモン騎士の提言から慌ただしくし始めるギルドマスターと職員たちを横目に。

俺は俺自身と向き合う。

開いた掌には、未だに魔力が残っている。

僅かにではなく、溢れるほどに。

これは転移扉から吸い上げた魔力。

ワンダーゴーレムと戦った時にはマジックバースト・・・つまり俺の唯一の大砲を撃とうとした瞬間に、また魔力が転移門に奪われる形で吸われ、結果として俺は気を失った。

だが、今この瞬間にそれは起こらず。

加えて、俺の体にはさっきまで転移扉を機能させていたであろう魔力が残っている。

幸いにも瞼を閉じているからだろうか?

冴えわたる感覚の中に。

11の反応とは別の、けれど似たような反応がある。

1つは遠い北に。6つ? いや8つか? いくつかが固まって、さらに遠くの北へ。

そして、さらに感覚を研ぎ澄ませば、遥か遠くの北に1つと。気が遠くなるほど遠くの北にまた1つ。

いけるか?

確かジーナの研究所にはサルベージへの扉があったはず。

北の一番手前にある反応がそれか!

つっても、俺はそこへ行ったことがねぇ・・・・・・。

魔法は想像だ。

距離を無視して2つの場所を繋げようと思うなら、それ相応の正確な情報が必要になる。

だったら、目指すべきは研究所の方だ。

入り口側には扉がある。

干渉すると空間を繋げられねぇかもしれねぇから、狙うのは出側。

1つはアイツの部屋の入口。

1つはアイツの部屋の左奥。

1つは1階へと続く帰り階段の終わり。

選ぶなら入口だな。

よく思い出せ。

部屋の形。広さ。匂い。置いてあったものまで、全て詳細に。

こんなことになるんなら、もっとまじまじアイツの部屋を観察してりゃぁよかったな。

そんな趣味がなかったせいで置いてあった家具や大量にあった魔法道具はほとんどがあやふやだ。

こんな状態で大丈夫か? と不安に駆られるが仕方ねぇ。

あの部屋に残ってる魔法道具の魔力を辿って補強できるか試してみたが、流石に遠すぎるようで反応を拾えない。

じゃあなんで転移扉は―――となるが、転移扉は俺を基に研究した代物。相性がいいとかそういう都合があるんだろう。

これ以上が無理なら、もうやるしかねぇ。

想像しろ。

あのカーテンの向こうを。

今ここにある現実は、あの部屋の入口に吊るされたカーテンに映る景色にすぎない。

その端を。この手に取って。開いてみせれば変わるはず!

「なんだ⁉ この感じは―――っ⁉⁉」

「ちょっと! なにしてるのかな―――‼⁉」

「バカな‼ こんなことがあるわけが―――‼‼」

雑音は聞こえない。

踏み出す1歩に音はない。

だが、確かに・・・。

気配は違う。

そう思った瞬間、

「なっ⁉ 誰だぃ⁉⁉」

バシャッ‼ という水音と共に誰かが動く音と声が聞こえる。

ギュゥウ! というなにかが擦れる音と、ビチャビチャという水の滴る音もだ。

それらの音がこう・・・くすんでいるというか、くぐもっているというか。

そこまで考えて思い出した。

部屋の奥にあるカーテンの向こう側は―――風呂だと。

そう言っていたなと。

どうやら・・・移動は成功したようだが、狙いは外れたらしかった。