作品タイトル不明
生ける伝説
「おい! そっちはどうだった⁉」
「どうもこうもねぇよ‼ 瓦礫の山だ‼」
「こっちもだ‼ もっと人手を回せ‼」
「どこも手一杯に決まってるだろ‼ 撤去作業は後だ‼ 物資を集めろ‼」
「埋もれちまった奴は⁉」
「運がよけりゃ生きてるさ‼ 商人連中じゃねぇんだ‼ ここまで来た冒険者なら自分でどうにかできる‼」
潰された建物の周りで、怒号と共にあらゆる指示が飛ぶ。
「怪我人はこっちだ‼」
「薬品は中身を確かめてからだ‼ 混ぜると危険なものもあるんだぞ‼‼」
「治療がすんだら食料品を運ぶのを手伝ってくれ‼ 商人が馬車を出してくれてる‼ 避難所にも物資を届けるんだ‼」
「素材なんて放っておけ‼ 今持ってても使い道なんかねぇだろ‼ 命があってこそだ‼」
「そっちはダメだ‼ 瓦礫が道をふさいでる‼ 台車を使うならこっちから回って行くしかねぇ‼」
それぞれが考えうる最良を口に出し、お互いがそれを信用し助け合う。
霊峰アドレスの攻略へ足を踏み入れれば、常に命は危機さらされている。
そんな状況だからこそ、ここにいる冒険者達はそういった危機に瀕しても、協力し合える関係を作っている。
傷ついたものを助け、必要なものを集め、情報を周りに伝え、行動に移す。
そうして、一瞬にして大きく変貌したサルベージの町から、多くの商人と怪我を抱えた冒険者たちが離脱していた。
「にしても・・・なんで、あんなのが⁉」
その原因は、突如として空から現れた伝説ともいえる生物。
――ドラゴンだ。
「言うだけ無駄だ‼ そんなこと‼ 誰にもわかりゃしねぇんだよ‼」
この期に及んで泣き言など聞きたくないが、そう思うのも無理はない。
なぜなら、このドラゴンはただ羽ばたいただけなのだ。
翼をはためかせた―――ただそれだけで、昨日までのサルベージはなくなってしまった。
なにを思ってそんなことをしたのか、その場にいる人間にはわかりようもない。
ただ降り立ち、気まぐれに翼を動かした。
たったそれだけ。
それだけで正面にあった建物は吹き飛び、余波を受けた周りの建物も半壊。
救いは今のところ死者が出ていないということのみ。
いったい誰が考える⁉
確かにサルベージではこの季節。
空を横切るドラゴンの姿を遠く眺めることはある。
遥か遠く、雲の上を飛ぶドラゴンの姿をだ。
だが、
だがしかし、
そんな雲の上の存在が、目の前に現れ・・・ましてや、意味の分からないことを言ってくるなどと‼ 誰が⁉
《理に反するものを連れてこい‼》
深く。腹の底へと響くような重い唸り声。
それと共に頭に響く謎の声。
皆、それがドラゴンの声であることは察していた。
否。そうでなければ、こんな事態の時に盛大にふざけた奴がいたということになる。
誰も、そんな可能性を追いたくはない。
だから、それをドラゴンの声だと認識していた。
認識してはいたが、意味はわからない。
理に反するとはなんだ?
ものとは人なのか、物なのか。
連れてこいということは人なのだろうが、生憎そんな存在に心当たりなどない。
誰にもない。
だというのに!
《なぜ、誰も答えぬ? まさか、庇い立てしているのか?》
ドラゴンは勝手な思い込みで怒りをこみ上げる。
しかし、こんな状況で”そんな存在は知らぬ”と伝えたところで火に油。
元より誰も。会話が成立するとさえ思ってはいない。
《よかろう。その気ならばすべて破壊するまで・・・そうすれば見晴らしもよく、探し易いだろう。居なければまた、別の場所を探そうではないか》
けれど。
だからといって。
無視をしても、なかったことにはならない。
都合よくお帰り願えるはずもない。
ドラゴンの体躯が大きく揺らぐ。
――もうダメだ‼
いくつもの瞳が閉じられるその瞬間。
光を遮り飛び込む黒の弾丸。
だが、中らず。
弾き返されたそれを見て、動きを止めたドラゴンが言う。
《いつかの思い上がった愚か者か・・・あの時に取り留めた命。こんなところで使おうというのか?》
「グギャアァアアアアア‼‼‼」
そこにいたのは全身傷だらけのワイバーン。
昔。ドラゴンにさえ喧嘩を売ったという噂は、どうやら本当だったらしい。
それでも、希望というにはあまりに乏しい。
微かな光は絶望をより濃くする。
このワイバーンが倒れた時こそ、この町・・・・サルベージの終わりだと。
誰もがそう予感していた。