作品タイトル不明
手練・修練・試練3
黙って見てろと言われたからには、そうしてやるのが務めか。
下手をうてば大怪我を負うことになるが、あの翼竜にしても。俺に出来ることぐらいは知っている。
本気ではないとはいえ、過度な手加減はしないだろう。
最後なんだからと、もっと色々口を出したいな気もすれば、なにも言わずその実力を見たい気もする。
なんとも言い難い心持ちのまま、試練は始まる。
盾を構えたジェイドが正面に居座り、傍らにはキューティー。
少し離れて後方にエイラ。
さらにその後ろをケイトとリミアの魔法組が陣取る。
ヨハンだけは浮いた位置で常に移動しながら、時には姿を隠しながら隙を探し、作るために仕掛ける。
いつか教えた陣形と戦法。
けれど、その練度に。いつかの影など落ちてはいない。
翼竜の噛みつきや、腕から羽にかけての連続攻撃にも、ジェイドは怯まず防いでみせる。
そんなものはすでに見てきたとでも言うように。
吹き飛ばされないどころか、弾き返す勢いだ。
そこを狙って、キューティーとヨハンが別々に攻撃を仕掛ける。
羽先、爪先、尻尾の先。
削り取るように、掠め取るように。
慎重に、着実に。
翼竜がそれをやめさせようと大きく振りかぶれば、ケイトが先手を打つように素早い魔法で動きを諫め、リミアが防御以外を許さない威力の魔法で押し潰す。
リミアの魔力を大量に消費して生み出されたデカくて重い水の球。
そこから水が流れるわけでもなく、吹き出すわけでもなく、ただ頭上から迫り、分裂することもなくのしかかる。
そんな魔法を鬱陶しく感じた翼竜が水の球を切り裂き、飛び散る水滴を纏いながらジェイドを飛び越えようと地面を掴むが、エイラはそれを見抜き、一声で部隊の間隔を縮め、密集することで着地場所を失くさせ、踏み切らせない。
それらを支えるのはケイトの強化魔法。
まだ粗さは残るが、魔力量を考えれば効率など気にしなくてもいいんだろう。
羨ましい限りだ。
気になることがあるとすれば、ヨハンの様子か。
いいところを見せようとしてるのか、落ち着きがない。
あるいは、全部を出し切ろうとでも思ってるのかもしれないな。
俺がじっくり見てやれるのは最後の機会だから。
だが、そういうのは失敗のもとになる。
なにより、戦いの後のことも考慮して余力は残せって教えて来ただろう!
そう言ってしまいたいが・・・俺自身、それが出来ていたとは思わない。
思わない以上、強くは出られねぇし、今は黙ってみていることが俺の役目。
それを気にするのは俺じゃなく、全体を指揮するエイラの仕事だ。
エイラの空間把握能力は昔から比べると随分と磨かれた。
これは格闘を教え込んだおかげだ。
踏み込みや飛び退きの距離を基準に、どこまで届くのかを認識できるようになった。
今ではそのギリギリを保っていられるほど。
ジェイドとの距離、ケイト、リミアとの距離。そしてなにより、ヨハンとの距離。
ヨハンやキューティーが仕掛ける瞬間、ジェイドのより近くでサポートするのか、ケイトやリミアと共に移動するのか。
その判断をエイラが担う。
敵の行動を観察し、隙を見つけ仕掛けるのか、防御を崩して隙を作るのか。
逸るヨハンに合わせるのか、焦るヨハンをたしなめるのか。
ここでの選択が戦況を決定付けることになる。