作品タイトル不明
side――ケイト2
「自殺・・・か。そうか。すまなかったね」
意外なことに、まず初め返ってきたのは謝罪だった。
「どうして・・・ジーナ様が謝るんですか?」
「彼の態度が良くないものであったのなら、それは私の責任でもあるから・・・かな? それが君を苦しめたのであれば、私も謝るべきじゃないかと思ったわけさ」
「ジーナ様の、責任?」
「そうだ。人になにかを教えるというのはね。難しいことなんだ」
「それは、なんとなく・・・わかります」
ゼネスさんを長く見ていたから、今ならその言葉の意味がわかる。
特に、ゼネスさんの故郷での出来事を知っていれば、尚更。
「そして・・・それは時に、態度にも言及しなければならないことなんだ」
「態度にも・・・?」
「君は。頼りない言動や、自信のない表情。泳いだ目をしたものの言葉を、信じようと思うかい?」
「たぶん、疑うかと・・・」
「そうだろう? 例えそれが合っていたとしても、間違っていたとしても。ハッキリとした態度でなければ信じるに値しないんだ。だから、私達は常に歴然とした態度を取る。聞く者に不安を与えないために。そして、そうするようにと。昔、彼にも教えたことがある」
「それじゃあ・・・」
「彼がそういう態度であったなら、私も責められるべきということだね」
どうだったかな?
不安そうだったり、頼りなさを感じたことはなかった・・・と思う。
というよりも。
そう、偉そうだった。
ゼネスさんの態度は尊大だったように思う。
「偉そうだった、か。それもまぁ、仕方のないことだとは思うけれどね?」
「どうしてですか?」
「私達の生まれを考えてみたまえ。そうしなければならない事情も、分かるはずだよ?」
ジーナ様は・・・確か公爵家。
しかも今は当主に在らせられる。
だったら偉そうなのは当然。
でもゼネスさんは、辺境伯家といっても次男。
そして冒険者として家を飛び出している身。
本当に、そうしなければならなかったのかな?
「ふむ。疑問に思っている顔だね? けれど、その答えはたぶん。身近なところにあると思うよ?」
「身近、ですか?」
「ああ、そうとも! 身近・・・というより、君自身。あるいは、君達全員に、かな?」
「私達に・・・?」
原因の心当たりがあるとすれば、ジェイドの態度。
確かにあれは良くなかった。
だから・・・?
でも、その後には蟻の事件があって・・・わだかまりはマシになったはず。
「君達が全員で何人なのか。彼がどれだけの面倒を焼いているのか。私は知らないけれど・・・そんな私にも、わかることがある」
「わかること、ですか・・・?」
ジーナ様は優しい顔で頷いて、
「君達は全員が貴族なんじゃないのかい?」
知るはずのないことを言い当てる。
「どうして・・・?」
「ああ! 君がいない間に君達について聞いたわけじゃないよ? 私達は研究に没頭していた。その結果、彼は倒れてしまっているから証明のしようはないけれど。むしろ、それだけの研究をする過程で、関係のない話を長々とするか・・・というのを、軸に考えてくれると助かるね」
「い、いえ! 疑ってはないです! でも、どうしてそんなことがわかったんですか?」
「私達の関係について君に教えた時。彼が言っていたね? 物事には理由がある、と。つまり、彼は意味のないことをしたがらない性なんだよ」
言われてみれば、そうかもしれない。
どんな時も合理的というか、効率を気にしていた。
「だから、そうしなければならない理由はあったのだと考えられる。であれば、その理由とはなにか――可能性だけなら幾らでもあるが。現実的なところでいくと、教え子がもれなく貴族である場合が一番可能性が高い。君達は皇都から来たと言っていたからね」
「確かに、私達は貴族の出自です、けど・・・それだけで?」
「それだけなら、もっと砕けた態度だっただろうね。ゼネスはあれで堅苦しいのが嫌いだからね。けれど、そうじゃなかった。となれば、君達の親になにか約束でもしたんじゃないかな? それを君達が知っている通りは――って、心当たりでもあるのかい?」
ある。
凄くある。
蟻の事件の後。ジェイドのお父様とお話をして、私達全員の親が私達のことをゼネスさんにお願いしている。
そっか。
すっかり忘れてたけど、状況的には爵位を持たないゼネスさんへ男爵・子爵・伯爵が連名で命令しているようなもの。
それなりの態度になるのは仕方ない。
どうして・・・、どうして忘れてたのか。
それを棚に上げて、私は・・・⁉
「今さら気を落としても仕方ないんじゃないかい? 君の身体は無事だったし、彼も御覧の通りだ。過ぎたことなんだろう?」
それは、そう・・・かもしれない。
でも。
だったら、せめて。
「どうしたら・・・そういう。態度と、気持ちの違いが・・・わかるようになりますか?」
それが知りたい。
お互いを深く理解し合う方法を。
私は他人の態度に怯えていた。
学園時代も。怖がって、塞ぎ込んで、遠ざけた。
それを笑われているみたいで、近付けなかった。
ジェイドやキューティー、エイラが仲良くしてくれるのは、小さい頃に、社交界で私を誘ってくれて、そこからの責任みたいなものだと思ってた。
だから、私も断っちゃいけないんだって。
断ったら今度は私が・・・って。そう思ってた。
でも。
そうじゃないなら?
それがわかった時、私は――
「どうしたら・・・か。そうだね? だったら、目を見つめることさ」
――?
目を、見つめる?
「試してみようか? さぁ、私の目を見たまえ!」
出来るわけがない‼
「そんなことっ⁉」
「ふっふっふ! けど、わかりやすいだろう? ほら、目の動き。瞳孔の開き。目の潤い。感情の多くは目に現れる! 今の君からでさえ、緊張や恥じらい。困惑に動揺。畏れの中に隠れる敬いの心だって見て取れる!」
「む、無理です‼」
「なに。練習すれば大丈夫だ! さぁ、こっちを向きたまえ‼」
この日私は。
憧れの人に追いかけ回されるという・・・とても貴重な体験をしました。