作品タイトル不明
迷えない道
ガバッ! っと振り返りながら立ち上がろうとして、
「すまないんだけど、その話。詳しく聞かせちゃくれないかい?」
動きを止めた後、ソファに座り直した女が聞く。
後ろの間仕切りの向こう側がどうなってるのかは知らねぇが、そっちへ行こうとしてやめたってことは・・・落ち着こうとしてるのか。
今すぐに動いたところで仕方がねぇと、そう考えたんだろう。
「詳しくって言われてもな。さっき言ったので全部だ。やけにガタイのいい連中が軍学校の前で行列を作ってた。俺達はその理由が気になったからここへ来た。ここの存在は途中に寄った酒場で聞いた」
「どういうことだい? それでどうして移民のことまで?」
「連中、ガタイは良かったが、それ以外があんまりだったんでな。どっかから流れてきたんだろうってのは一目でわかった。それであの人数だろ? 受け入れられる場所なんざ限られてる」
ここじゃなけりゃ後は領主が直接受け入れている場合だが、だったら軍学校の前に行列なんか出来てるはずがねぇからな。
まとめて中で訓練してるだろうよ。
「そこへ通路の洗濯物ってこと?」
「まぁな。あれは仕方なくってことなんだろ? 表には干せねぇから通路に干した」
「・・・・・・・・・」
まとめ役を名乗った女は答えないが、それは肯定しているのと一緒だ。
「どういうことかしら?」
代わりに、状況がわからねぇエイラから疑問の声。
「軍学校の行列は見たな?」
「ええ、そうね?」
「あいつらの雰囲気はどうだった?」
「明るくはなかったかしら・・・」
「つまり、受け入れを拒まれたってことが予想できるよな?」
「まぁそうなるわね。じゃなかったら、もっと雰囲気が明るいはずだもの」
ここまでの話は簡単だ。見たままだからな。
問題はここから。
「軍学校は当然だが軍が管理している」
「それはそうでしょうね? 行ってしまえば軍の下部組織なわけだし」
「なら、その軍を管理してるのは誰だと思う?」
「その領地の領主様なんじゃないの?」
「ここはちょっと特殊だが、大抵はその通りだ。領軍って呼ばれるところは全部がそうだな。じゃぁ、そこへの出入りを断られるってことは・・・どういう意味になる?」
「それは・・・領地の中に住むなってこと? でも、それはおかしいんじゃない? 軍では受け入れないだけで、他の・・・それこそ商人とか冒険者になれば――」
「酒場での会話を聞いてなかったのか?」
軍に入るものは商人や冒険者になれなかった者達だ。
「それって他の場所から流れてきた人達にも当てはまることなの?」
「当てはまらねぇはずがねぇだろ。むしろ、他に選択肢がねぇって意味じゃドンピシャだ」
商人になる為に必要なのは、物の価値を見定める目でも、相手をその気にさせる会話術でも、最低限の読み書き計算ですらねぇ。
一番必要なのは金だ。
まず商品を買わなきゃ始まらねぇからな。
そして、冒険者に必要になるのは力と覚悟。それさえあればギルドに行くだけで冒険者になれる。
だが、連中はそれを選ばなかった。選べなかった。どっちか、あるいはどっちもが足りなかったからだろう。
だから、保障を欲しがった。
ここで暮らしていくための保障。
そのために軍に入隊しようとしたんだ。
軍にさえ入れれば、生活は安定する。
最低限の食事。最低限の寝床。最低限の収入。
軍人にはそれらが雇い主によって保障される。
だが、
「ここの領主は昔から、帰属意識が高けぇことで有名なんだ。自分の立場や役目をいつも気にしてる。法律に厳しく、行動は迅速。連中がよそ者だってことは、同じくよそ者の俺にも直ぐにわかったんだ。軍の関係者なら一発だろう」
領主はそれを断った。
断ったからにはそれなりの理由があり、それなりの理由があるなら動くという確信になる。
南側には霊峰が望む辺境。国境を越えて侵入してくるのは、そのほとんどがモンスターだからか、あまり知られちゃねぇが・・・国境を預かる辺境伯であることに変わりはねぇ。
その締め付けは北も南もそれ相応なんだ。
「ここの床がなんで砂地なのか、わかるか?」
「なによ? 急に」
「壁が荷物で天井が布なわけは?」
「そんなの知るはずないじゃない」
「――全部。言い訳のためだ」
「言い訳・・・?」
「ここは建物じゃないです。ただ荷物を置いてるだけですっていうためのな」
「そんな言い訳になんの意味があるのよ?」
「粛清を避けるんだよ。町を覆う壁の向こう側とはいえ、ここも辺境伯領の中。領地は領地だ。勝手に家や建物を増やされるわけにはいかねぇ」
領民として住まわせるなら、領主にはそれを管理する責任が発生する。
その代わりとして、領民は税を納める。
だが、貧民街にはそれが出来ねぇ。
だから、言い訳が必要なんだ。
「ここが瓦礫町って言われてるのも、家じゃなく瓦礫が積みあがってるだけって言い張ったからだろう。家の出来が悪いのも、キッチリ作ると粛清対象として取り締まられるから」
「もし、それが本当だとするなら・・・この後はどうなるのかしら?」
「・・・言うまでもない。一斉摘発が始まるだろうね」
俺の代わりに答えたのは、ここまでずっと黙っていた女だった。